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オーダースーツのヨシムラ
スーツスタイルあれこれ
 スーツのルーツ
皆さんが素敵だな、カッコ良い!と思うデザインのスーツはどんなスタイルですか?
 ブリオ○ニ? ポールス○ス? ブルッ○スブラザーズ...
色々とあるかと思いますが、皆さんそれがどんなルーツのスーツか本当にご存じでしょうか?

この問いにキチンと答えられる人は多分いらっしゃらないと思います。

もちろんプロを自称する私共オーダー界の者でも、自らのハウスモデルについては語れても他のブランドについては厳密には語れません。
それだけ昨今は情報が多くなりお互いがお互いを影響しあっているからです。

そこで、ここでは一般に言われるスーツデザインの大きな流れをご紹介したいと思います。
これから書くことも当社なりの見解ですので、参考程度としてご覧下さい。

ブリティッシュ

スーツのルーツを辿るとやはり行き着くところは英国。

それだけ歴史・伝統は長いのですが意外と現在のスーツの形になったのは20世紀初頭位からでした。(それ以前はフロックコートやモーニング等が中心で現在のスーツはインフォーマルだった。)
しかし、英国はスーツのみならず近代的な紳士服飾全てを生み出した地であり、世界中のその後のメンズファッションは全てこれを模倣した物と言っても過言ではありません。

そして代表的な英国調デザインの特徴は次の通り
精神
スーツは特定階級の『 仲間の一員 』を表すという考え
 ※補足: イタリアンと比較すると分かりやすいですが、スーツ=ビジネス=ビジネスをする仲間同士の衣裳という発想で、例えるとラガーマンがお揃いのブレザーとお揃いのレジメンタルネクタイを着用するのはこの典型的な発想です。

具体的な特徴
○ 胸の力強さを強調
英国調スーツの特徴には肩幅がタイト目、襟巾小さめ、ウエスト絞りがタイト等の具体的特徴がありますが、その全ては胸の厚みを強調することで男性的な力強さを表現するためのものです。

○ 肩幅がタイト目
胸の力強さを強調するため肩幅はきつくならない範囲でタイト目にカチッと仕上げるのが英国調。
つまり肩・胸・ウエスト絞りの中で肩を小さくすればその分胸の厚みが相対的に目立つのです。

○ 襟巾小さめ
サイズの合わない襟巾の細さは論外としても、やはりこれも胸の厚さを意識的に強めるための所作。

○ ウエストの絞りがタイト目
高いウエストポイントと共にウエスト絞りが強いことも英国的デザインの大きな特徴。
現在のイタリアンスタイルも確かにウエスト絞りはタイトですが、英国デザインの目的はあくまでも胸板の厚さを表現するためのものです。

○ 色柄が保守的
上述の精神のもとに着用する英国調スーツでは、スーツの色柄はあまり独創的な物や奇抜な物は求められません。
一般的なのは
ダークブルー
(濃紺)や
ダークグレーをベースとした物。つまり普段私達が一番買い求める色柄です。
ごくごくベーシックな中に真のジェントルマンが宿る、しかしその精神は奥が深く、素材への探求心や仕立てへのこだわりは忘れてはいけません。

○ 特徴的ディテール
・シングル3つ揃え
・ハッキングポケット
・白のシャツ
・チェック柄(グレンチェックなど) 
・サスペンダー
・ストレートチップの靴
・ダブルブレスト
・チェンジポケット
・ツイード(素材)
・ピンストライプ柄
・帽子


イタリアン




英国調スーツが現在のスーツのルーツだとすれば、それを大きくファッションという文化に育て上げたのがイタリアのスーツ界。
ブリオーニ、KITON、カラチェーニをはじめ世界中のVIPから高い評価を受けています。
そしてその特徴は・・・
精神
イタリアンスタイルの精神は一言で言うと『 個の強調 』『自分らしさ』『エレガンス(リラックス)』
英国的な精神がお堅い「集団への帰属意識」だとすると、イタリアンスタイルは集団に埋没しないための個のアピールを重視します。
それ故、英国調スーツがデザイン・ディテール等一辺倒に偏る中、個を尊重するばかりにイタリアンデザインは数々の変遷を果たし、そこから新しい技術や素材が生まれてきているのです。
現在テーラリング技術・創造力の全てでイタリアンスタイルが世界を席巻しているのはこういった精神のもとで、日々研鑽しているからに他なりません。

具体的な特徴
○ 男のセクシーさを表現
イタリア人は人前で格好付けたがる、その行き着く先は女性同様『セクシーさ』
これは何も悪いことではありません。
デザインには時代や年により流れの変化がありますが上述の精神の中で、大きな特徴となるのがセクシーさです。

○ ヒップラインの強調
セクシーさを出す上ではバストのない男性はヒップラインの強調でこれを表現します。
このため、イタリアンスタイルでは比較的着丈が長めです。

○ 適度なウエストの絞り
同様にセクシーさを出すためウエストの絞り(細さ)も重要で、ウエストを絞るからこそヒップラインの豊かさが強調されます。
ただし、男のセクシーさという底流はあるにせよ、その表現方法は時代によって変わるため、一時期のアルマーニのように、ダボダボっとしたものが好まれる時代もありますので強いウエスト絞り=イタリアンスタイルという訳ではありません。

○ 高級素材の多用
ブリティッシュ調の素材は男の力強さを表現するためどちらかというと、しっかりした素材を使用するケースが多いのに対し、男のセクシーさを出すイタリアンスタイルでは(温暖な土地柄もあって)薄手のしなやかな素材を使用するケースが多いです。
柔らかな、ともすると非常に縫いにくい素材を使いつつ、着用すると肌に吸い付くような触感、柔らかなドレープ性が表現できるそんな素材がイタリアンスタイルの特徴です。
ただし昨今は物流もワールドワイドですからどこでも高級素材は手に入ります。

○ 高い縫製技術
伝統に裏付けられた英国調の縫製が劣っていることは決してありませんが、デリケートな細番手の素材を優先して縫い、細かなディテールを生み・育て、はぐくんできた技術力は次のようなアイテムでその真価を発揮しています。

○ 特徴的ディテール
・バルカポケット ・超細番手素材での仕立て ・優しいドレープライン

クラシコイタリア協会がメンズスーツの世界を技術的に牽引しているのはこの高い技術があるからこそです。


アメリカン
アメリカントラッドもその源流は英国です。
民族的ルーツがイタリアより近いため英国の影響は強いです。
また近年になって、黒人系やカリフォルニア系ファッションも登場していますが、この辺が英国移民だけでなく人種のるつぼであるアメリカらしいところではないでしょうか?

いわゆるアメリカントラッドの特徴は次の通りです。
精神
アメリカ的合理主義
何事にも合理的なアメリカ人はファッションについてあまり価値を見いだしていないのかも知れません。
それが証拠に、ファッションの世界では世界をリードしているアメリカ企業は多くありません。
しかし、逆にこれがアメリカンデザインの特徴ともいえます。

具体的な特徴
○ ウエスト絞りが甘い
英国・イタリアの両スタイルの特徴はウエスト絞りが強めであることでしたがアメリカントラッドではこれが全く正反対です。(黒人系ファッションは除きます。)
ウエスト絞りを作るダーツを入れない物が多く、一言で言うと『寸胴(ずんどう)』です。
しかし、これが「着やすいから良い」と言えるのがアメリカントラッドの特徴なのです。
痩せっぽっちが多く、胸に力強さを出したくても出せない日本人が多い中、黙ってても体格が良くスーツを格好良く着用できるアメリカ人ならではなのかも知れません。

○ ナチュラルショルダー
肩のショルダーラインで比較すると英国調スーツはカチッとしたコンケープド風デザイン。
一方イタリアンスタイルではパッドを入れない仕立てなど軽いデザインが多い中、アメリカントラッドではナチュラルショルダーといって、肩があまり怒らない(上がっていない)デザインが多いのが特徴です。

○ 特徴的ディテール
アメリカントラッドの特徴的なディテールは次のような物です。
Wall Streetの金融マンをイメージするのが分かりやすいかも知れませんね。
・胸ダーツなし
・レジメンタルネクタイ 
・メタルボタン
・ナチュラルショルダー
・紺ブレ
・クレリックシャツ


フレンチ


ファッション界をリードする存在の中で、メンズではミラノコレクションを始めイタリアの存在が特別大きいですが、レディースファッションではパリコレを筆頭にフレンチファッション業界が世界の頂点です。

しかしながら、メンズファッションではそこまでの存在感がないのはフレンチファッションが英国調ファッションとイタリアファッションの中間的な存在だからでしょうか。
またはスーツというある種決まった枠組みの中でデザインを考えるより、デザイン範囲が格段と広いレディースファッションの方を重視したためでしょうか...メンズに携わる者とすれば少々残念な評価です。

具体的な特徴
○ イタリアの柔らかさと英国調の堅さのMIX
世界的な生地のマーチャントのドーメル社もそうですが、EUになった昨今そのビジネスの中心は発祥地に限られたことではなくなっています。(ドーメル社はロンドンとパリに本拠地があります。)
地理的にも英国・イタリアという2大産地に囲まれて、自国もパリコレを要するフランスにとっては、両国の特徴を巧みに取り入れ、これにレディースファッション界から得たエスプリを注ぎ込むことで自らの特徴としています。
DIORやBALMANなどの素材にどことなくレディース色が強いのもその影響でしょう。


日本風?
これまで欧米を中心にそのデザイン的な潮流を紹介しましたがそれでは日本的なデザインとはどんなものでしょうか?
これはとても難しい問題です。
というのは、特徴のないのが日本の特徴だからです。

つまり、日本人は自分たちの文化の中でスーツを発明してきたわけではありませんからスーツは所詮外来文化
だからこそ、良いところだけを巧みに取り入れ、上述各国が自国の文化・伝統に縛られて固定化していく中、進化させることができたのが日本の特徴です。

現在、スーツの販売価格を世界的に見ると$300前後の安価なスーツか、$1000以上の超高級スーツに大きく分かれます。
しかしその中で日本だけがその中間の価格帯$300〜$800位の価格帯が多く、品質的にも優れているのは、車と同様で外来文化の良いところを吸収し、それを量産できるからです。
(この辺が日本のイージーオーダーを中心とするオーダー界の優れているところです。)

具体的な特徴
上述の通りですので日本独自の特徴というのはありません。しかし敢えて日本の特徴としてあげるなら次のことでしょう。
○ 時代のトレンドにフレキシブルに対応
スーツのデザイントレンドは、ここ10年で言えばバブル期のアルマーニ人気から始まり、昨今のクラシコイタリアブームでイタリア的デザインが多くなっていますが、日本オリジナルのブランドでもこの傾向は強く出ています。
一方で、20年以上昔のフルオーダー全盛期には英国調のカチッとしたスーツが中心だった訳ですからこの辺の移り身の早さが日本の特徴です。

○こなれた価格帯
先述の通り世界的に見ると日本のスーツの価格は大変魅力的な価格です。
品質を高め、価格を抑える、この辺が日本人の精神なのでしょうか...