|
|
パッカリングって?
|
■ パッカリングとは?どんな現象? ■
|
パッカリングとは生地やスーツの表面が何らかの原因でぶくぶく凹凸を作ってしまった状態を言います。 これは例えば次のような時に起こります。 1. 原毛の段階 >>> 最近トレンドのカラーストライプ柄などはストライプの発色を良くするためそこの部分だけポリエステル糸を使っていることが多いですが、原毛にこういった異素材が入る場合それぞれの湿度や温度による膨張率の差によって後々表面に凹凸が出来てしまうことがあります。 右上のスーツ画像はこの製造段階での瑕疵(キズ)が縫製段階でプレスして表面化したものです。 ←画像は参考例として、縦糸一本を無理に引っ張った場合生地がどうなるかを撮影したもの。 これがいわばポリエステル糸がウールに対して縮んだ場合の生地全体への現れ方です。 画像のようにたった一本の糸を引っ張っただけで生地全体がぶくぶく凹凸が出来ます。 2. 縫製段階 >>> 当たり前のことですが、縫製は本来異素材である生地(羊毛)と糸(絹)がお互いを結びつけ合うことで縫い合わされます。 そして縫製する際には、アイロン等熱や蒸気によって縮ませたり伸ばしたりする訳ですから、こちらも糸と生地の膨張率の差で縫った表面がぶくぶくしてしまうのです。 縫製段階のパッカリングの最たる例は、実は皆さんのとても身近にあります。 それはジーンズの縫い目。 画像のように表面が色落ちしてくると表面のぼこぼこが現れますね。 ジーンズではこれを風合いとしていますので問題はありませんが、他の衣料品でこういうことが起きると大変な品質不良となります。 3. クリーニング後 >>> 縫製段階でアイロンを使って圧や温度を掛けた時にこのようなことが起こると言うことは、クリーニング等のプレスの際にも同じ事が起こり得ます。 概して、縫製段階のパッカリングをうまく誤魔化した場合、これはクリーニング後に発覚します。 |
■ パッカリングへの対処方法■
|
このようなパッカリングですが当社を含め一般に業界としては次のように対処しています。 1. 原毛の段階 >>> これは対処というよりは、生地を織る時や糸を撚る時の前提ですが、1本の糸は複数の糸を撚って作られます。 そして、その際には適度に素材に張力を掛け、引っ張りながら紡いでいくのですが、ウールは特性として温度や圧を加えると伸びたり縮んだりする特性がある反面、ポリエステル糸は伸縮性が少ないため、両者が合わさった生地に圧や温度が掛かると2つの膨張率の差から両者が離反してしまいこれが凹凸の原因になります。 このため、両者の素材の個性を喧嘩させないため、例えばポリエステルは伸びが少ないのでウール部分の伸びを想定して生地を織る時のテンションは低くして、ゆとりを持たせるなどの対処をします。 2. 縫製段階 >>> 縫製段階のパッカリングは主として生地と糸の収縮率の違いから生まれる物ですが、これにミシンの抑える力加減が加わりパッカリングが起こります。 対処として一番は縫製前に生地をしっかり地のし(縮絨※)すること。 これによってウールの密度を緻密にして安定させて縫い糸に負けないようにするのです。 その他:ミシンの抑え金の力加減を調整することで防ぐこともあります。
3. クリーニング時 >>> クリーニングの際に起こってしまったパッカリングは直せません。 なぜなら、それは上述で既に起きている現象が誤魔化されて製品にまでなってしまったからです。 つまり、クリーニングすることによって不自然な状態を自然な場所に戻してしまうため、直すと言うよりは元通りになってしまうからです。 ただし、乾式アイロンで膨張したところを縮めれば目立たなくなりますのでこうするしかないですね。 以上、専門的には若干ご異論もあろうかと思いますが、当社なりの見解を書かせて頂きましたが皆さんお分かりになられましたか? いつになくアカデミックなことを書いてしまいましたが、そこでこういったことを起こさないため当店ではこのようなトラブルをどのように考えているか折角ですのでご紹介します。 |
■ 当社の考え■
|
1.製品の企画について >>> 皆さんよくご存じの所ではJIS企画がありますが、メーカー各社はこのJIS企画をクリアするA反であることを前提に製造 ・販売 ・購入します。(1反1反の全数検査は通常行いません。) そして、メーカーと生地屋、テーラーは相互に信頼しあい売買を行い製品化します。 (一部大ロットの既製服などは事前に抽出検査することはありますが反単位では行わないのが一般的です。) 2.インポート物は特にあぶない? >>> 日本は世界中のどこよりも製品検査に厳しい国と言われます。 ↑はJISの基準ですからそれではインポート商品はどうなんでしょうか? 実はこの辺とてもいい加減です。(-_-;) 本来は1反1反国内基準で検査すれば良いのでしょうが、これを行うとコスト的にも時間的にも、また仮に×だったときにも返品がなかなか利かないため、「労多くして功少なし」なのです。 しかし、上述の通り海外製品は品質に甘いのは事実ですので、当社の仕入れとしてもゼニアやロロピアーナなど、ついつい実績のあるメーカーの生地を中心に仕入れてしまうのです。 ちなみに今回問題になった生地は正にインポート物(伊製)でした。 (今後は疑わしきメーカーは当社の責任下で再度縮絨作業を実施しチェックします。) 3.製品に「?」が生まれた場合 >>> 今回のケースがこれに該当しますが、縫製現場や検品段階で「?」が出た場合、当店では別途日本紡績検査協会という繊維製品検査の専門機関に検査を依頼します。 そして今回も検査を正式に出したところ ・ ・ ・ 残念なことに、やはりパッカリング(バブリング)として『一般性能に満たない』という判定がされてしまいました。 加えて、話は逸れますが 、表示されていた混紡率にも誤りがあり、本来入っていないシルクが何故か7%近く入っていることまで判明してしまい、シルクは高級だからラッキーとはいえない状況になってしまいました。 酷い話です。 |
さて、 これからが「お客様いらっしゃ〜い」です。 冒頭でお名前だけご登場いただいたIさんへ当店としてはどうしたでしょうか? 最初のやりとりでパッカリングが発覚した後、次のような仕上がり案内を北君よりお出ししました。
|
★☆★ 東京SHOPMASTERより一言 ・ ・ ・ ★☆★
|
う〜ん、北君も難しい内容のメールを端的に説明し、なかなか心のこもったメールを打てるようになったな。 ・ ・ ・なんて、誉めてる場合ではなかった!! Iさんにとっては当店でのファーストスーツなんだから期待と不安で一杯なのに... こんなメールは正に「寝耳に水」さぞかし驚かれたと思います。 でも、嘘は付けないですし、ここは誠実に対応するしかないです。 数日後、念のため実物をご覧になられたいと言うことでIさんはご来店されました。 そしてご来店時には事情説明を兼ねて責任者の私からご案内差し上げたのですが、現物をご覧いただきIさんも『さすがにこれでは ・ ・ ・』ということになり、似たような柄の生地にご変更いただくことになりました。 もちろん、納期が遅れてしまったこと、そもそもご迷惑をお掛けしたというこでちょこっとだけサービス付きです。 こうして、今回の一件は一応終着点にたどり着きました。 生地屋として仕立屋として、メーカーを信頼せざるを得ないと言う盲点をつかれ大失敗をしてしまいましたが、時間は余計掛かりましたが何とかお客様には不良品をお納めせずに済みました。 ホッと一安心です... |
||||
...×××...なんてことありません !!!
|
||||
実は、まだまだ大事な仕事が残っています。
一つは、メーカーへのクレーム処理。 >>> お客様へは平身低頭ですが、実は私怒っています!! 当たり前といえば当たり前ですが、自分達が必死になって仕入れて、接客担当が必死になって販売している商品がメーカーの不注意でこんな結果を導いたのですから当たり前です。 今回の場合は直輸入の生地でなかったので直接メーカーへのクレームはいたしませんでしたが、仲介に入ったエージェントには、残りの生地全ての引き取り、そしてメーカーへの事情説明を要求しました。 多分、次同じ事を起こしたら私はこのメーカーもこのエージェントも両方とも取引中止すると思います。 それはそうですよね、そうでもしなければお客様に対してこんな無礼な事はありませんし、必死になって日々頑張っているスタッフにも申し開きできませんから。
そして忘れてならない仕事のもう一つは、別のお客様でお仕立てしてしまった人がいないかのチェック。 もし、いらしたらIさんと同様にお詫び&お見立て替えのお願いをしなくてはいけません。 そして、調べたところ >>> こちらは幸いなことに、既にお仕立てしてお渡ししてしまった人はいませんでした。ほっ♪ ただし、ご予約の方(Hさん)がいらっしゃいましたのでこの方にはこんなメールをお出ししました。
|
★☆★ 東京SHOPMASTERより一言 ・ ・ ・ ★☆★
|
ふ〜っ、何とか被害は最小限で防げました。 でも、これから暮れにかけて忙しくなるのに、こんな後ろ向きな仕事をしていたら身体が保たないぞ!! 仕入先とは信頼関係が一番ですが、やはり商品についてはよりシビアになっていかなくては ・ ・ ・ 昨今、皆さん(消費者)の物を見る目は肥えているし、メディアを通じて知識も多くなっているからこれまで以上に自分達も厳しく自らを律して行かなくてはいけませんね。 今回は、反省点の多い11月のある出来事を紹介してみました。 |