2025年2月28日更新
こんにちは、東京店の富田です。 三寒四温を感じる今日この頃、春の日差しも眩しく感じられるようになりましたが、皆さま如何お過ごしでしょうか。 もう少し寒さは続きますが、体調管理にはお気を付け下さい。 さて、季節はゆっくりと冬から春へと移行しておりますので、 そろそろ<衣替え>を考えてみませんか。 今回は、春に先駆けて洗練されたMさんのスーツスタイルをご紹介します。 なんとそれは、ベルト付きスーツです。 ベルト付きとは、難しそうだなぁ...。 今までにスーツでは<ベルト付きスーツ>のお問合せを頂いたこともなければ、もちろんご注文を頂いたこともなく、さぁどうしよう...。 今回は初めてのベルト付きの話です。 そんなイレギュラーのご注文をMさんから、次のようなメールを頂きましたので、一部抜粋してご紹介します。
今回リピーターのMさんは、とてもデザイン性の高いスーツをイメージされておりますね。 さて、ご希望の3項目は可能なのか、その現状は...
そもそも、スーツにベルト付きのデザインが無いため仕立てることはできません。 以前、ワンピースを仕立てたお客様から同じ問合せを頂きました。 生憎、オプションには<共布ベルト作成>のメニューがないため、当時工場から断られてしまいましたが、そのためグループの修理工場で共布ベルトを作成した事があります。
街のショップでは、フロントホック止め (突合せ)仕様のデザインも多く見られますが、当店ではそのデザインが無く、釦留めのデザインしか、お仕立てすることができません。
パッチPKといえば、ジャケットの腰PKが一般的ですが、生憎、スカートにパチPKのオプションはありません。 また、台形スカートについては、タイトスカートの裾巾を広くして台形スカートに似せることは可能ですが、裾巾に限界があります。 少し裾広めでもよろしければ、セミフレアースカートをお選び頂く方がフレアー感は広がります。
以上が、Mさんが出来たらいいなと、イメージしている内容でした。 これが解決できればいいですが...。 せっかくのご要望ですから、簡単にお断りすことはいたしません。 先ずは、早急に工場へ問い合わせしたところ、次のような返信がありました。
過去に問合せをした時、オプションに無いものは出来ないとの返答でした。 そのため、今回はベルトを作ってほしい思いから、ベルトの指示書を作成し、それを見せながら、スーツの注文と合わせて製作してもらう事は可能か?と聞いたところ...。
ベルトの指示書を元に何度かやり取りを重ねた結果、共布ベルト作成の許可がでました。 ベルト巾×長さは何cmにするか?棒端の角度はどうするかなど、些細な事でも漏れなく決めておかなければベルトは作れないため、諦めず聞いて良かった。
基本はボタン留めですが、突き合わせのホック留めをご希望されてる方がいらっしゃいます。が、ホック留めは可能ですか?
元々、突合せホックのデザインが無いうえ、ホックの取り扱いもないため出来ないとのこと。 ホックを支給して付け位置の指示をしても出来ないかと尋ねましたが、出来ないと言われてしまえば無理はいえません。 それではグループの修理工場でホック留めをお願いするか、1着だけなら自分で付けることもできるので、突合せのホック留めデザインは解決できそうです。
ポケットのサイズ、付け位置を検討する必要がありそう。 元々スカートにパッチPKを付けるとは、上述したオプションに無いものは出来ないと同じことですが、こちらも指示書にポケットサイズ、付け位置を詳細に指示すれば、なんとかやれる感じでした。
これなら、Mさんのイメージのスーツに近づけそうです。 果たしてどこまで希望されているのか、来店日を待つことになりました。 来店日当日、Mさんご来店。
ご希望のデザインが決まってきたところで、肝心な生地は如何に? ベルト付きスーツに合わせた最適な生地は何を選ばれたのか? Mさんが選んだ生地をご紹介します。
世に出回っている殆どの生地が染料を使い、色分けされ染色されておりますが、このUndyedシリーズは、「未染色の」「染めてない」という大変珍しい生地です。 それは、染色(や脱色)せずに天然の羊毛の色を生かした糸を織り上げた生地。 そんな天然羊毛の風合いをダイレクトに楽しめる何とも希少で、環境に優しい製造といえます。その生地感は、素朴でザラッとしたドライタッチ。 原毛の太さも魅力で、生地の重さ(しっかり感)と生地の存在感は一際目立ちます。 Mさんが選んだのは、 オフWH×ブラウンのマイクロ千鳥格子。千鳥の小格子柄だからこそ、生地の存在感はあっても上品にまとまります。 また生地がしっかりしているからこそ、ベルトもしっかりしたものが出来るのではないかと、期待も膨らみます。よれよれのベルトだと、チープにみえそうですからね。 ちなみに、アイテムは違いますがスラックスの仕上りはこんな感じです。
生地の存在感もあり、生地感もしっかりしているため、夏場は暑くないかと心配しましたが、サラッと着れる事も体験済みです。 生憎、今季は千鳥格子の在庫は無くメーカーからも仕入れることができませんが、ストライプ(K24-8459)の在庫はありますので、ご検討して頂ければ嬉しいです。 それでは、Mさんのデザインをご紹介します。
今回のジャケットデザインは、今までにないノーカラーのV開き、そしてフロント釦無しのホック留めの、とってもシンプルな洗練されたデザインに仕上りました。 そしてフロントカットも注目です。 ここのカットはラウンドしたデザイン(レギュラー)で仕立てる事が多いのですが、外開きになるデザイン(COS) を選んだことでウエストと裾に繋がるラインが強調され、ウエストがくびれているように見えます。だからこそ、共布ベルトが映える訳です。 ベルトをした結び目も花のような立体感もあるように見えていいですし、バックスタイルから見るジャケット丈とベルト巾のバランスも本当に綺麗に見えます。 また、袖ボタンの数は何と4個。 フロント釦がゼロなら、袖釦は1~2個がバランス的にいいところですが、今回は4個と、敢て外したそのバランスに遊び心とMさんの拘りを感じますね。
また、スカートについては、丈と左脇スリットも絶妙なバランスに仕上がりました。 スリットの深さも上品且つデザイン性のある長さと、スリットも敢て左脇だけにする所が、デザイン性もより高くなり、スーツ全体がMさんの拘りが詰まったデザインだといえます。 その日の気分での別ベルト(革製etc.,) を付けるのもいいですが、共布ベルトだとスーツの統一感もあり存在感もありますね。オーダーだからこその拘りのスーツが仕上りました。 Mさん、今回はご協力頂きありがとうございます。 ベルトなしでシンプルに着る日や、ベルトを付けてアレンジする日と、コーディネートを楽しんで頂ければ嬉しいです。
以上、今回は、イレギュラー尽くしのベルテットスーツのご紹介でしたが、如何でしたでしょうか。 個人的には、共布ベルトの統一感の美しさを感じて、自分も作りたいと思いましたが、皆さんも一緒に如何でしょうか? またこれを読んで、「こんなこと出来るかなぁ」と思っている方は、是非ご遠慮なくお問合せください。もちろん、<出来る範囲内で>になりますが、お待ちしております。 それでは、次回もお楽しみに。