2023年4月24日更新
GW目前、今年は旅行に、レジャーにお出かけになられる方が多いのではないでしょうか?最近は旅行支援もあり、訪日外国人観光客も増えたので、各地かなりの人出で賑わっているので、このGWは人気観光地はとんでもないことになりそうですね。 今回は曜日の巡りが良いので、1日と6日を有給休暇にすれば9連休に出来なくは無いのですが、何処に行っても人が多い時に50過ぎのオッサンが1人で居るのは惨めすぎるので、カレンダー通りで休日は犬の散歩か部屋の掃除と模様替えでおそらく終わりそうな予感が,,,,, しかし6月に北海道に行く予定を立てているので、今回は無駄遣いせず省エネ(死語?)なGWを過ごしたいと思います。 海外or国内旅行に行かれる方はどうぞ気を付けて楽しんでらしてください。
さて過日の日中、東京Shop Master佐野氏より1本の電話が,,,,
今度はキッドモヘアか,,,,前回のトラベラーよりハードル上がっとるがな、とは口が裂けても言えず。 今回もまたどういった切り口で、どうすればキッドモヘアの良さが伝わり選んでもらえるのか、アタマの中でまとまるまでかなりの時間が掛かってしまいました。 ただ良い事(メリット)ばかりを書き連ねるのでは無く、キッドモヘアのデメリットもしっかりと伝えた上で、それらを補って余りある魅力を感じて頂けるよう、今回も私ミナミウラ目線でキッドモヘアについて語りつくしたいと思います。 賛否両論、あろうかと思いますが、良い事ばかり書いても居心地がよろしくありません。 ネガティブな情報も伝えてこそ良さが分かるというもんです。 広~い心でご一読頂ければ嬉しく思います。
一言で申しますと、アンゴラ山羊から刈り取られた毛の事をモヘアと呼び、その子供(KID)、生後3か月以内のアンゴラ山羊の毛をキッドモヘアと呼びます。
ウンチクを語る前にここで豆知識を1つ
さて、話をモヘヤの原料であるアンゴラ山羊に戻しますと、このモヘヤはウールに比べ繊維が長く、光沢感があるのが特徴ですがウールのように伸び縮みしたりしないのでハリコシが強く、要は硬い風合いになります。 硬くなるということは反発力、復元力が強いということなので、パリッとした仕上がりになり、シワに強いメリットを持ち合わせています。 またモヘアの繊維は中が空洞であり断熱、放熱性、通気性に優れているので夏向けのスーツ生地として重宝されています。
そしてキッドモヘアは大人の山羊に比べ当然ながら繊維は細く柔らかいので、ある程度のハリコシは持ち合わせつつサラッとしたウールに近いしなやかな風合いになります。 生後3か月以内に刈り取られるということはその山羊にとって一生の内一度のみとなる訳ですから、アダルトモヘアに比べると如何に貴重であるかがお分かり頂けるかと思います。 またアダルトモヘアは繊維が太くなるが故にネップと呼ばれる節(糸の塊)が出易くなるのでカジュアルライクな風合いになりますが、反面キッドモヘアは繊維が細いのでそのネップが無く、凹凸感のないフラットな表面になり、フォーマルな印象を与えます。 このキッド及びアダルトモヘア、上述のようにハリコシがあり伸び縮みしないということは成型するに難があり、現在の紡績機ではモヘア100%の生地は織ることが難しくウールに対して20%~40%程度のモヘアを混紡させるのが主流となっております。 その結果、ウールの持つシワになり易さをモヘアのハリコシ感が打ち消し、逆にモヘアの硬さをウールの持つしなやかな風合いが緩和させるといった相乗効果が生まれ、夏に相応しい生地となる訳です。
大きくは上述の様に、シワに強く涼しく着ることが出来る、上品な光沢感があるといったところですが、もう一つ大きなメリットがあります。 それをお伝えする前に、生地を選ぶ際、硬い生地か柔らかい生地か、どちらが良いかとなれば肌触りの良い柔らかな生地を選ぶ方が多いかと思います。 触っても着ていても優しく身体に馴染んでくれるので気持ちが良いし、身体のラインに沿った柔らかいシルエットを表現することが出来ますが、反面、シワになりやすいので着込んで行く内に全体的にヨレッとした感じ、型崩れ感をお感じになられたことはないでしょうか。 肌触りと着心地の良さというメリットの裏には上記のような耐久性にやや難があるといったデメリットも存在します。 夏場、スーツ必須といったお仕事の方、暑くてつい着方がだらしなくなりがちですが、シワが入り型崩れしたスーツと全体的にヨレ感が無く、パンツの折り目もピシッと効いたスーツとではどちらが好印象を与えるでしょうか。 言うまでも無く後者に決まってますよね。 キッドモヘアの生地を使用してスーツを仕立てる大きなメリットとは、その特徴であるハリコシの強さとシワになりにくさがスーツの型崩れを防ぐことにより、上品な印象を与える仕上がりになることにあります。 またこれは後述致しますが、モヘアの持つ硬さ、独特のシャリ感が身体に柔らかくまとわりつかないので、通気性の良さによる涼しさとは別に体感的な涼しさも感じることが可能となります。
これはひとそれぞれの好みもあるので断定することは乱暴ですが、やはり最大のデメリットは独特の肌触り(硬さ)です。 硬いか柔らかいか、重いか軽いか、何れかを選べと言われれば共に後者をお選びになる方が多いのではないでしょうか。 当店のラインナップにあるKID MOHAIRは平織なので目付そのものは236g/mと比較的軽量の部類に入りますが、いくらウールを混紡しているとは言え、ウール100%の生地に比べますと硬く感じるのは事実であります。 そしてこの硬さと独特のシャリ感は柔らかなイタリア生地に慣れた方からすると多少違和感を感じるかも知れませんが、それを欠点(デメリット)としての硬さ・違和感とみるか、長所としてパリッとしたハリ感とみるか、ここが判断の分かれ目です。 後者を是とされる方はモヘヤ好きです。
これはただ1点、ウール生地に比べると伸び縮み(ストレッチ性)が若干劣るので、パンツのサイジング、太股廻りから膝~裾にかけてはあまりタイトにしない方が良いでしょう。 ゆとりの少ないタイトシルエットよりかは多少ゆとり量を持たせた方が通気性も上がりますからウール100%の時よりは心持ち、程度で良いかと思います。 またこれは都市伝説的な物と私は捉えているのですが、モヘア混の生地にパンツの折り目加工(シロセット加工)を施すとクリース線(折り目部分)が裂けてくると言う点。 正直、私もオーダーを生業とするようになり約20年、クリース線が裂けたパンツを見た事はありませんが、業界の先輩方の間ではモヘヤの混紡率が高い生地では当然の事として認識されているようです。(概ねモヘヤ60%以上ぐらいでしょうか) キッドモヘアはハリコシがあるので敢えて折り目加工を入れなくてもプレスがしっかりと効いてくれますから、まずこのようなことはないでしょう。
最後に裏地につきまして、これは悩ましいところですが、さらっとした着心地を求めるならポリエステル一択なんですが、吸水性及び吸湿性のあるキュプラも捨てがたいところ。 夏場は空気中の湿度が高くなるので静電気が発生しにくいので、私的にはポリエステルがキッドモヘアの風合いと合っているのでオススメです。
以上、好き勝手に語らせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか? スーツ生地に限らず、世の中にある物には全てメリット、デメリットが存在します。 受け取る側によってそれが逆転することもありますし、メリットorデメリット、どちらかしか感じないという方もいらっしゃるでしょう。 思いつく限りのメリット、デメリットをお伝え致しましたが、ご一読頂いてお選びになられるのはお客様です。 今後、スーツをオーダーするに当たっての一助になれば、執筆者として嬉しく思います。 また近い内に何かしら語らせて頂くことになると思います笑 それでは次回もお楽しみに。