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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 良い本を見つけました!
 東京SHOPMASTERは月に一度大阪店へ出張するのですが、新幹線での3時間を如何に有効に使うかでいつも悩みます。
そんな時はいつも、初めの1時間は「寝る」(日頃から結構寝不足なので・・・)、次の1〜1.5時間は何か「読書」そして最後に外の景色を見るようにしています。
これまでに読んだ本は『沈まぬ太陽』『大地の子』をはじめ山崎豊子女史の長編小説から皆さんおなじみの『MEN'S EX』、はたまた『ナニワ金融道』の漫画までかなり広範囲です。
 そして今月の出張時に読んだ本は、東京店のあるお客さま(実は大手町のお役人の方)からお勧めされた本でした。
お役人と聞くと失礼ながらファッションにはあまり興味のない方が多いのでは・・・と勝手に先入観を持っていたのですが、この方凄いファッション通で、本当に凄い本を紹介してくれました。
GENTLEMAN
本の名前は『GENTLEMAN Fashion−紳士へのガイド
著者はベルンハルト・レッツェル氏(恥ずかしながら初めて聞くお名前でした)

そこで今回はこれまでの新着情報とはちょっと雰囲気を変え『アカデミック』に本のご紹介を致します。
ちなみに出版社が国内でないため写真等の掲載をお願いしたかったのですが、許諾をどこにして良いか分からず出来ませんでした。写真が少なく申し訳ありません。

内容はというと・・・
ひげの手入れ〜整髪理容・下着(何と表紙にブリーフ姿の男性の写真が!)シャツ・ネクタイ・スーツ(ようやくここで登場)・カジュアル・靴・コート・帽子・アクセサリーetcまで
男のファッションの全てを詳述した本でファッションについて色々著作のある落合正勝さんも真っ青の内容です。

全てをご紹介することはモチロンできませんので、その中で私の印象に残ったスーツに関する部分のいくつかをご紹介します。

<1>ブレザーの由来
皆さんが良く着用される『紺ブレ』に代表されるブレザー、その語源はどこにあると思います?
Webで『ブレザーの由来』を調べてみますと、ちょっと気の利いたお店でこれについて次のように説明しているのを目にすることが出来ます。

1.ケンブリッジ大学ボート部のジャケットに由来するという説
 19世紀中頃の英国ケンブリッジ大学とオックスフォード大学の大学対抗ボートレースの際、ケンブリッジ大学の選手団が試合前にケープを脱ぐと、その中からお揃いの真っ赤なジャケットが現れ、その姿・気合いが『炎(Blaze)』のようだということで、これを見た観衆達が「Oh、Blazer!」と口々に言ったという説。

2.英国海軍「BLAZER号」から起因するという説
 これまた19世紀、女王陛下が大英帝国の軍艦「BLAZER」号に閲兵した際に、艦長以下水平が皆お揃いのジャケットを着用しているのを女王がことのほか気に入り、そこから他の軍艦にも広まっていったという説

 多分、日本で語られる『ブレザー』の由来というのはこの2つのどちらかに由来すると語られていると思いますが、この本では、2つの説なんて関係なし、次のようにしっかりと言い切っていたのが印象的でした。

<ダブルのブレザー>
・・・これは上述1.の通り英国海軍「BLAZER」号に由来する
それまでの英国ではジャケットというと同じ紺(ネイビー)でも『ダークネイビー』が主流であったのに対し、「BLAZER」号で初めて明るめのネイビーブルーのダブルブレストのジャケットを着用したためとても新鮮に映った。(ヴィクトリア女王の目に留まった)
確かに紺は紺でも紺ブレに代表される紺はネイビーブルー(明るめの紺)が多いですね、逆に言うとそれまではネイビーブルーって色がなかったんですね。(私も知らなかったデス)
また、この説明ではブレザーはブレザーでも『ダブルブレスト』と断定しています。
このことはよく考えると、同じく海軍の軍服であるピーコートがダブルであるや、海軍の上着が全般に、防風の為打ち合わせをダブルにして左右どちらでも留められるようになっている事とも符合します。
な〜るほど!

<シングルブレザー>
・・・これが!上述ケンブリッジ大学に起因するものです。
英国は紳士の国、ラグビーを筆頭にチームスポーツ全般にブレザー着用は多いですね。
そんな時「た・し・か・に」ダブルのブレザーは着ないものです。
う〜ん!納得。

どうです。皆さん、アングロサクソン系の人たちはスーツの伝統を生み育てている歴史があるのに対し、我々日本人は所詮、スーツって外来文化なんですね。 日本ではあるいは日本人には推測でしか物事(スーツ)を語れないところが残念な反面、スーツの文化の奥深さを感じさせます。
ちょっと寂しい気もしますが、やはり英国の長年の伝統にはかなわないというところでしょうか。

そして次の逸話
<2>クラシコイタリアってなあに?
 ファッション好きが憧れる『クラシコイタリア』詳細はともかく耳にしたことのない方はいないはず。
でもそのクラシコイタリアって何の意味?
「クラシコ」≒「クラシック」=伝統古典的?
ここから連想して、イタリアの伝統的なデザインを意味するとお考えの方も多いはず。

ちなみに物の本を調べてみると次のように記述しています。
クラシコイタリアは「イタリアを代表する19ブランド」が織りなす、「クラシコ」(=最高の水準の((という意味)))の仕立てによるもの。
「仕立てがよい」ためにバランス・完成度が良く、が感じられるもの(落合正勝氏著:クラシコイタリア礼讃等より)

つまり、簡単に言うと、クラシコイタリアというのは特段のデザインがあるわけではなく、高度な縫製技術のもとに仕立てられた芸術的なスーツということではないでしょうか?
この点から言いますと、よく既製服屋さんが『クラシコイタリア(デザイン)』として販売していますが、これは上述の説明では「コレだ!」というデザインは定義されていないわけですから本当によく分からない言葉ですね。
『クラシコ(お店の名前)』というならともかく・・・


この本で紹介しているイタリアの職人テーラー
社名 所在地
1 ブリオーニ ローマ
2 キトン ナポリ
3 カラチェーニ ローマ&ミラノ
4 ベルヴェスト ピアッツオラ・スル・ブレンタ
5 ダヴェンツァ カッララ
6 バティストーニ ローマ
7 アンジェロ ローマ
8 チフォネッリ ローマ
落合正勝氏がいうクラシコイタリア19社
社名 所在地
1 スーツ ブリオーニ
2 スーツ キトン
3 スーツ ベルベスト
4 スーツ イザイア
5〜7 シャツ ブリーニ他
8〜10 ネクタイ ステファノ・リッチ他
11〜13 パンツ ストール・マンテラッシ他
14〜15 ニットウエア ロータ他
16〜17 レザーウエア スキャッティー他
さてさて、本題に戻りますと、この『クラシコイタリア』についてこの本が述べていることは何かと言いますと、厳密に言うと「クラシコイタリア」の定義はしていませんが、イタリアンとブリティッシュの違いについて比較していますのでそこを引用してみましょう。

イギリス人・・・
英国人はスーツによって特定の社会階級に属する『仲間の一部』ということを示そうとする。
つまり先ほどのブレザーが一番良い例ですね。
仲間というのは『生活様式・政治・宗教』から『家族』まで含まれる。
このためよく子供に自分のスーツをお直ししてプレゼントような伝統が生まれ、このため袖丈を調整できるように「本切羽は下2つだけ開くようにする」という発想が出てくる。
また、グループに属するという意識から奇抜な色は求められず、『紺・グレー』の色で、柄も『無地かストライプだけ』という発想になるため、ブリティッシュスーツというのはどうしても固定的な色柄になってしまう。

なるほどイギリス人のスーツ感っていうのはあくまでも「オフィシャル」感が重要で、自分たちもスーツに着せられていることを前提に、苦しいスーツに気合いを込めているんだな〜。
ちょうど私たちが重要な契約や大きなプレゼンを前に、自らを律して『勝負スーツ』を着るのと同じ発想です。

一方で
イタリア人は・・・
イタリア人と英国人はファッションに於いては相容れない。
英国人の抑制された自己表現に対し、イタリア人は時として過度なまでに見栄を張りたがる。

イタリア人は自分の個性や貫禄に自身を持っているから人前で格好つけたがるそうです。
このためスーツの色柄では没個性的な紺無地やオーソドックスなストライプなんて大嫌い!
あくまで『自分らしさ』『エレガントさ』を求めるツールなんですね。

このような人種的なあるいは文化的な違いからイタリア人は「選び抜かれた」「洗練されている」「エレガントな」スーツを求めるため必然的に洗練された裁断と優れた縫製技術のスーツを求め続けたため、これに適応した上述19社が出来上がり、これをクラシコイタリアというのだそうです。
(厳密に言うとクラシコイタリア19社については本では詳述していません。きっと19という数字は著者にとっては関係のない物なのでしょう。)

その他、もはやシーズン遅れ(原稿作成時3/3)になってしまっていますがこんな逸話もありました。
<3>オーバーコートで考えること
オーバーコートはかつて社会的な階層の違いを強調するのに一役買っていた。
オーバーコートを着るのを手伝ってくれる人は、社会的に下位に位置する人であった。

気の利いた高級ホテルではクロークでコートを脱着するのを手伝ってくれるところがありますが、こんな事を考えたこと皆さんありますか?
『コートを着ている俺は社会的に偉いんだぞ』と言わんばかりの記述です。
私自身コートは単なる防寒と思っていただけにただただ驚きでした
。 確かに昔はコートは男のファッションの中ではスーツの後に買う、真のお洒落ではありますが、ちょっと傲慢とも思えるこの台詞には驚きますね。

またこんな事も続いて書いてありました。
コートを着るのを手伝ってくれる人は、年上の人や大切に思う人には、敬意を払う意味で手伝うことがある。
こんなささやかな、手助けの意思表示が次第と見られなくなっているのは残念なことだ。
礼儀というものが大切にされなくなりつつあるだけではなく、オーバーコートの文化も消えつつあるからだろう。


どうですか?皆さん、私のつたない説明、また誌面の関係で十分な説明はできませんでしたが、ちょっと『目から鱗』ではないでしょうか?
私自身、スーツの源流がどこにあるのか?等には興味もあり、勉強していますが、所詮それはあくまで外様大名で、紋付きは竈を着ていた日本人がスーツの何たるかをウンチクしてもその文化で生まれ育った人たちには全く歯が立たないな〜と思いました。
 でも本の素晴らしいところは、この素晴らしい文化を部外者にも知らしめることが出来ることではないでしょうか?
ちょっとイタリア人の気分やイギリス人の気分になれました。