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「残布」ってご存じですか? |
スーツをお買い求めになりますと、内ポケットに予備のボタンと共に余り生地が付いてくるのを皆さんご存じかと思います。 これを我々オーダー業界では『残布(ざんぷ)』と呼ぶのですが、意外とこれが知られていない! 今こうして原稿をワープロで打っている時にも「ざんぷ」と打っても素直に変換してくれないということはやはりマイナーなボキャブラリーなのでしょうか? そこで今回はこの余り切れである『残布』に注目してみましょう! 皆さん『残布』は何のために入れていると思いますか? ● 裁断した生地のゴミをお客さまに処分してもらおう! >>>>> 不正解!(当たり前だって!) ● 生地を破ってしまったときに「カケハギ」用の予備の生地 >>>>> 正解! 一般には皆さんこの様にお考えだと思います。 確かに釘や何かで生地に穴を開けてしまったり、虫に食われたりした際にはこの残布を取っておくとこれを使えば直りますから重宝しますよね。 でも皆さん現実にはスーツをお買い求めになられて、残布をすぐ別の場所にしまうなんてことはせず、しばらくはスーツの内ポケットに入れっぱなしで、しばらくして気付いてから捨てちゃうっていうのが一番多いケースではないでしょうか? また販売するお店の側も残布を付けなかったり(どうせ捨てられるから・・・)、付いていても5センチ四方位のほんのちょっとだけだったり・・・そんなことが多いと思います。 確かに残布は非常にマイナーな「日陰の存在」。 でも実はこれって結構大切なアイテムなんですヨ。 当社ではこの残布は出来るだけ大きく付けるようにしています。 もちろん基本は余った生地ですので、形も不揃いになることが多いのですが、それでも15×50センチ位は残すようにしています。 『何故そんなに大きく残すの?』と思いません? 『よくぞ聞いてくれました!』 実は当店でこの様なサイズで残すのには訳があります。 理由は・・・『上襟の取り替え分だけは残しておきたい』からなのです。 何故、『上襟』とお思いになるかと思いますが、例えば初めてお仕立てしたスーツが身体に合わなかった時、または太ったことで腕全体が厚みが増し肩幅を大きくしなければならないような時、一般的には皆さんは肩幅だけを大きくすれば良いだろうとお考えかと思いますが、こんな時は上襟まで交換しなければならないのです。 |
☆★☆ SHOPMASTERより一言・・・ | |
ちょっと話は逸れますが、オプションの所に新たに加えた『上襟の巻伏せ』仕様が何故、襟の裏に表地を巻き込むかというと、これも全く同じ理由からです。 スーツは昔は親から子へ大切に受け継がれる物でしたので、お直しが当然のように行われましたし、何よりスーツの襟は開閉や顔からの分泌物等で結構傷むことが多いですので襟の交換というのはしばしば行われました。 そんな時に肩を調整した時に襟も同時に出さなければ行けない。 襟を出す際には「巻伏せ」にしておくと交換しなくてもここの部分だけで調整ができるから都合がよい。だからこんな発想が生まれたのです。 この当たりは多分にフルオーダー的要素を取り入れているオプションです。 だからこそこの仕様はクラシコ(上質)仕様なのです。 |
さて、ちょっと話が逸れましたが、肩幅と襟の関係は次の写真の通りです。 肩幅を大きくすると言うことはAの部分を解いて内側に隠れている縫い代を出すことで対応します。 つまりAの部分が大きくなると言うことは・・・ そことくっついているBの縫い合わせを一度解き、その上で付け直すため 出来上がりのラインはCのようになりますから、このままだと上襟が足りなくなるので、 D部分の巻伏せ襟を開いて調整するか、上襟の交換をするかが必要になるのです。 (画像は巻伏せ襟になっていませんがご了承下さい。) |
ごくたまにちょっとしたことで気軽に肩幅の補正を依頼される方がいらっしゃいますが、実は肩部分の直しというのは結構奥が深く、費用も時間もかかり一方で技術も必要なためかえって失敗することもあるんですよ。 どうですか?新調されたスーツに付いてくる『予備ボタンと残布』少し愛着が生まれました? これからも些細な事でも、オーダーならではのこだわりをご紹介していきますね。 |