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座談会をやりました。 |
日記帳でもちょっとだけご紹介しましたが、2月に日本洋装新聞という専門誌で著名テーラー4社を集めての座談会があり、私もそれに出席いたしましたので今回はちょっと業界サイドから見たご案内をしたいと思います。 (ご同業の方はどうぞ03.03.20発売の日本洋装新聞をご覧下さい) まず出席者はどんな方かと言いますと・・・ ■テーラー安武■ >>>Web Siteもありますので詳細はそちらをご覧頂くとして... バリバリの手縫い職人です。後述のテーラーアサカさんが若手のホープだとしたら、安武さんはテーラーの技術大会で彼らを審査する審査員側。 日常受けている注文の絶対量は少ないですが、中身の濃い仕事をされる方です。 ■銀座壱番館■(厳密に言いますと「壱」の字が違いますがフォントがないのでお許しを・・・) >>>対談にご出席された方は副社長だったんですが、社長は東京洋服組合の重鎮。 名実共に銀座で一番のテーラーさんです。銀座で一番ということはとりもなおさず日本で一番と言うこと。 政治家や大物芸能人からのご注文が多い、こちらもフルオーダーの会社です。 ■アサカテーラー■ >>>何度か当社でもご紹介している浅草のテーラーさんです。 年も私の1歳年上ですので私から見れば兄貴分的存在で、昨今の若手テーラーさんの中では一番頑張っている方の一人だと思います。 親子揃って話し好きなのとその毒舌ぶりが玉に瑕かな?(下町らしい?!) 仕事ぶりの方は昔はお父さんが王貞治のスーツを仕立てていましたし、今はご子息がが2001年世界マスターテーラー大会名誉賞・最高位認定、2003年注文紳士服技術コンクール内閣総理大臣賞などなど、実力もありなかなかビッグな親子です。 こんな凄い面々が揃っての対談です。
「な〜んだ、クラシコか〜?」 とお思いの方も多いと思いますが、これってそこそこ専門的になるとかなりキビシ〜い、奥の深〜い質問なのです。 正直、「おいおいこれって試験じゃないか?!」と思ったほどです。 出席したあるテーラーさん(スミマセン敢えて実名は出しません)は『私には分かりません!』と言い切ってしまう程難しい質問です。 ちなみに私はこの質問に対し 「ブリティッシュがカチッとした仕上がりのスーツになり、いわばスーツをビジネスの場で鎧甲として自分を守る道具として使うのであれば、クラシコイタリアはむしろ全く逆で自分がエレガントにくつろぐためのもの。 そういった雰囲気だから素材なども含め、打ち込みのしっかりした生地というのではなく、柔らかな素材でウエストラインを絞り気味にして見た目にも優雅に仕立てたものをイメージしています。」 と、答えました。 そして出席者全員の質問が終わると答案が出され、司会曰く 「クラシコイタリアはセクシーなラインを身上としているからウエストからヒップのラインを強調するデザイン。 つまり、ウエストの絞りをきつめにして、着丈をやや長めにして細いウエストと太いヒップの落差を強調するデザイン」 とのことでした。。 う〜ん、私の答えは当たらずしも遠からず、でもこちらの方がより正解ですね。
しかし、シビアな始まりです。 そして本題。 どんな話が出たかというとこんな感じでした。
■テーラー安武■ こちらは1着単価20〜30万円。外部の職人などは一切使用せず全て自分で仕立てます。技術が店舗の強みの全てです。 それ故、経費が殆どかからず、利益率80%!年間の製作着数は100着だけだそうです。 凄い世界ですね〜。 でも1着当たり最低でも4〜5日掛けての作業ですからこのお値段は全てが工賃と見て過言ではありません。 ご本人曰く「ウチは免税業者ですから...つまり30万×100着=Under 3000万で免税業者」 普通免税業者というと小さなお店が多いですが、それが利益率80%なら凄い優雅です!(厳密に言うと今年の税改正で免税業者でなくなると思います。) ■銀座壱番館■ こちらはやはり立地と持っている顧客層が強みです。 何でもどこかの自動車工場の社長さんが「白のカシミヤで整備用のツナギを作ってくれ!」 一週間分7着合計280万円の買い上げだったそうです。 凄い客層を持っていますね。(でも何で『白』なんだろう?) 店舗の方も調度品が凄いですし、年に4〜5回展示会をするのだそうですがその際にはお酒などが振る舞われお土産付きだそうです。 う〜ん、何をやるにも優雅です。 ■アサカテーラー■ ここも特徴的なことをしています。 簡単に言うとこちらも大量のご注文をさばくといった類のテーラーではありませんので、少数限定。 当社ができるだけお客さまサイドの要望に近づこうと「自社からお客さまへ歩み寄るタイプ」だとするとこちらは逆に『お店がお客を選ぶ』意識が強い。 それ故、ファンの方は根強いファンで浮気しないしクレームにもなりにくい、反面そりが合わない客は受け付けないといった気丈なテーラーさん。 同業として考えてみますと、一旦注文を受けてしまった後からクレームになってしまうよりクレームになりそうな客(異常なまでのこだわり客)は最初から受けないというのも結果的には直しのコストをどこかへ反映させなければならないことを考えればかえって良いのかも知れませんね。 ■ 当 店 ■ これは読者の方には言わずと知れたことですので簡単に ・インターネットオーダーではメジャーな存在 ・お客のニーズ(悩み・こだわり)を聞くことにWebやMailを最大限使うのが一番の強み ・全国の提携店網があるため全国どこでも直接採寸 ・仕入が1反単位のためコストを抑えたオーダーが可能 (あまり当社のことを宣伝する目的でないので以下はあまり当社のトーンは下げて紹介します。)
どこの小売店でもシーズンシーズンにはセールをやりますよね。 そんな当たり前のことですが、聞いてみると驚いたことに・・・ ■テーラー安武■ >>>ウチはやりません。 お客さんもセールだからといって来るわけではないのでやってもやらなくても同じです。 それに仕事柄ご注文が集中してもいい仕事が出来ないですからね。 ■銀座壱番館■ >>>当店は年4〜5回やっています。 DMを作成して送って、傍らで期間中の粗品やもてなしを考えたりして...結構大変です。 ■アサカテーラー■ >>>私の所もやりません。疲れるだけですから。 それにセールをして安く売ることは正価で買った人に失礼ではないでしょうか?
■ 当 店 ■ |
これはそれぞれがどんな発言をしたか?というより皆で意見を出し合ったのですが... その前にちょっと皆さんに質問を・・・ Q1:腕の良い職人さんは月に何着ぐらい上着を仕立てるか? Q2:職人さんの上着1着の工賃はだいたいどれぐらいか? 答えはというと A1:月7〜8着が限度(それだけフルオーダーは手間がかかるのです。) A2:平均的な工賃は35,000円程度(テーラーから下職さんへの支払です。) ....ということは、腕の良い職人さんはその仕事だけで食べていこうとするとどんなに頑張っても 8着×35,000円=月収28万円 年収350万が収入の上限なのです。 これが現実です。 皆さん愕然としませんか?上記の年収はもちろん賞与なし、健保だって年金だって全て自分持ちですよ。 今時新入社員でも年収ベースなら300万位はもらってますよね。 こんなキャリア20年以上のベテラン職人達が、今仕事がなくて職にあぶれているのです。 高い能力のある人がそれを生かせないどころか、仕事への誇りを失いかけている。 4氏とも今のテーラーの一番の惨状は、有能なテーラーさん自身があたかも『自分たちが社会から必要とされていない』かのようにネガティブに考えているところにあるということで一致していました。 皆さんはどうお考えになりますか? これを知ってしまうと、1着10万円でもぼったくりテーラーとは言えなくなるでしょう。 だって、ある程度時間をかけてやる仕事ですし、値段も生地代を30,000円、仕立て代(外注下職ベース)35,000円とすれば利潤はせいぜい35,000円ですから・・・ 逆に言えばこれを全て作って10,000円で売って儲ける中国人は本当に恐ろしいです。 |
この点では皆さんとても良いことを言っていました。(個別の発言と内容は微妙に違うかも知れません。少し忘れました。お許し下さい。)
それぞれ印象的な言葉だと思います。 特にこの話題については壱番館の渡辺さんがとても良いことを言われていました。 『自分は柔道をするんですが、ある外国人のコーチがこんなことを言っていました。自分たち外人は「柔道」をやっていたんだったら100年やっても日本人にかなわない。だから自分たちは「JUDO」をやるんだ。』 つまり外人である彼らが柔道で勝つためには自分たちの文化であるレスリングやモンゴル相撲を柔道にアレンジする。 そうすることではじめて日本の選手に勝てるんだ!ということでした。 これをスーツで当てはめると、 「クラシコイタリア全盛だからといって、それをサル真似しても仕方がないよ。もっと日本人らしいことをしなくちゃ。クラシコジャポンだね。」 >>> おっしゃること、ごもっともです。 先にアサカさんが言われたように日本の縫製技術が世界で1、2を争うレベルならきっとクラシコジャポンも夢ではありません。 さすが、銀座壱番館=日本で一番のテーラーだけのことはあります。 是非皆で力を合わせクラシコジャポンを作っていこう!とのことになりました。 でも反面、こんな現実もあります。 これは誰が言ったとは申し上げられませんが、現実の我々テーラ業界では↑のようなことをいうと、 『あそこはちょっと儲かっているからいい気になって・・・』とか 『あそこは大したことないよ。(仕事を見たこともないのに...)』 『組合での役職は?』などなど 現実はお寒い限りです。 現に私はあるテーラーからこの紙面が掲載されてからこんなことを言われました。(提携店の実績のある店舗ですが・・・) 『日本洋装新聞の記事見ましたよ。良かったですね。ところでウチはお宅の提携店になっているけど、お願いした覚えはないよ。ウチはお宅のような安物を売っている店と違うから提携店として掲載されるのは困るんだ。即刻削除して欲しい。』 何たる無礼な、そして狭い視野のテーラーでしょう。 これが業界の中では評価されている人・店なのだから残念至極です。 当店は全国の皆さんにオーダーを気軽に楽しんでいただければと思い、提携店さんに採寸をお願いしております。(もちろん手数料を払ってです。) ですからこの提携店制度は消費者の方にメリットがあるのはもちろんですが、一方では提携店さん達にとってもそれまで自社の顧客でない客層がお店に立ち寄ることでお店が活性化するだろうし、そこに次のビジネスチャンスがあるかもしれない、との狙いがあってのことなのです。 更に言えば、私個人は提携店を利用することをきっかけに今後提携店でお客さまがご注文されてもそれもまた良し、位に考えています。 その点では提携店と当社がコンペティターになりお互い切磋琢磨して良いモノをお客さまに提供していきたいと考えているだけなのに・・・ それなのに、ちょっと当社が目立ったからと言ってこの発言。 この業界ならではのイヤらしい、暗〜い側面です。 職人としての能力と人間の価値は違いますが、こんな方が業界を牛耳っているとすればお寒い限りです。(良いのかな?ここまで言って・・・将来削除がかかるかも知れません。) さてさて、嫌な話はさておき最後のまとめですが、 座談会の最後に司会から「テーラーに今必要なものは何か?」との質問をされた時のことですがその答えが4氏全員共通して同じことを答えたのが印象的でした。 テーラーに今必要なもの。それは >>> 『顧客への愛(情)』 「顧客への愛こそ」が、中国縫製や既製服にはないシルエット・パターン・ディテールを生み出す源なのです。 それがあるからこそ、当店で言えば深夜作業をいとわずメールで色々とご相談に乗り、数々のこだわり仕様を作り上げた訳ですし、フルオーダーの安武さんでは一切の外注を使わず自己責任で一針一針手で縫うことにつながっているのです。 今の時代工業化で標準化された廉価な製品はいくらでもありますし、概してそういったものはモノへの愛情に欠ける製品が多いと思います。 我々高いお金を頂戴するオーダー業界はだからこそなおさら顧客への愛を意識しなければならないのです。 結局はこれが、マクロで言えば廉価な『中国縫製に勝つ唯一の方法』ですし、ミクロでの同業他社との競合では『お店の差別化』につながることなのではないでしょうか? 自分がまず「お客様へ愛情を投げかけ」それが認められれば、お客様がそれに『応えてくれる』。 このある種 商売の基本中の基本だと思いますがこのことがやはり今一番大切なものではないか?ということで座談会が終了しました。 この紙面は日本洋装新聞の特集として大々的に取り上げられ私にとっては雲上の人たちとの出会いでしたがとても勉強になりました。 |