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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 梅雨に着るスーツは?
毎年この時期は、晴れれば爽やかな清々しい季節ですが、大方のところは梅雨前線が日本列島を上下にどっかと居座り、湿気タップリのジメジメとした毎日が続きます。
近頃は冷房も完備し、朝夕の通勤もかつての蒸れ蒸れ状態こそなくなりましたが、やはり湿度の高さは変わらず、スーツ姿の通勤は苦行に近いものがあります。

かく言う私も通勤生活ウン十年、この業界もウン十年、そして梅雨時の通勤もウン十回と十分慣れたつもりですが、やっぱりこの季節はイヤなもの。
足に当たる濡れた傘、ボトボトのカバンが背中にべったりと、濡れた床のきしむ音、扉から吹き込む風雨、靴もグッショリと、なぜか車内の湿った空気もため息混じりで不機嫌そう。
しかし、雨も風もなんのその、行かねばならぬ会社勤め、どうにかならぬかこのこの季節...

日本にいれば梅雨は来る雨でスーツが濡れる気持ちが悪い出社拒否リストラ...
..という悲劇にならぬよう(ちょっと大袈裟?)私は はたと考えました。

雨に負けないスーツはないのか?』

「レインコートじゃあるまいしそんなのありませんよ、あればノーベル賞ものですよ」
と言ってしまえば身もフタもありません....。
それならばと、当社が持つ数千にわたる素材の中から今回厳選に厳選を重ねピックアップしたのが、今回ご紹介する雨に強いであろう素材です。
その素材はと言うと、実は婦人で取り扱っている素材なのですが、一体なぜに婦人物なのか?
その理由は、今の紳士物はSuper100'Sに代表されるような高密度・細番手のしなやか素材のオンパレードで、いずれも風合いはなめらか、肌触りはしなやかですが、湿気が一番の苦手ときています。
また、同じく高級素材の代表とされるモヘア種のウールも、ハリ感や光沢感には優れていますが、雨に打たれるとなんとも情けない表面感になり、お天気と相談しながらの着用は欠かせません。

そこへゆくと、今回ご紹介する素材のセールスポイントは...
  水に強く撥水性に富んでいて、しかも濡れてもすぐ乾く。
  しなやかでとても軽い
他にも、う〜んと、後が出てきませんね....でも、まぁとりあえず雨には大丈夫そうと言うことです。
そこで、いかに雨に強いかという証として、一つの実験をしてみましたので、どうぞご覧ください。
茶色の方の生地はポリエステル混素材、グレーの生地はモヘア混素材ですが、梅雨時の雨の日の通勤という設定の元、両方のパンツを水で濡らしてみました。
どちらも水をかけて10分後ですが、モヘアの方はまだ雨が乾かずぐっしょりとしたままで、しかもプレスもよれっとしています。
一方、今回オススメするポリエステル混の方は、既に乾き掛けた状態でしかもプレスもそんなにヨレっとしていないですね。
ポリエステル素材が通常のウール地に比べ、いかに濡れた後の乾きが早いかというが分かります。
これなら雨に濡れた後の、湿気を含んだベタベタとしたまとわり感から少しは解放されるのではないかと、期待が持てそうです。

モヘア混素材

ポリエステル混素材

このように、やっぱりポリエステルは雨に強いということが言えるのですが、実は雨の日の通勤用のスーツを探していたのは、お客さまのみならずかく言う私も同じです。
ちょうど梅雨入りを前に、雨の日用のスーツを私自身が1着仕立てましたので、参考までに皆さんにもご覧頂きたいと思います。

ストレッチ ピンストライプ(ブラウン地に白のピンストライプ) 3004-2
素材はポリエステル94%、レクセ4%キュプラ2%のストレッチ素材です。
レクセとはあまり聞き慣れない素材ですが、帝人が開発したストレッチ用の新素材です)
色は他にグレー、ブルー、ブラックの3色があります。

ちなみに、こちらの生地で仕立て場合のお値段は、税込で43,000円と価格もリーズナブルで、いいことずくめです。
が、やはりセールスポイントもあればウイークポイントもありで、私の試着の感想はこうでした。
素材感がいまひとつで、Super100sの持つあのマイルド感はなく、モヘアのえもゆわれぬ光沢感やハリにも欠ける...(それはそれで当たり前か....)
軽さはあるが、コシがほとんどない。
色目に上品さが欠ける
....と、正直に言えば色々と難点も出ますが、今回の狙いはただ一つ雨に強いスーツ、それさえクリアすれば多少の欠点には多少目をつぶります。

元々、ポリエステル100%素材のスーツはかつては大手メーカーも手がけていましたが、やはりウール地に比べると素材感がイマイチと今や市場にも出回らなくなったようです。
当時のポリエステル100%素材のスーツの特徴は
安っぽいメタリックな光沢
硬くごわついた表面感
通気性に乏しく、蒸れる
スーツのシルエットが出にくい
...など、雨に強く丈夫というメリットもありながら、世の男性には支持されなかったのは以上のような理由でした。

その弱点はいずれも、ポリエステルに今回のような他の素材を混紡することにより、やや改良されましたが、本来の質感までは変えるに至らず、スーツ地としては厳しく、現在は学生服のブレザーや職場のユニフォームなどに姿を留めています。

ただ、これはあくまで紳士服の世界の話で、婦人服では今やポリエステルをはじめとする化学繊維が主流と言っても過言ではなく、ありとあらゆるアイテムに使用されています。
それでは、なぜ、婦人服では化学繊維が主流になったのかと言えば
コストが安い
>>>流行がひんぱんに変わるため、とっかえひっかえの需要が多い。
染色が容易
>>>微妙な色合いまで表現可能。
質感が問われない
>>>紳士服のように、一着を愛着を持って着込むことがない。
素材の開発
>>>アイテムや用途、デザインに応じたふさわしい特性が必要
シーズンレス
>>>寒暖の差も少なくなり、特に秋冬物が薄くなる傾向が拍車をかけた。
・・・以上のようなことなどが挙げられます。
今や紳士服ではめったに見かけなくなったポリエステル地ですが、その雨に強いメリット部分を生かしてみようと思い立ったのが今回の私のスーツです。
...というところで、私の雨用のスーツに戻って、簡単なディティールをご紹介します。
シングル2ボタン
>>>こういう雨の日用のスーツは、破れない限り永遠に着るので、流行は無視!。ただし、ボタン位置とゴージラインだけは今風に高めで。
センターベント
>>>これも同じく、センターベントはいくつになっても着られます。
ミシンステッチ
>>>標準のピックではなく、雨に強そうな5ミリのミシンステッチを装備。
裏地はもちろんキュプラ
>>>湿気を考え、薄手で羽二重のベンフローラのナチュラルベージュです。
パンツはノータックで、雨を想定し丈は普段より短めに

★☆★ 大阪SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★
私も今まで数え切れないほどスーツを着ましたが、今回のような雨だけを念頭においた「実用一点張りのスーツ」は初めてです。
婦人物ではお馴染みのポリエステル素材ですが、メンズに仕立てた場合やはり質感がもうひとつと、今まで二の足を踏んでいましたが、6月初旬近畿地方も梅雨入りの声を聞き、今年こそはと思い切ってポリエステル素材を仕立てて見ました。
...と、ここまではいかにも自分で素材を選別したかのようになっていますが、実はレディース担当の藤本が先月仕立てたスーツが、予想以上に雰囲気も良く、素材的にもなんとかメンズでも使えそうと、藤本の『お願いだからお揃いは勘弁してくれ!』との声も無視して、色違いで仕立てた次第です。(笑)
メンズ・レディースお揃いは恐らく今回が最初で最後(?)さあどちらが格好良く仕上がっているでしょうか?

こぼれ話
これが仕上がって以来、大阪は雨がゼロ。
雨がふれば早速着て行こうと待ちかまえていますが、6月18日現在未だ着る機会無し...
ひょっとすると、とんだ晴れスーツかもしれないと思い始めています。(-_-;)
また、画像ではエトスのモンクストラップを履いていますが、もちろんこれは撮影用で、雨の日はこんな皮底の靴は怖くて履けません。
百貨店で買った雨用のブラウンのラバーソール9,800円も用意済みで、スーツの威力を試すために早く雨が降らないかと、池の雨ガエルよろしく空をにらむ毎日です。