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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 スーツのメンテナンスについて
新年に向けた準備が慌しい年の瀬となりましたが、皆さんはこの一年間に溜まった家中の汚れを払う大掃除などはもうお済ませになられましたか?

毎日の忙しい生活の中ではなかなか掃除の行き届かなかったところを、年末のこの時期に一年を振り返りながら掃除していますと、新年に向けて気持ちも切り替えることが出来て実に良いものですね。

さて、本年度最後の新着情報では、年末の大掃除にちなみまして、スーツのメンテナンスについて(クリーニング方法、日常的なスーツのお手入れの方法、保管方法)ご紹介したいと思います。
皆さんも折角の機会ですからスーツのお手入れについても一緒に考えてみてください。

■□■ ドライクリーニングとウェットクリーニング ■□■

まずは、スーツのクリーニングから・・・と行きたいところなのですが、その前に スーツに付く汚れの種類についてご紹介しましょう。

一口に汚れと言っても、実は汚れには、身体から分泌される皮脂尿血液と、環境から受けるホコリ排気ガス、食べ物などシミなど色々な種類があります。
そしてそれを大別しますとこんな感じになります。↓
スーツに付く汚れ
水溶性の汚れ 尿素・たん白質・アンモニア・糖類・でん粉や塩分などがあり、身近なものとしては、汗や尿、清涼飲料水など。
油溶性の汚れ 油脂・皮脂・機械油・化粧品・食用油・グリースなどがあり、身近なものとしてはドレッシング・マヨネーズなどです。
不溶性の汚れ ホコリが主です。他にはドロ、セメント、スス、繊維くずなど。

クリーニング店ではこのような汚れに対して、有機溶剤で落ちるもの(油溶性)、水で落ちやすいもの(水溶性)と、有機溶剤にも水にも溶けないもの(不溶性)の大きく3つに分類してそれに応じた洗い方をすることが可能です。
...が、一般的にスーツのクリーニングといえば、ドライクリーニングが主で、このドライクリーニングとは、有機溶剤を用いて油溶性の汚れを溶解し取り去るクリーニング方法です。
・・・ということは、つまり通常のドライクリーニングでは油溶性の汚れ以外は良く落ちないということになります。

それに対して、最近何かと話題のウェットクリーニング水洗い)は、水やぬるま湯を用いて衣類に出来るだけ型崩れ、縮み、風合いの変化等が起きないように静かに洗うクリーニング方法で、ドライクリーニングの苦手とする水溶性の汚れに威力を発揮します。

こちらは、あるお客様よりお寄せいただいたご質問からの引用ですが、これはドライクリーニングでは取りきれない汚れについて正に言い表しております。

ドライクリーニングには出しているのですが、
夏用のスーツが全体に黄色っぽくなって、汗の匂いも気になるのです...

夏場の淡色系スーツなどは特に目立ちやすいのですが、スーツが黄色っぽく変色してしまった経験をお持ちの方はいらっしゃいませんか?
パンツの太ももの辺りを中心として黄変し易いのですが、皆さんのスーツはいかがでしょうか?

この黄変は、実は身体から出る大量の汗が原因となっているのですが、前述の通りドライクリーニングだけでは油溶性の汚れは綺麗に取っても、汗などの水溶性の汚れはどうしても取りきることは出来ないために起きてしまった現象です。
ですから、汗などの水溶性の汚れにはこのウェットクリーニングが優れているのです。
ウェットクリーニングについては、当店でも随分昔にこちらでもご紹介しております。
少々割高になってしまいますが、大量の汗によってスーツが黄変しやすい夏物のスーツを守る為にも、ウェットクリーニングはお勧めです。

ところで、ここまで油溶性と水溶性の汚れについて対処方法等をご説明しましたが、スーツに付く汚れで一番多いのは、実はこの2つではなく、不溶性の汚れです。
つまり、日常スーツを着用する上では、黙っててもかぶってしまうホコリや排ガスなどが一番まんべんなくスーツを汚しているのです。
こういった汚れは概してクリーニングで落とす物ではありませんから、あまり皆さんの目に触れることは多くないのですが、では、どうやって対処するのでしょうか?

■□■ブラッシングでホコリを取りましょう■□■

まずはに、スーツの原料であるウール表面を拡大した画像をご覧下さい。
ウールは羊の毛ですから、人間の髪の毛のキューティクルと同じように表面はウロコ状になっていて、水を弾きつつ、内部でよく湿気を吸収するという特徴を持っています。
ところが、このウール構造に細かいホコリが溜まってしまいますと、ウール自体が持っている復元力、吸湿性などの機能が悪くなり、スーツの寿命にも違いが出てしまいます。

よくウールは生き物とも言われますが、それはこういった特性故に、雑に扱うとウールが死んでしまい風合いがなくなってしまうからです。
そして、この不溶性汚れであるホコリなどの汚れを取り除くのに最適な事は、普段からのまめなブラッシングです。

玄関先にブラシ(←当社逸品コーナーでも販売しております。)を置いて、帰宅後のブラッシングを習慣にしてみて下さい。
ジャケットは、汚れやフケなどの溜まりやすい両肩や後ろ襟を、パンツは膝から下を重点的に、上から下に向かって手首のスナップを利かせながら、毛先でホコリを誘い出すようにブラッシングしましょう。

日頃からしっかりとブラッシングされしていれば、クリーニングの回数はシーズンオフに一回出すだけでも十分になります。
(むしろ、頻繁にクリーニングに出しすぎると、ウールが本来持っている艶やしっとりとした感を落としてしまう危険もあります。)

続いては、スーツの型崩れや皺について...

■□■ スーツは十分休めましょう ■□■

スーツは着ていると、どうしても着皺が寄ったりするのですが、いくら良いスーツでも、型崩れしたり、皺になったり、センタープリーツが消えかかっていると、折角のスーツも台無しです。

スーツはしっかりと厚いハンガーに掛け適度な水分を与え、十分に休ませることで自然と皺を回復しますが、これはウールが持つ復元力という優れた性質故に出来ることです。
(他の素材には真似の出来ないウールならではの特徴です。)

ですから、スーツに皺が寄ったり型崩れを起こしてもスーツの肩幅に合った厚手のハンガーに掛け、十分に休ませれば、余程のことが無い限り特段のメンテナンスは必要としません。

ただ、休ませる期間はスーツを丸一日着用したなら出来れば2日程度は休ませた方が良いでしょう。
同じスーツを毎日着ていたり、クリーニング屋で貰う薄手の針金ハンガーなどに掛けてしまっていると、どんなスーツも直ぐにヨレヨレになってしまいますので注意してくださいね。
※:画像はハンガーの画像。高価な物でなくてもOKです。肩幅さえしっかりあれば。

そして、パンツでは、センタープリーツのラインが消え掛かっているとシルエットも崩れ格好悪いものです。
やはりプレスをしっかりしなくてはいけません。
パンツプレッサーなどお持ちでしたら便利ですが、アイロンで行う場合は必ず当て布の上から力を入れずに掛けるようにして下さい。
ヒザ抜けの場合、霧吹きを十分にしてヒザの後ろ側を引っ張り気味にアイロンを掛けると良いです。
なお、スーツがテカテカに光ってしまうと言う方がいらっしゃいますが、当て布を使わないでアイロンを当てたりしますと直ぐにそうなってしまいますのでご注意下さい。

また、出張などで同じスーツを何日も着なくてはならない時などは、ホテルのバスルームでカーテンを仕切ってシャワーを浴びる間にバスルームにスーツを吊るし蒸気を与えておくだけで、随分とリフレッシュしますよ。
スーツに匂いなどがスーツについてしまった時も、霧吹きを一吹きし、少し経ったらタオルで水気を取るようにしますと結構臭いも取れます。

★☆★ ちょっと一言・・・ウールの復元性と湿度について ★☆★
スーツのメンテナンスでは良く浴室にしばらく放置するとか、↑では霧吹きを掛けるのが良いと申しておりますが、これは両方ともスーツにとっては二重丸です。
保管という点では、湿度は避けるべき事ですが、メンテナンス上はウールに適度な湿度を与えることはウールの復元性を促進します。
でも、このことはスーツを縫製するときでも同じ事で、平面的な生地を立体的なスーツにするまでには何度も何度も生地に湿度(スチーム)と圧力(プレス)を与え形を整えます。
それ故、縫製工場ではスチームなどの熱を持つ機械が多く、夏場は異常なまでの高温になるんですよ。


閑話休題、最後は、スーツの保管方法です。

■□■ スーツの保管について ■□■

スーツを春にクリーニングに出すのを忘れて仕舞いこんだところ、秋に出してみたら茶色のシミが出てしまったなどという話はよくあるのですが、皆さんは、衣替えの時期、クローゼットの奥から保管していたスーツを取り出したところ、シミになってしまったり、カビ・虫喰いなどの被害を受けてたことはありませんか?
茶色のシミは、汚れが時間の経過で酸化されたもので、シミ抜きで取れる可能性は低いですから、こうなったらもう後の祭りです。

黒っぽいスーツなどは汚れていないと錯覚しやすいのですが、たとえ汚れやシミが見えなかったとしても、繊維の中に付着した汚れが酸化して変色したりすることもありますし、害虫やカビが保管中に繁殖することもありますので、シーズンオフの長期保管の前にはクリーニングに出した方が良いです。

なお、クリーニング店で包装される透明なビニール袋は、あくまでも仕上がった品物を持ち帰る途中で汚れるのを防ぐ為のもの。
そのまま収納すると、衣服に含まれていた湿気が発散されず閉じ込められた状態になりカビなどの原因にもなりますので、クローゼットに保管する際は、通気性の良い不織布のカバー(※)を掛け、更に衣類の害虫が活発に活動する6月〜11月頃の時期に備えて、防虫剤などの対策をいたしましょう。

※古いワイシャツなどを被せることでも代用できます。
※画像はクリーニング屋さんで貰うハンガーとビニール袋、そして不織布のスーツカバーです。

当店のスーツ(お持ち帰りの際にお渡しする物)は半面だけ不織布で出来ていますがこれでもOKです。
■□■ 最後に... ■□■

スーツのメンテナンスは、一見するとクリーニングが大切なように思えますが、日常の洗濯物のように気軽に洗うこと出来ませんので、何よりも普段からのブラッシングが一番重要です。
今まで余りブラッシングなどしたことが無いという方がいらっしゃいましたら、ご帰宅後の疲れた時で何かと面倒でしょうが、仕事モードから気持ちを入れ替えるつもりで、来年からは習慣にしてみてはいかがでしょうか。

本年も、当社HPをご覧頂きまして有難うございました。
どうか来年も引き続きのご贔屓・ご声援を何卒よろしくお願いいたします。

それでは、良き新年をお迎え下さい。