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 エレガントに... コンケープドショルダー
流行とは恐ろしいもので、ちょっと前まで流行の最先端だった物がある時を境に時代遅れになったりしますが、皆さんは昨今のファッションのトレンド(流れ・方向性)はこれからどう変化すると思われていますか?

「えっ?そんなのはパリコレやアパレル業界が作るんじゃない?」
・・・と言う声も聞かれそうですが、確かにファッショントレンドはパリコレやファッション業界が牽引する側面もありますが、実はそれだけでなく、これまでの趨勢(勢いや流れ)を検証すると自ずと次が見えてくることが多々あります。

近年のトレンドでは
今から15年位前のバブル期のゆったりしたソフトスーツ
その反動で、Vゾーンの狭いタイトな3つ釦スーツの台頭。
センターベント中心の没個性デザインからサイドベンツの登場などなど...
直近の7〜8年は落合正勝氏が日本に持ち込んだクラシコイタリアが全盛で、肩パットを薄く、柔らかく羽織るかのようなスーツ観が人気を集めていました。

でも、ここ1年ぐらい当サイトでも少しずつ露出度が上がっていると思いますが、カチッとした英国調のスーツがまた台頭してきています。
どうやら、クラシコイタリアは柔らかくて優しい雰囲気なんだけれど、スーツは優しさだけでなくビジネスの交渉事や勝負事の時に使う大切な戦闘服でもあるんだ!ということが再認識されているのではないでしょうか?

クラシコイタリアは「緩(ゆる)く」もっと『硬派でエレガントなスーツが欲しい!』といった趣向の変化ではないでしょうか?

そこで当店では次なるトレンドの一案としてカチッとしてエレガントなコンケープドショルダーのスーツをご紹介したいと思います。

まだメディアでもそれほど採り上げられていませんからこれがトレンドとして認知されるかは微妙ですが、ファッショントレンドは得てして、今現在主流の物からの反動が大きく影響しますから、次はこんな風になるのではないでしょうか?

それでは、コンケープドショルダーの一般論と当店で今仕立てているスーツをご紹介したいと思います。
まずはコンケープドショルダーとはどんなものかの説明から・・・

コンケープドショルダーとは
□ まずは現物の画像と特徴を □
一番の特徴は・・・上述の通り肩のラインが湾曲し肩先が上にツンと立ち上っているラインに特徴があります。
でも、肩のラインは元々は首から肩先にかけて下がっている訳ですからこのラインを作るのはそう簡単ではありません。
それ故に丁寧な仕立てが出来る工場でないとこのラインを創り出すことは出来ず、昨今ではイージーオーダーでも既製品でもこういった仕立てが出来るところは少なくなりました。
これを言うと次のトレンドを供給する工場が出来ない=次のトレンドになりえない とも受け止められますね。)

まずは、画像をご覧になって如何でしょうか?
画像の物は、つい先日フルオーダーで仕立てた物ですが、肩先にかけて緩やかにコンケープしているのがお分かりになりますでしょうか?
ピンと来ない方はで好対象のナチュラルショルダーと比較をしていますのでそちらでご覧下さい。

雰囲気なかなか良いですね。ちょっとクラシックだけれどエレガントです。
ちなみに生地はコンケープ用と言わんばかりに仕入れた英Taylor&Lodgeのモヘヤ60%混紺地にピンクストライプです。

(夏物で紺地にピンクストライプとは結構エッチな色柄です。(^_^;)

□ ドコが違うの? □
画像をご覧いただきましたが今ひとつコンケープといっても分かりづらいですか?
それではコンケープドショルダーが普通のスーツと比べどこが違うのか、外見的なこと、型紙的なこと、その他ご紹介したいと思います。

よくスーツを買うとき店員さんが『スーツのパターンが・・・』と言いますがこの辺をじっくり見ると違いが分かります。

<< 外見的なこと >>
試しに今回のスーツの画像をに、ナチュラルショルダーの物(画像)と比較してみました。
どうでしょうか?
ブルックスブラザーズや昔のVANなどアメリカントラッドの流れを汲むブランドは肩がナチュラルショルダーと言って肩先が丸くなっているのが特徴です。
コンケープドショルダーと比較するとその違いが分かりますよね。

<< 型紙は・・・ >>
外見的なことがお分かりになった後は型紙で検証してましょう。
消費者向けにこんなことまでするお店って珍しいですね。(ウチも本当に好き者です...(^^;)

まずはアームホールを中心に前身頃細腹後身頃をまとめた画像をご覧下さい。
こちらですと画像が大きいため詳細が分からないので、前身頃側(ピンク丸部 詳細図1)と後身頃部分(緑丸部 詳細図2)に分けて説明します。
<詳細図1 前身頃側 >
こちらはスーツの正面側から見た胸〜肩にかけての型紙です。
コンケープドショルダーの型紙は赤線で、通常の型紙は黄色で肩線を表現してみました。
詳細図1
ご覧いただくとお分かりの通り、コンケープ(赤線)は従来パターンと比べると首の付け根から肩先に掛けて、首側は通常より少しえぐるようになっていて、それが肩中央部位で交差して、肩先は逆に上に昇っている。
当たり前ですが型紙も外見そのものですね。

<詳細図2 後身頃側 >
今度は背中側から見た型紙(肩線)です。
画像を見て右側が首の付け根側、左側が肩先に相当しますが、同様に首元は下がり方が急で、肩中央部で交差、肩先に掛けては逆にスッと立ち上がっていますね。
詳細図2

でも、これだけじゃないんですよ。
コンケープドショルダーの場合は肩先が上がりますし、肩先をビルトさせる分どうしても肩パットを厚めにしますから、その分アームホール全体が上に上がります。
その補正もしなくてはいけません。

どうするか?というと、肩パットが厚くなる分はアームを大きくして、アームを大きくし過ぎると今度は外見が野暮ったくなりますから、脇を少し浅くします。(とはいえパットが厚くなる分はアームを大きくしないと対処しきれません)

アームホールの画像は複数のパーツが絡み合っているため分かりにくいですので、山袖(上側に付く袖)の型紙を例にそれも検証してみましょう。

画像(右)もまたコンケープドショルダーで、レギュラーパターン黄色でトレースしました。

どうですか?
コンケープの方が袖が随分高く作られていますよね。
これが袖(アームホール)から見たコンケープの作りです。
丁度、隙間相当がコンケープの肩パッドの高さとそこから来る肩先の丸みの差です。

ここまで型紙をいじるとは...コンケープもなかなか凝っているでしょう?

□ でもこれだけじゃないんです。その1
でも、これだけではありません。
コンケープが肩を構築するために肩パッドを厚めに入れることはご理解いただけたかと思いますが、ただ厚くするだけじゃ、やっぱりダメです。
肩パットも肩先に向けてコンケープさせなくては...

コンケープ用肩パットは特注で作ります。
画像をご覧下さい。が通常の肩パッド、がコンケープ用です。
コンケープの方が肩先(右側)がツンと尖っているのがお分かりになりますよね。

そうです。この肩を作るためには型紙だけでもダメですし、肩パットから専用の物を使わないといけないのです。(当社の場合です。他社は知りません。)

□ でもこれだけじゃないんです。その2
でも、更にこれだけでもないんです。
この肩パット。形が特注なのは言うまでもありませんが、実は中身も特注です。

ご存じない方が殆どかと思いますが、肩パットってフェルトや綿のような物で出来ています。
そうです。柔らかい物です。
そんな柔らかい物、形をどんなに尖らせて無理させてもいつかはクシャっと(肩先が)潰れませんか?
...こう考えてもおかしくないですよね。
ですから、ここでも特別な工程を行います。

どんなことをするかというと、肩パットの中に一枚厚めの芯地を間に入れるんです。
こうすることで堅い芯地が肩パットの型崩れを防ぐことになるのです。
中に入れている芯地は画像の中でちょっとベージュ色がかった部分です。
凄いですね...
たかがデザイン上の物と侮るなかれ。
その気になればやることは山ほどあるんです!

□ でも、これだけじゃ終わらない!その3
ここからはウチらしいのかな?肩のラインだけではちょっと物足りない。
折角の自分のスーツですから、2つほどアレンジを加えました。

< ゴージライン >
コンケープドショルダーは昨今のデザインの中では抜群にエレガントなデザインだと思います。
そこで肩だけをエレガントにしたのではツマラナイ!
ということでゴージラインにもアレンジを加えました。(このアイデアは後述する他店から頂きました)

ゴージラインが緩やかにカーブしているのがお分かりですか?
スィートカーヴゴージラインとでも申しましょうか?
素晴らしくエレガントです。

< フロントカット >
最近はカッタウエイフロントが全盛ですが、私のはこれだけでは終わりません。
吉井工場長にお願いして、2段カーブするフロントカットにしました。

どうですか?
カーブの途中でクッッと、2段に分かれているのが分かりますか?
画像は以前作った同じフロントカットの物で撮影しました。

皆さん、如何でしょうか?
肩のコンケープと、ゴージのスイートカーブ、そして2段カットのフロントカット。
全体のバランスが取れていてかなりエレガントです。
もちろん、ウエストのシェイプなどその他の部分もぬかりなく仕立てました。

ちなみにこのスーツはしばらくの間(4/12〜概ね7月頃まで)東京店にて展示いたします
なかなか手の込んだ仕立てですのでご来店の際は是非ご覧下さい。

□ 最後に・・・ □
本稿では当店のコンケープドショルダーをご紹介しましたが当店を含め業界を見回してみますと、現在の所、フルオーダー、イージーオーダー、パターンオーダー、既製服業界の中でのコンケープドショルダーの取り扱いは私の知る限りでは次の通りです。
フルオーダー業界
>>> 技術的にはできると思われますが、これを積極的に紹介している店は絶無概してフルオーダーの業界はトレンドに対して後手後手になるものです。(当社は違いますが・・・)
イージーオーダー業界
>>> 今から20年以上前はコンケープが出来ていたが当時の型紙は現存せず。(ただし、当店が使用する工場ではただ今開発中)
パターンオーダー業界
>>> 現存のパターンオーダーでは絶無。唯一後述1社のみ対応可。(Special Thanksご参照)
既製服業界
>>> 高額プレタを除きほとんどなし。一度トレンド化すると取り入れは早いが、上述までのこだわりは難しい。

Special Thanks
今回のオーダーではゴージのスイートカーブのアイデアを下記の店舗さんからお教えいただきました。

ワールドビスポークさん

現存のパターンオーダー業界の中でコンケープドショルダー&スィートカーヴゴージラインが出来るのはこちらだけだと思います。
ちなみにMENS EX4月号に掲載されていました。

パターンオーダーでコンケープドショルダーを試されたい方はこちらにお問い合せ下さい。
「オーダースーツのヨシムラから紹介された」というと何かサービスしてくれるかも知れません。