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蒸し暑くなりました... |
新緑眩しい季節になり、桜舞い散る頃入学・入社した初々しい若人達も1ヶ月が経ち、新しい環境に慣れそろそろ新芽が出始めた頃でしょうか。
何も慣れたのは新人達だけでなく、その先輩や上司の方々もまた同様ですよね。 気温も日に日に高くなり、就職活動中に用意したスーツも少しずつくたびれてきて、先輩や上司からの指摘も無きにしも非ず!? 今年は5月に入ってから、最高気温が25度を超える夏日も出てきたようで、間物(あいもの:春秋物)スーツではチョット暑い日が多くなりました。 そこで、今月は本格的な蒸し暑い日が到来する前に皆さんにモヘア混素材についてご紹介したいと思います。 よく夏スーツ素材=モヘアって耳に挟むけど、いまいちピンと来ない方もいらっしゃるのではないでしょうか?! 当社ホームページでも、今まで詳しく語られなかった部分でもありますので、今回はモヘア『mohair』についてご紹介いたしましょう。 |
□ モヘアとは・・・□ | |
先ずはじめに、モヘアの名前の由来ですが... これはトルコ語のMukhyarがなまったことに由来すると言われ、『最高の毛』と言う意味です。 産出国は主にトルコ・南アフリカ・アメリカなどで、その毛はアンゴラ山羊から刈り取られる毛(ヘアー)のことをモヘアと指します。 特徴は・・・簡単に言うと光沢感と弾力性があることで、分類の上では、広義ではウールに入りますが、狭義では獣毛の部類となります。 因みにその他の獣毛は、カシミヤ・パシュミナ・ビキューナなどで、羊毛とは異なる性質で分類されております。 そのモヘアの断面は直径が30〜50ミクロン位で、これは標準的なスーツ用のウールをSuper80's=19.5ミクロンとすると、ウールに比べ太いのが特徴です。 また、子供から取れるキッドモヘアという毛は25〜30ミクロンで大人(ヤングゴート・アダルトゴート)のアンゴラ山羊よりも細く柔らかく、モヘアの中でも高級な位置付けです。 |
□ 何故夏にモヘア??? □ | |
ところで、そもそも何故蒸し暑い時にはモヘアが向いていると言われるのでしょうか? 先ずウールと比べて説明いたしますと、一番の違いは表面の違いがあります。 下図の様にウールとモヘアは、それぞれスケールと呼ばれるウロコ状のヒダがありますが、 ウールのスケール(下図左)は普段閉じていて、湿度が高い時に松ぼっくりのように開いて湿気を吸ってくれ、更に繊維内の水分が飽和点に達すると水分を放湿し、その気化熱で涼しさを生み、糸内部の温度を調節してくれるのです。 あの一見モコモコした羊からは暖かさばかりが連想されますが、このような理由で意外ですがウールでも涼しく春夏でも着られるのです。 |
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そして、ウールが上述のように涼しい効果を得られるのであれば、モヘア生地は不要なのでは?と思われる方もいらっしゃるかも知れません。 確かにウールで事足りる環境であれば良いのでしょう、、、 しかしながら日本のあの高温多湿の夏がある限り、モヘアの需要がなくなることはないでしょう。 それは何故かというと...モヘアには次のような特性があるからです。 |
□ モヘアの特性 □ | |
モヘアも特性はというと、ウールに比べ、縮れ(クリンプ)が殆どなく、縮れと縮れの間に空気を含んで保温効果を生み出すウールと違い、糸自体が熱を保つ性質はウール程なく、熱伝導率が低い為、その結果 表面にヒンヤリしたタッチを生み出すことです。
それに加えて、混紡率60%モヘア生地を織る時には、横糸にウールを、縦糸にモヘアを使用しますが、上述のようにウールとモヘアとでは糸の太さが違う訳ですから、双方を織り上げた時の表面に下図のように接地面に凹凸が出来ます。 その結果、肌に触れる表面積がウール100%と比べ少なく、そこに空気(図:水色)が通る空間が出来て涼しいタッチが生まれるのです。 |
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では、このモヘアをウールに置き換えて糸を生成したらどうなるでしょうか? 同じようなハリコシを持った糸を撚るとなると、ウールの原毛を撚る段階でそのヨリを強烈に掛けなくてはならず、その分通常よりも糸を多く使用することになり結果、生地その物が重くなってしまいます。 そのため、そこまでしてモヘアのようなハリコシを出すのは非合理のためウールではそこまでやらないのです。 (この辺はそれだけでも十分1回分のWebネタになりますので機会を見て改めてご紹介しましょう) そして、今度はそんな素晴らしいモヘアだったら、いっそのことモヘア100%にすれば良いのではと言う声もあろうかと思います。 確かにその方が手っ取り早い気がいたしますが、先の図で案内した通り、モヘアの表面はツルッとしていて、それがガサガサの(?)松ぼっくり状のウールと絡み合うからこそ、生地として落ち着く物がそれがツルツルのモヘア同志ですと縦横の糸が相互にずれる『スリップ』現象を起こすため、モヘア100%ですと生地が歪み型くずれしやすくなってしまうのです。 (↑ただし例外もありまして、ゼニアのモヘアトロフィーシリーズで100%モヘアと言う生地も存在しております...流石はゼニア恐るべしですね。) |
□ モヘアの弱点!? □ | |
さてさて、このようなロジックですと良いこと尽くめのモヘアと思われがちですが、実は弱点もあるのです。 その硬さ故に多少チクチクするので肌のデリケートな方には難点なのと、 糸自体が硬い為、擦れたりすると生地が削れて薄くなってしまうという耐摩耗性で些か弱い面、 他には、ウールとの混紡により雨(水分)にたっぷりベッタリ濡れると、それぞれが水分を吸収した時に繊維の太さの違いから来る収縮率の差の影響で、生地表面が画像のようにガサついてしまう点があります。 よって、梅雨が明けた真夏にこそモヘアは夏スーツ素材としてが生かされるのです。 ちなみに、モヘアを扱う生地ブランドの中でも特に有名なのがドーメルのトニックという生地です。 最近は取り扱いも少なくなって当店でも取り寄せでなければ対応できませんが、そのタッチは麻のようにシャリシャリして、とても硬いです。 今の若い方には、余り知られていないのでトニックをご存知の方は、オーダー通ですね。 |
□ 当社オススメ、モヘア達 □ | |
それでは当社が今シーズン取り扱う商品の中からおすすめのモヘア達をいくつかご紹介しましょう! |
○ スキャバル社製 G6153〜G6157 | |||
モヘアのサラッとした触感を持ちつつ、通常モヘアでは表現しにくい軽さを表現できたのがこのスキャバル社のモヘア混。 キッドモヘアで混紡率を30%程度に抑えたからこそこのような軽い仕上がりなんでしょう。
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◎ 児玉毛織社製 クリスタルモヘアシリーズG6022〜6024、G6026) | ||
モヘア入門編としてオススメなのがこの児玉毛織のシリーズ 当店でももう20年 定番として扱っている本命中の本命です。 |
◎ 伊トラバルドトーニャ製 G6108〜G6112 | |||
ちょっと変わったところではこのトーニャ製のモヘア混ストレッチ素材。 モヘアはハリコシから堅いと言われていたところをストレッチ素材を入れることで、柔らかさ・しなやかさを持たせました。 モヘアが堅い...とばかり思っていると、これを着るとビックリしますよ!
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○ 英テーラー&ロッジ G6196〜G6200 | |||
最後に紹介する英テーラーロッジはモヘアの最右翼。 ゴツゴツ、バリバリのがっちりスーツにはこれが一番ですね。 先日東京SHOPMASTERがコンケープドショルダー(肩が盛り上がったスタイル)で1着仕立てましたが、それもこんなモヘア入りの堅い素材だからこそ様になるのです。!
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以上、夏と言ったらモヘアの特集でした。 今夏の気温が高くても低くても、日本の暑い夏には変わりがありませんので、皆さんも是非モヘアを一度試してみてくださいね。 |