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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 生地と仕立ては何故一緒?
梅雨時になり鬱陶しい天気が続くようになりましたが読者の皆さんはいかがお過ごしですか?

この時期は客商売の我々にとっては雨が降るとお客様の出足が鈍り、予定したお客様がお見えになられないなど急に時間がぽっかりと空いてしまうことがあります。

そこで今月はいつもより落ち着いてじっくりオーダー業界のことを考えてみました。(H19.05.31大雨の中 執筆)

さて
生地と仕立ては何故一緒? 』などと一寸変わったタイトルを作ってみましたが、皆さんはスーツをオーダーする際にこんな事を思ったことありませんか?
「このテーラー仕立ては良いんだけど好みの生地がないんだよなぁ〜」
「昔貰った生地があるんだけどどのテーラーに持ち込んでも断られるんだよな。」
「ヨシムラの所で生地だけ買って地元で仕立てられないかしら?」
...などなど、
つまり生地の購入と仕立ての依頼を別々にすることは出来ないか?と言うことです。

これに対してこれまで当社では下記の新着情報等を含めて、生地の持ち込みは原則NG、というスタンスをとっておりました。
 参考URL お客様いらっしゃい「30年の眠りから覚める!!」(01.08古い!!)

生地の持ち込みに消極的な理由はいくつかありますが、
1.万が一ミスがあったとき補償が出来ないから。(リスキー
2.生地の長さ等物理的に難しいことが多いから。(物理的問題
3.単純に儲けが少なくなるから。(儲からない
...というのが本当のところで特に当社のように薄利で販売しているお店では仕入原価の分からない他社製の生地で万が一チョンボをしてしまうと、それだけで赤字になってしまうのは恐ろしいことです。

だから生地の持ち込みはお店としては「して欲しくない」事なのですが、
しかしこれについて最近疑問に思うことが増えてきました。

それは何故かというと・・・

□ 生地の持ち込みは本当にリスキーか?
確かに時折お店に持ち込まれる生地には、祖父からン10年前に譲って貰った物だとか、海外で購入した物などが多く、実際いざプロが生地を調べてみると傷があって仕立てられなかったり、長さが足りなくて仕立てられない、ということが往々にしてあります。

でも、こういったケースを論外とすれば生地の持ち込みは仕立てる側から見れば『別に問題ない』ことです。

というのも、近年当社では関連会社で直接縫製工場を持つようになり、縫製工場の立場で物事を考えることが多くなってはじめて理解したことなのですが、
工場の発想で言えば、工場はいつも持ち込み生地で対応しているのです。(つまり工場は自らの在庫ではなくテーラー等から生地を送られそれで仕事をしているという意です。)

、、、ということは、面倒臭がらずにちゃんとやれば問題ないのではないでしょうか?

では何故、生地の持ち込みをそんなに嫌がるのでしょうか?

□ 生地の持ち込みを嫌がる本当の理由
先程、持ち込み生地を断る理由を3つ挙げましたが、本当の所を言うとホンネは3番の「儲けが少なくなるから」ではないでしょうか?

つまり、例えば当店の場合、1番安いスーツ(生地代仕立て代込み)は37,000円ですから、生地を持ち込まれてもそれ以上のお値段というのはご請求できません。

ですから仮に仕立て代の値段をイージーオーダーで35,000円とすれば、、、 どんなに頑張っても35,000円以上の利益は望めません。
もちろん、これには工場への支払いや裏地・付属品代などのコストと背中合わせですから、そららが仮に2万円とすれば15,000円位しか儲からないのです。
 でも、この15,000円という利益は妥当でしょうか? 
私はもはやこの業界にどっぷり浸かっていますのでこれが世間一般から見てどうかは判断できませんが、正直この粗利が全てではキツイと思います。
もちろん中国縫製でお仕立て上がり19,800円のオーダースーツもあるぐらいですから、単純に数をこなすオーダーならこの粗利で充分ですが、まともに1着1着真剣勝負するには稼ぎが少な過ぎます。

オーダー業界って、こんな低賃金で魅力のない世界だったのでしょうか?

いえ、昔は違いました。

□ 昔のテーラーは? □
私が子供の頃のテーラーは違っていました。
大きく違うことは各店舗がそれぞれ職人や下職を抱えていわゆるフルオーダーが中心だったこと。
そして、値段が圧倒的に高かったこと。

皆さんも昔話で
「昔はなぁ、給料の3ヶ月分を払って一張羅を仕立てたものだよ・・・」
なんて台詞を聞いたことがあるでしょう。
昔はそれだけオーダーは高価だったのです。(当時はイージーオーダーはありませんから全てフルオーダーです。)
ということは、テーラーも1着当たりそれなりに儲かったのです。

それが、ここ20年でイージーオーダーと言うマシンメイドとオーダーメイドの両方の長所を取り入れたシステムが台頭し、それが中心となってくると事情が変わってきます。
それまで個別に型紙を作っていた作業がコンピュータにより簡単に個別型紙が作れるようになってしまったのです。また高性能のミシンがそれまで手縫いで行っていた作業の生産性を格段と向上させたのです。
つまりイージー(簡単)にオーダーが出来るようになってしまったのです。

多くのテーラーはこのシステムに乗りました。
でも、その時から同時にハンドメイド技術の衰退オーダーの価格破壊が起きてきます。

つまり、ハンドからマシンに変わることでコストダウンする、それによって競争が激化し販売価格も下がっていく。
ましてイージーオーダーで製品の差別化が難しくなるとなおさら、価格勝負になってしまう。
こうして長期の消耗戦が始まっていくのでした。

そしてその過程の中で、いつしかテーラー業はお仕立て代の名目で自分の給料をまかないきれずに、生地代にも自店の利益を乗せないと商売が回らなくなってしまったのです。
(もちろん既製服業界の隆盛等々他の要因も沢山あり、上述は多少拡大解釈しています。)

それ故、いつしか生地はテーラーで選ぶもの、生地は仕立てとセットで販売される物となってしまったのです。
でもこれは生地屋の業界で見れば、消費者から縁遠い存在になったことを意味します。

□ 当社の立場 □
色々と書きましたが、『ヨシムラお宅だってそうだろ!』というご指摘もあろうかと思います。
その通りですが、当社は状況が少し違っています。
それは、当社には『仕立屋の側面』と『生地屋の側面』あるからです。

仕立屋の側面では、当社は私が子供の頃はフルオーダーの下職を抱えてハンドメイドでお仕立てをしていました。
(ただし、生地屋が主業のためテイラー業は生地屋の顧客(テーラー)と競合してしまうため積極的な店舗展開は出来ませんでした。)
ですから、こういった面では当社はテーラーですので、今でもスーツの販売価格はゼニア1着75,000円と書いても、その中に工賃いくらで、生地代いくら、とは書いていません。

でも、
一方では生地屋の側面では時々寂しく思うことがあります。
それは、どんなに良い生地を安く仕入れてもそれをなかなかご評価頂けないからです。
これは生地屋の業界全体が小売りという日の当たる場所からテーラー向け卸売という裏方に特化し影の存在になっていってしまったからです。
皆さんは、百貨店でお求めになるゼニアがダンヒルが他のブランドがどんな生地屋や商社を通じて日本に入っているかご存じないでしょう。
そうです。一生懸命仕事をしてもそれがなかなか認められない世界なのです。
当社のサイトが普通のテーラーよりも素材に対して詳述しているのはその反動なのかも知れません。

少し話が本題からそれてきました。閑話休題。

それではこの仕立て代と生地代を分離できないと言う問題、果たしてこれからも続くのでしょうか?

■ これからの可能性 ■
私はこれからもずっとこの調子が続くとは限らないと思っています。
それは、近年のオーダースーツブームと近年のインターネット社会がこの状況を変える起爆剤になる可能性があるからです。

それぞれどんなことなのでしょうか?

〜 近年のオーダースーツブーム 〜
CoolBizをはじめ、最近はメンズファッション特にオーダー物が注目されています。
Men'sEX、LEON、Men'sClubなどなどファッション誌は非常に多くなっていますし、それ以外にも高級革靴や機械式時計なども以前よりずっと注目されるようになりました。
バブル崩壊中の時期に、男性の消費は不景気では真っ先に減退し、好景気になったとき一番最後に回復すると言われていたのが嘘のようです。

そして、昨今は消費者もメディアの影響もあり随分それぞれの商品に対し目が肥えてきました。

だからこそ、昔はハンドメイドがマシンメイドに切り替わっていった時、品質の変化に気付かなかった消費者がここに来てマシンメイドとハンドメイドの違いに気付く、あるいはそこに価値を見いだせるようになったと思うのです。
また高価なハンドメイドではなくマシンメイドのイージーオーダーでも、最近のオーダースーツブームで各工場色んなディテールやシルエットを持つようになりましたから、当店のように組み合わせ次第では多様化する消費者に充分応えられるようになって来たのです。

これは真面目に一生懸命手間暇掛けて仕事する職人や店員が正当な評価を受ける良いチャンスです。
「あそこのテーラーはハンドで技術があるから●万円の仕立て代は当然だ」
「あの店のスタイル(センス)が好きだから、あそこのイージーで仕立てて貰いたい」
そんな声も出てくるようになり、本来の仕事(=仕立て)で正当な対価を受けることができるようになるのではないでしょうか?

〜 近年のインターネット社会 〜
インターネット社会はを倍加させる効果があります。
当社がこれだけここ数年で知名度が上がったのも全てインターネットのお陰です。(当社は雑誌等には広告を出していないので...)

また、Net社会は消費者にとって情報を安易にコストを掛けずに調べることができるようになりました。
だからこれまでは情報量の少なさ故に諦めなくてはいけなかった事柄がNet化で消費者の好奇心をくすぐるようになったのです。
これはお店からしてみれば頑張れば規模の大小に関係なく認められるということを意味するのではないでしょうか?

そこで、私は生地屋としてこんなことを考えてみました。

■□■ 生地だけを販売するサイトは可能か? ■□■

そうです。
インターネットを利用して生地だけを販売するサイトです。
お客様からは注文時にご身長などのサイズを伺って必要な長さを計算しご案内するといったもの。
お客様は、当社から生地を購入し、それを各人がテーラーへ直接持ち込む。
そんなサイトです。

さて、こんな事出来るでしょうか?
新しいビジネスを考えるとき真っ先に実現可能性を考えますが、そのためにまずは障害から考えてみましょう。
こんな障害が想定されるのではないでしょうか?

1.テーラーの抵抗
>>> テーラーさんにとってはこれまで生地の代金まで利益に乗せていた物が、これからは仕立て代でしか取れなくなりますので、まずテーラーさんは私の提案をお認め下さらないと思います。
自分でもそりゃそうだ、、、と思います。

でも、こんな事をしてみてはどうでしょうか?
そのサイト(生地販売サイト)を通じてお仕立てが可能なテーラーを紹介してみては?

つまり、『当社のサイトで生地を買われた方は下記のテーラーでお仕立てを承ります。』と表記するのです。
そうすれば、消費者は生地の持ち込みを断れれるという不安から開放されますし、当社が積極的にテーラーを紹介すれば仕立屋にとっても新たな顧客を取る大きなチャンスになるのではないでしょうか?
(ただし、この場合は「オーダースーツのヨシムラ」が経営主体になってはいけませんね。)

2.百貨店や各ブランド等の抵抗
>>> 上記提案の生地販売サイトでは、状況によっては価格競争が起きてくるでしょう。
Netですからね。致し方ありません。
その時、大手の店舗や各ブランドから抵抗されることはないでしょうか?
つまり、卸売販売の会社が小売りをする訳ですからそれに対しての抵抗です。

う〜ん、これは十分予想されることですが、ここで是非考えて貰いたいのは現状でも百貨店のオーダー(1着20万円以上の商品)は大きく疲弊していると言うこと。
つまり、これで業界が活性化し、百貨店で一流のオーダーを、、、というムードが出来ればそれは結果的にプラスになるのではないか?と。
(伊勢丹メンズ館辺りの理解がないとダメですね。(^_^;)

3.スケールメリットを出せるか?
>>> このアイデア、私自身なかなか良いとは思っているのですが、1つ大きな欠点がありました。
それは、生地を沢山取り扱うといっても、当社で扱うには限りがあると言うことです。
つまり、たまたま当社はゼニアやロロピアーナ、ダンヒルなど今人気のブランドを扱っていますがブランドはこれが全てではなく自社で網羅できない生地も沢山あります。

消費者のニーズは千差万別だから自社だけでニーズを満たしきれないということなのです。
生地を買うと言う点でポータルなサイトを目指すならなおさらです。
う〜ん、、、同業(生地屋)の支援もないと出来ないことかも知れません。

またスケールメリットと言う点では広告宣伝も問題になるでしょう。
つまり生地の販売でそれなりに採算が取れるためには、数多くのページビューがなくてはいけない。
それをするにはどうしても雑誌媒体などに採りあげられないと人が集まらないということ。

う〜ん、、、誰かファッション雑誌にこのアイデアを売り込んでいただけませんか?
いやいや、Men'sEXが主導してやってみては?...

なんてことをただ今私吉村は考えております。

今回の話、面白かったでしょうか?
よろしければ皆さんのご意見も下記のアンケートにてお聞かせ下さい。

(アンケート方法は、表の左側の「回答」欄のチェックボタンを選んで、表下の「回答する」ボタンをクリックして下さい。)


今回の話、実はつい先日生地屋のオーナーさん達が集まる会合で皆さんを前に発表したことです。
話はまだまだ荒削りで改善する余地が沢山ありますが、当社は仕立屋と生地屋という2つの立場で業界を支えていきたいと思います。

近い内に、お客様を交え第2弾、第3弾のお話が出来れば...と考えております。