2023年11月24日更新 執筆者:東京店 河本
早いもので2023年も残すところあと1ヶ月ちょっと。 今年は残暑が厳しく秋を堪能する時間が少なかったせいか、例年に比べ一年が早く感じている東京店の河本です。 残りの時間が有意義な時間になるよう1日1日を大切にしていきたいですね。 さて 前回、英国から一時帰国されるタイミングでシャツの「衿・カフス交換修理」を依頼されたNさん。 果たして修理したシャツはどんな仕上りになったのでしょうか。また、不安要素であった色目と残布少量の件の行方は? 今回はそれらを仕上がり品と合わせてご紹介します。 本題に入る前に少しおさらいを。 ※前回までのお話は【2023/11/17更新 シャツのお直し依頼】よりご覧いただけます。
英国にお住まいなられて20年、今は国際企業間のM&A仲介をされている60代紳士のNさん。 今年6月の一時帰国の際には夏のサマージャケットをご注文され、本コーナーにもご登場いただきました。 そんなNさんの今回の依頼はというと、シャツお直し。それも『衿とカフスの交換』を希望されていました。 Nさんとのお引き取りは長く、今回お直し希望のシャツは計5枚なのですが、直近で仕立てたシャツで約4年前の物、その前の物は10年前、15年前と随分年数が経っています。 シャツは、スーツに比べ襟周りや袖先の痛みが早く、一般的に2年~3年で処分される方が多いです。しかし、Nさんは、長い物では1枚のシャツを15年も愛用されています。 またそれを今回お直しし、更に永く愛用出来るようにする。こうしたNさんの物を大切にされるところ、まさに英国紳士です。 さて、事前のやり取りをまとめると、
※残布=お仕立てした際に製品と一緒にお渡しする残り布
このような内容でしたが、Nさんが来店される前に生地在庫の捜索等した結果、今回は計3枚のシャツをご持参頂く形となりました。
3枚ご持参頂くとはいえ、果たして3枚すべてお直し出来るのかという不安要素も。 と、言いますのも・・・ 不安要素1つ目は、パープルストライプシャツの残布の量。 Nさん曰く残布の量が少ないため、衿・カフスを交換するのに生地が足りるか心配とのこと。 これは、実際に現物を拝見し、我々で判断出来なければ工場に確認してもらうしかありません。 2つ目は、スカイブルー平織シャツの色目。 こちらは残布が少ないものの、唯一生地在庫が確保出来ましたので、お直しは出来るようになりました。 しかし、どうしても年数が経っているため、シャツの色が褪せてしまっていることがあります。そうすると元々の生地の色と、褪せてしまったシャツとで色見が変わってくるので、まるでクレリックにしたかのようになる場合もあります。クレリックがお好きでないNさんに受け入れてもらえるか、実際に見て決めて頂くことにしました。 《補足:生地の退色について》 これはシャツにもスーツにも言えることですが、スーツもシャツも着用される際に日光を浴びると生地の色は少しずつですが必ず退色します。着用される方は日々の退色では気付くことはありませんが、お直しなどでパーツだけを変えるような時にはその境目で色の違いが分かります。(スーツでも何年か経ってからスペアパンツを新調する場合などは色の違いに気付くことがあります。) そして、いざ10/31に来店されたNさん。
こうして、早速今回お持ち頂いたシャツを拝見することに。 先ずは、シャツ3枚の状態を。
確かに、衿とカフスが相当傷んでいますね。これは、衿・カフス交換修理で綺麗にしなくては!
次に残布の確認。 白ヘリングボーンシャツの残布については、心配無用なほど十分過ぎる量の生地がありました。 普通そんなに沢山残布をお渡しすることはないので伺ってみると、どうやらこのシャツは奥様と一緒にお仕立てされたみたいで、2名分の残布だったようです。これだけあれば問題ありません。
ご参考まで:私たちがシャツをお客様にお納めする際に、お仕立てに使用した生地の残りを残布(ざんぷ)として製品と共にお納めします。 そしてその際には1回襟・袖の交換が出来るぐらいの長さを目安としてお付けしています。
しかし、問題はパープルストライプシャツの残布。 実際に見てみると、本当に足りるか足りないかギリギリの量でした。ですので、これは工場に確認をしてもらうことに。 因みにスカイブルー平織シャツの残布は、一目見てあきらかに量が少ないと分かりましたので、工場在庫を使用することにしました。 そして最後、スカイブルー平織シャツの色目の確認。
画像のように、やはりNさんのシャツは色が褪せていて、生地本来の色目と差がありました。 正直ここまで差があると、クレリックがお好きでないNさんはお直しを断念されると思いました。しかし、Nさんにこのことをお伝えしたところ、、、
・・・と、色目の件はご理解いただき、お直しを進めることになりました! 不安要素の1つはNさんのご理解もあり解消されたところで、ここで一旦3枚のシャツを工場に送り、残布の結果を待つことに。 待つこと2日。工場より恐れていた連絡が。
折角持って来て頂きましたが、このパープルストライプシャツについては、残布の生地が足りず、お直しが出来ずとなってしまいました。(申し訳ありませんでした。。。) なくなくこのことをNさんに伝え、ご了承頂いた上、結果今回はシャツ2枚を衿・カフス交換する運びになりました。 そうして仕上がったシャツ2枚がこちら。
いかがでしょう。 擦れや破れは無くなり、パリっとしたシャツに生き返りました。衿・カフス以外の部分は日頃から丁寧にお使いになられていることから、色褪せはあるものの綺麗な状態ですので、今回お直ししたことで、また永くご愛用頂けるようになると思います。
この白ヘリンボーンシャツついては、色目の差もほとんどなく、綺麗に馴染んでいますね。クラシックなヘリンボーンシャツはビジネスのみならず、会食やパーティーなどのフォーマルな場でも重宝しますので、これからまた様々な場面で着用頂けると思います。
身頃と衿・カフスで色の差は出てしまいましたが、不本意ながらジャケットに合うような洒落感のあるシャツに仕上がりました。ですので、まずはジャケットスタイルやシャツスラックススタイルなどで日頃から着用し、色目が馴染んでくるまで少々ご辛抱ください。
何とか無事、Nさんにもお渡しすることが出来ました!
後日、着用された画像と一緒に、このようなご連絡も。 前回お仕立て頂きましたジャケットと爽やかに着こなしていただき、嬉しい限りです。
以上、本コーナーで久しぶりに『お直し』のことを取り上げてみました。 衿とカフスを交換すると、またパリッとしたシャツに生まれ変わりますし、修理費用もリーズナブルですので、ご検討されている方は是非店舗にご相談ください。 ただ、今回のように「物によってはお直しが出来ない」こともあり得ます。お含みおきください。 Nさん、この度はご来店&本コーナーのご出演ありがとうございました。
Nさんがお引き取りの際、偶然、別席でオーダーされていた方にTさんという方がいらっしゃいました。 実は、Tさんも国際的M&Aのスペシャリスト!、そこで「ご同業だからもしかしたら?」と思い、「お2人はご同業なんですよ」とお互いをご紹介したところ、なんと!お2人はロンドンのクラブ(真面目な社交クラブ)で一度面識があったそうで(とはいえまさかに日本で会うとも思わず声がけできていなかったそうです。)、Tさん曰く、今回登場のNさんはM&A業界では大御所のような存在だそうで、お2人で握手をされ、それぞれのキャリアの話などされていました。 「テーラーオブパナマ」映画ではありませんが、テーラーではどんなに偉い人でも胸襟を開いてお店に相談する(しなければ良いスーツが出来ない)ところがあります。 もちろん私達には守秘義務もありますが、こういったケースではちょっとお声がけすることで意外な広がりにもつながるのは嬉しいことと思います。 それではまた!