2023年11月6日更新 執筆者:東京店 河本
こんにちは。東京店の河本です。 11月に入り、朝晩の冷え込みがより厳しくなってまいりました。 冬の足音が少しずつ聞こえてくる今日この頃ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。 さて 今回の「お客様ありがとう」では、ご新規のSさんよりご注文頂きました『ブリティッシュアメリカンなスリーピース』がついに完成しましたので、前回の続きである生地・デザイン・シルエット決めのストーリーと合わせて、出来上がり品をご紹介いたします。 本題に入る前に、先ず前回までのおさらいを。
※前回までのお話は【2023/10/20更新 ブリティッシュアメリカンなスリーピース】よりご覧いただけます。
「アメリカンスーツが欲しい」とメールでご連絡頂いた上、来店されたSさん。 アメリカには、紺ブレを象徴としたアイビールックやプレッピーなど、伝統的なファッション(通称アメトラ)が数多く存在しますが、その中でもSさんは〈とにかく動きやすくて楽〉なスーツ。いわば、アメリカンスーツの一番の特徴である『ゆったりとしたシルエット』のスーツを希望されていました。また、ここに〈カジュアルテイストな洒落感〉も加えたいとのこと。 しかし、話を聞くと、会社の大事な会合に出席する際に着用されることが判明。 その為、フォーマルライクな仕様も取り入れた、アメリカ式と英国式のミックススタイル『ブリティッシュ・アメリカンスタイル』のスリーピースで仕立てることを提案し、そちらで決定。 以上が前回までのザックリとした内容ですが、今回最も重要なポイントは、 《独自のブリティッシュ・アメリカンスタイル》を作り上げることです。
こちらが本来のブリティッシュ・アメリカンスタイルのディテールですが、よく見ると、ほとんど英国式のディテールが採用されているのです。
※アメリカンスタイルとブリティッシュスタイルの違い
あくまでSさんが求めているのは「アメリカンスーツ」です。 ただ、これだとブリティッシュスタイルのスーツとほとんど変わらなくなってしまいます。 ですので、今回はディテールをそのまま踏襲するのではなく、我々でアレンジを加えた『独自のブリティッシュ・アメリカンスタイル』で仕立てることにしました。 ここまでベースの部分がしっかり決まれば、あとの生地・デザイン・シルエット決めはスムーズに進みます! ということで、先ずは生地決めから。
今回のスタイルは「どの生地で仕立てるか」がとても重要です。 というのも、Sさんはアメリカンなテイストを強くしたい、とのご要望でしたので、洒落感を重視しないといけません。ただ、あまり重視しすぎてしまうと、フォーマル感が損なわれてします。 スーツの印象を最も左右するのは、やはり生地ですので、ここはカジュアルベースにフォーマルさも少し感じられる生地が求められます。 Sさんの考えているブラウンの生地で何か良いものはないか。 そうして、2人で話し合った結果、こちらの生地に決定しました。
2021AWコレクションより新加入した、この『カノニコ 21マイクロン』 生地感はイタリアブランドでありながらも、優れた耐久性・防シワ性を持ち、また重さもかなりのヘビーウェイトと、まるで英国生地的な位置づけ。 ただ、ここにイタリアらしい綺麗な光沢感もしっかり備わっておりますので、イタリア生地特有の光沢感を持ちながら、イギリス生地特有のハリコシをも兼ね備える。いわば、それぞれの生地の特性をいいとこ取りしたような唯一無二の生地です。 そんな21マイクロンより今回選んだのは、Sさんがご希望されていたブラウンと、ベージュがミックスされた《ブラウンベージュ》のヘリンボーン柄。 光の加減で見え隠れするブラウンとベージュが遊び心を感じさせ、またどこかヴィンテージライクな雰囲気も漂うような洒落感のある生地です。 しかし、色目だけ見れば面白い生地ですが、柄はヘリンボーンとどことなく英国調。またマイクロン本来の綺麗な光沢もしっかり出ていますので、高級感もあります。 その為、この生地であれば、洒落感(カジュアル)がありながらも上品で高級感(フォーマル)のある仕立て映え抜群のスーツを作ることが出来るのです。
生地が決まれば、次はデザインとシルエット(採寸)決め。 本来のブリティッシュ・アメリカンスタイルは、デザイン・シルエット共に英国式のディテールが主に採用されていましたよね。 ただ、上述したように、今回のSさんのご要望はあくまで「アメリカンスーツ」ですから、生地同様、これらもアメリカ式のディテールをベースに考えていきました。 どのディテールをどう組み合わせるのか。特にカチッとしたフォーマル感を演出できる英国式のディテールをどう組み込むのか。絶妙な『バランス』が必要ですからね。 Sさんと入念に打合せをし決まったデザイン・シルエットがこちらです。
※アメリカンスタイル ブリティッシュスタイル その他
以上の内容で生地・デザイン・シルエットが決まりました! それでは皆さん。大変お待たせしました。 これより、完成したSさん渾身の『ブリティッシュアメリカンなスリーピース』のお披露目です。 果たして納得頂けるスーツに仕上がっているのでしょうか。出来上がりはいかに! では、Sさんの登場です!
皆さんいかがですか? カジュアルテイストで洒落感がある雰囲気の中に、カチッとした雰囲気も感じられる、そんな上手く調和されたオーダーらしいスーツに仕上がっているのではないでしょうか。 Sさんは、元々体つきがしっかりされている為、スーツを着用した時の迫力が凄いのですが、ルーズなシルエットのスラックスを履くことで、その迫力がより増していますね。 凛とした圧倒的な存在感が非常に魅力的です。
今回特に拘ったのが、この上着のディテール。 ベースはアメリカンスタイルですので、3つボタン段返りにミシンステッチ、そしてフックベントとアメリカ式のデザインを採用しました。また、少し細かいところで言うと、袖口の2つボタンも実はアメリカ式だったりします。 これでかなりアメトラの雰囲気を醸し出すことが出来ました。 ここにブリティッシュスタイルのディテールとして加えたのが、胸ダーツとコンケープドショルダーです。
先ず、胸ダーツは「無し」がアメリカ式のデザインですが、ジャケットの顔とも言える正面にある部分ですので、これを無しにしてしまうとカジュアルな印象がかなり強くなってしまいます。 ですので、胸ダーツは「有り」にし、カチッと感をしっかり残すようにしました。 ただ、胸ダーツがあってもアメリカンな雰囲気を感じることが出来るように、シルエットはBOX型に設定しています。
そして、肩のコンケープドショルダー。ここもフォーマルライクな雰囲気を残すためには非常に重要なディテールです。 厳密には英国式のような極端なものではないですが、ある程度肩先の膨らみを演出することで、引き締まった印象を与えることが出来るようにしています。 一方、パットは一番薄い〈極薄パット〉を使用していますので、Sさんの「とにかく楽な着心地」といったご要望にも対応済です。
マイクロンの生地感も相まって、遊び心がありながらも、仕立て映えした高級感のある仕上がりになったかと思います。
生地や上着、スラックスのインパクトが強いので、ベストはシンプルで洗練されたデザインに。 ベストが加わることで、かなりクラシカルできっちりした雰囲気が出ていますね。 身体にしっかり合ったフィット感のあるシルエットでないと、折角ジャケット、スラックスが良くてもだらしなく映ってしまいます。 しっかり身体に合っていると、ジャケットを脱いでベスト1枚になっても様になりますので、フィット感のあるサイジングは必須です!
やはりルーズなシルエットは迫力がすごいですね! 上着がそこまでゆとりのあるシルエットでない分、スラックスがより際立っているように見えます。 スラックスにも細かいこだわりがありまして、
例えば、裾はこのシルエットからいくとダブルにしたいところなのですが、フォーマルなテイストにするためシングルに。ただ、今どきの短い股下(スラックスの長さ)ではなく、敢えて長めのワンクッションに設定することで、凛とした存在感のある雰囲気を演出しています。
また、タックは2本入れていますが、英国式であればスッキリ見えるインタックです。 しかし、今回のスラックスは〈スッキリ〉ではなく《ルーズ》さを強く印象付けたかったので、視覚的にやや膨張して見えるアウトタックを採用しました。 上着・ベスト・スラックスがそれぞれ孤立することなく、1つのスタイルとして上手くまとまったので良かったです。
以上、今回はSさんよりご注文頂きました『ブリティッシュアメリカンなスリーピース』の出来上がりをご紹介しました。 Sさん、この度はご注文、また本コーナーの出演にご協力頂き誠にありがとうございました。 無事、笑顔でお受け取り頂けて心よりホッとしています。 また何か挑戦されたいスタイルなどありましたら、いつでもご相談くださいね。 読者の皆さんもいかがでしたか? 形のないものから創り上げるこのワクワク、ドキドキがオーダーの醍醐味ですので、何か挑戦したいデザイン、シルエット、スタイルがございましたらお気軽にお問い合わせください!