2024年7月12日更新 執筆者:大阪店 河本
こんにちは。大阪店の河本です。 夏本番かのような猛暑日が続いていますが、読者の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。 この暑さにジメっとした湿気は、もう反則ですよね。ここ最近熱中症になられる方も増えていると聞いていますので、皆さんどうぞご体調には十分気をつけてお過ごしください。 さて 前回、突然来店され「スラックス」をお仕立てなられたご新規Mさん。 果たしてそのスラックスはどのような仕上がりになったのでしょうか。また、会社では無事OKをもらえた? これらを、前回の続きである生地決め~のストーリーと合わせてご紹介します。 ※前回までの詳しいお話は【2024/6/14更新 ギリギリを攻めます】よりご覧ください。
本題に入る前に、先ずはおさらいから。 大阪店では珍しい飛び込み来店でお越しなられたご新規のMさん。 30代前半でいらっしゃるMさんですが、お勤めは誰もが知るあの某製薬会社。ただ、前職は、これまた有名な某アパレルブランドの店舗スタッフをされていたという少し異色な経歴をお持ち方です。 そんなファッション感度の高いMさんからの依頼は『会社用のスラックス』のオーダー。 それもただのスラックスでは無く、
でした。 かなり危ない橋を渡るチャレンジャーMさんですが、その目的は「会社のスラックスに対するカジュアル度合はどの程度ものまでがOKなのか」を検証すること。 どうやら、会社自体はカジュアル化が進み、ポロシャツにスニーカーもOKですが、パンツに関してはチノパンやデニムでの出社はダメで、スラックスしか許されていないようです。 ただ、普通のスラックスにポロシャツ・スニーカーを合わすのはどうなの?と疑問を抱いたファッショニスタMさんは、こうしたポロシャツやスニーカーにも合うお洒落でギリギリを攻めたスラックスをオーダーするべく、ヨシムラにお越しなられました。 こうして色々話しながら方向性を決めている過程の中、私河本が少しイケないものを思いついてしまいまして、、、それがそのまま採用されることになりました。 それが、
センタークリースを無くすことは本来ビジネス用のスラックスではタブーとされています。 というのも、センタークリースがあることでビジネスライクなカチッとした印象を与えることが出来るため、センタークリースが無いとだらしない印象を与えてしまい、定義としてプライベート用の「カジュアルパンツ」という位置づけなってしまうのです。 でも、センタークリースが無くとも、以外のディテールがスラックスの形であれば、結構ギリギリのラインを攻めれるのでは? と思いついたイケない河本の提案がMさんの心に刺さり、結果『ベルトループ付きのセンタークリース無し』のディテールを採用することに。 このように方向性が定まりましたので、先ずは生地から決めていきます。
今回は「生地」も大きなポイントで、変に綺麗目なウール系の生地を選んでしまうと、確かに全体的に落ち着いた印象になるものの、ディテール(センタークリースなし)との相性が悪くなってしまいます。 そのため、リネンや機能性素材といったカジュアルテイストのものをオススメしようと考えておりましたが、Mさんはリネンが良いとのこと。 これからの季節にもぴったりですし、何せオーダーならでは素材ですから、ちょっとカジュアルになりすぎるかもしれませんが、これはMさん同意のもとリネン生地をピックアップし、提案をしました。 ヨシムラでは、ネイビーやライトブルー、ブラウンといった様々なヴィンテージリネンを取り揃えていますが、Mさんがお選びなっれたのはこちら。
リネンの中でも最高ランクと評される『アイリッシュリネン』 リネン特有のシワ感を感じられながらも、しっかりとしたハリコシもある生地感で、仕立て上がりが非常に美しく、綺麗なシルエットを構築してくれるのが特徴です。 また、通気性や吸水性、速乾性にも優れている優秀な素材ですので、特にこれからの夏には持ってこいの生地であります。 そんなアイリッシュリネンの中でも、定番であるベージュは最もリネンの雰囲気を味わえる色目。カジュアル感を演出しながらもどこか上品でエレガントな印象を与える、といった魅力溢れる生地です。
生地が決まれば、細かなディテールとサイズ決め。 先ずディテールに関しては、「クリースラインが無い」「ベルトループはあり」と言う大きなベースがありましたので、それに合う細かなディテールを決めていきます。ただ、ここに関しては、Mさんよりご依頼いただき私の完全オススメのディテールで仕立てることになりましたので、これは後ほど紹介しますね。 次にサイズです。
結局、かなりカジュアルテイストになってしまいましたが、やはり生地・ディテールを考えるとシルエットは『ルーズ』でしょう!ということで、こちらもすんなりと決まりました。 これで、生地・ディテール・サイズが決まりましたので、ここで決まった内容を確認しましょう。
ヴィンテージアイリッシュリネン ベージュ
以上の内容となります。 それでは皆さん。大変お待たせしました。 これより、完成したMさんの『ギリギリを攻めたスラックス』のお披露目です。 果たしてどんな仕上がりになったのでしょうか。出来上がりはいかに! では、Mさんの登場です!
ちょっとやりすぎた、、、? いやいや、でも仕上がりはなかなかカッコ良いんじゃないでしょうか。 アイリッシュリネンの上品かつカジュアルな雰囲気に、今回の最重要ポイントであるクリースラインの無いディテールが上手にマッチしているかと思います。 これにリラックス感のあるシルエットも相まって、オーダーらしいお洒落なスラックスになっていますね。 これであれば、プライベートシーンでも重宝すること間違いなしです! でもこれを一目見て、ビジネス用のパンツとは正直ならないですね、、、 やっぱりちょっとやりすぎたかな。(反省)
このスラックスのキモ、『センタークリース無し』ですが、やはりセンタークリースが入っているのと比べ洒落感がありますね。 一般的なスラックスとの差別化のため、今回採用しましたが、生地との相性も良く、いい感じの仕上がりになったかと思います。 これもオーダーならではのディテール。リラックス感のあるパンツをお探しの方は是非取り入れていただきたいですね。 (一応今回はビジネススラックスなんですけどね、笑)
ビジネスライクなスラックスに仕上げるなら、この帯も一般的なディテールのため付けておきたいところですが、今回は敢えてお付けしませんでした。 というのも、生地がヴィンテージのアイリッシュリネンのため、この帯を無くすことで、昔ながらの高級仕立てとして、ヴィンテージライクな面白いスラックスに仕上がると考えたのです。 今の時代であれば、このディテールもカジュアルに分類されると思いますが、「分かる人には分かる」そんな思いも込めて採用しました。 気づいてくれたら嬉しいなぁ。
上記2つのディテールにより、スラックスにアクセントとなるものがありませんでした。 そのため、元々ベルトループは付ける予定でしたが、さらに通常のベルトループ幅1.0cmに対し、 1.5cm と0.5cm太くして仕上げました。 このベルトループを 0.5cm太くすることで、腰回りのインパクトが一気増し、しっかりアクセントの効いたスラックスになります。 これもヴィンテージスラックスによくあるディテールですので、今回のスタイルにもマッチしていますね。
太ももから裾にかけてズドーンと落ちるストレートなルーズシルエットで仕立てましたが、生地・ディテールの良さを引き出すシルエットとしては、これが最適でしょう。 (ビジネススラックスと考えるとちょっとカジュアルすぎますが、、、) アイリッシュリネンのパリッとした生地感で、綺麗なシルエットで仕上がっており、非常にgoodです。 さてさて、このような仕上がりとなりましたが、Mさんの反応は⁉
と、仕上りについてはご満足いただけました! そもそも仕上りに満足いただけないと、全て台無しですからね。ひとまずはホッとしました。 ただ、問題は“会社での着用がOKかどうか “です。 これはかなり不安でありますが、果たして大丈夫だったのでしょうか。 後日、Mさんよりご連絡をいただきました。
あちゃ~。やっぱりやりすぎてしまいましたか、、、 謝るのはこちらの方です。Mさん、本当にすみませんでした。 ただ、これを機にオーダーの良さや楽しさを知っていただけたようで、またお仕立ていただけると嬉しいお言葉を頂戴しました。 本来の目的に対しては少し残念な結果となってしまいましたが、これも良い思い出として残していただけますと幸いです。 Mさん、今回は本コーナーのご出演、誠にありがとうございました。 引き続き、オーダースーツのヨシムラを宜しくお願いいたします。