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『縞』のスラックスが完成しました。

 執筆者:大阪店 河本  


3月も中旬を迎え、特に日中は随分と過ごしやすくなってきましたね。
本格的な《春》の訪れまでもうすぐ、といったところでしょうか。

そろそろ〈衣替え〉の意識も高まってくる頃かと思いますので、今年の春もフレッシュな気持ちで迎えられるよう、是非ヨシムラへお越しいただき、衣替えをお楽しみください!

さて
今回の「お客様ありがとう」では、先月ご紹介しましたFさん『縞』のスラックスがついに完成しましたので、その仕上りを前回の続きであるデザイン決めのストーリーと合わせてご紹介します。

っと、本題に入る前に、先ずは軽く復習しましょうか。

※前回までのお話をより詳しく知りたい方は【2025/2/7更新『縞』のスラックス 】をご覧ください。

『縞』のスラックス

ヨシムラとはもう20年以上のお付き合いになるリピーターのFさん。
これまで本コーナーに何度もご登場いただいている常連様で、いつも大変面白いアイディアを沢山持ってきてくれる大阪店のファッショニスタです。

そんなFさんからの今回の依頼は「コールパンツ風のスラックス」

コールパンツ風のスラックス

主にモーニングコートやディレクターズスーツのようなフォーマル用として使用される縞模様が特徴のコールパンツですが、今回Fさんは、このコールパンツのニュアンスは残しつつも、そこにアレンジを加えた、コールパンツ風のスラックスをご希望されていました。

それを踏まえ、決まった生地がこちら。

フォーマルコレクション コールパンツ専用生地

フォーマルコレクション コールパンツ専用生地

今回Fさんが想定されている着用の仕方は、

  • ブラックスーツの上着に合わせる。
  • ただ、準礼装というほどのつもりで着用するわけではない。
  • ネイビーのジャケットやブレザーにも合わせて着用したい。

つまり、フォーマルではなく、どちらかというとカジュアルライクな使い方を想定されていました。
また、Fさんはコールパンツ風の(ストライプ)スラックスをご希望とのことでしたので、当初は普通のストライプ生地のみ提案する予定でしたが・・・

“コールパンツを敢えてカジュアルな装いに落とし込む”

私の個人的な好みでもあったのですが、ファッショニスタのFさんなら必ずカッコよく着こなしてくれると思い、コールパンツ専用生地もご提案に加えたところ、合わせる予定のジャケットとのバランス(色目)も非常に良かったですので、色々悩まれた結果この生地に決定となりました。

ここまでが前回までのストーリー。
生地が決まりましたので、次はデザイン決めです。

ご希望されているデザインについては、事前に資料で頂いておりましたので、この資料を元にしっかり打合せ・確認を行っていきます。

先ず、資料に記載された希望のデザインはほとんどお受けできるものだったのですが、唯一お受けできなかったのが、「モーニングカットの角度調整」
Fさんは今回、裾(シングル)のモーニングカットの角度(前後差)を1.5~2.0cmで考えられていました。
ですが、工場ではこのモーニングカットの角度を1.0cmまでにしかできないため、生憎お受けすることができませんでした。

ただ、それ以外のデザインは全て対応可能でしたので、その中でもFさんが今回特に拘られていたポイントを3つご紹介します。

  • 帯無し仕様
  • タックが開く始まり位置
  • サイド尾錠の付け位置(尾錠は持込カニ尾錠)

これらについて説明すると、

帯無し仕様

帯無し仕様

前回Fさんにご登場いただきました【渾身のスリーピース】でもご紹介している『帯無し仕様』は、クラシックかつ高級感のある仕立てとして人気のあるデザインです。

渾身のスリーピースが完成しました。

今回は、この帯無し仕様にサイド尾錠・Vカット(深さ3.5cm) を加え、よりデザイン性の高いスラックスに仕上げますが、ベルトループはお付けしません(サスペンダー釦付き)ので、よりクラシックな雰囲気が楽しめる、そんなオーダーらしさ満載の腰回りデザインとなります。

タックが開く始まり位置

タックが開く始まり位置

通常、タックというのは何も指定しなければ「どの位置から開くのか」が決まっています。
今は帯ありのスラックスが一般的であるため、そちらで説明すると、

タックが開く始まり位置

画像のように、標準の帯の巾は3.5cmとされており、この帯から4.0cm下の位置、つまりトップ位置より7.5cm下の位置からタックは開くようになっています。

これが通常ですが、例えば太もも周りのゆとりをより持たせたい、という時には、 “タック帯下から開く” と指定すれば、トップ位置より7.5cm下の位置から開くタックが、トップ位置より3.5cm下の位置 (帯巾が3.5cmのため)から開きますので、その分タックの分量が増え、気持ちゆとりを出すことが出来ます。

ただ、今回は帯が付かないため、Fさんはそれを考慮し、全体のバランス等を見た上で、タックの開く始まり位置を指定。
結果、トップ位置より4.0cm下の位置からタックを開くことに決定しました。

サイド尾錠の付け位置(尾錠は持込カニ尾錠)

サイド尾錠の付け位置(尾錠は持込カニ尾錠)
(汚い絵ですみません・・・)

サイド尾錠も指定が無ければ、付ける位置は決まっています。

サイド尾錠の付け位置(尾錠は持込カニ尾錠)

画像のように、尾錠の付く位置は帯の間です。
基本的にサイド尾錠を付ける時は、仕立てがベルトレス仕様の場合ですので、よく帯の巾を太くされる方がいらっしゃいますが、例え太くしても尾錠の付く位置は変わらず、帯の間となっています。

ただ、上記のタック位置と同様、今回帯が付いていませんので、付ける位置の基準がありません。
そのため、Fさんはタックの始まり位置と合わせて、尾錠をトップより4.0cm下の位置に付ける指定をされました。 (4.0cmの位置を底としその上に付ける)

また、尾錠は持ち込みの「カニ尾錠」を使用。
付け位置だけでなく、そのパーツまでしっかり拘ります。

今回はスラックスだけだったとはいえ、これら以外のデザインでも細かいご指定が色々ありましたので、接客後のデザインシート等はこんな感じに。
(今回も“間違えずに仕様書を作成すること”が一番の仕事だったかもしれません)

そして、最後にサイズの調整。
こちらは、前回のものを基本踏襲し、ほんの少し修正を掛ける程度でしたので、特段難しことはなく、スムーズに終えることが出来ました。

では、ここで今回お仕立てするスラックスについて確認しましょう。

生地 フォーマルコレクション コールパンツ専用生地
基本デザイン 帯無し ベストループ無し
ピスP 左右共に不要
シングルモーニングカット
タック 1本インタック★開き位置指定
その他 Vカット付き(深さ.3.5cm)
サイド尾錠付き★付け位置指定(持込カニ尾錠)
サスペンダー釦付き
スラックス裏地キュプラ使用

それでは皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
これより、完成した『縞』のスラックスのお披露目です。
果たしてどういった仕上がりになっているのでしょうか。出来上がりはいかに!
では、Fさんの登場です!

『縞』のスラックス

『縞』のスラックス

皆さんいかがですか!?
一見、一般的な(フォーマルな)コールパンツのようですが、よく見るとコールパンツではなく、デザイン性溢れる“スラックス”。
そんな印象の仕上がりになったのではないかなと思います。

ご試着の際は、コールパンツのグレー×黒(ストライプ)に合わせた、グレー×黒の配色のサスペンダーに、ダブルカフスのシャツパープルのドットタイと、非常にドレッシーながらも抜け感のあるコーディネートをなさっていました。 Fさんのファッション感度の高さが分かる、美しさ遊び心を兼ね備えたこの着こなし。流石の一言であります。

では、拘りのデザインについて見ていきましょうか。

帯無し仕様

帯無し仕様

帯無し仕様

先ずはこの帯無し仕様
うん、非常にクラシックで上品な仕上がりです。
帯がない分、ストライプの柄がトップから裾にかけて一直線に出ていますので、腰回りだけでなく、全体的にスッキリとした印象になっていますよね。

また、今の時代ではなかなか既製品では売っておらず、デザイン性の高さから「カジュアル」に分類されがちな帯無し仕様ですが、そもそもは高級仕立ての1つですので、コールパンツというフォーマルなアイテムには相性抜群。

バックボーンと照らし合わせてもなんの違和感もない、分かる人には分かる、そんな粋なスラックスになったかなと。

タック&サイド尾錠

タック&サイド尾錠
タック&サイド尾錠

指定された「タックが開く始まり位置」「サイド尾錠の付け位置」もしっかり仕上がってしました。
非常に細かい部分ではありますが、タック位置・尾錠位置共に『トップから4.0cm下の位置』と指定しているため、全体的にバランスが取れた見た目になっていると思います。
拘りの〈カニ尾錠〉も良い表情をしていますね。

~後ろ姿にも注目~

今回のFさんのスラックスは、バックデザインにも拘りが詰まっています。

例えば、ピスポケット (お尻のポケット)。

ピスポケットなし

本来であれば、右と左にピスポケットが付きますが、このスラックスには付いていません。
これもオーダーらしいデザインで、ピスポケットが無い分かなりスッキリとした印象になり、またジャケットを脱いだ際に前だけでなく後ろ姿まで洒落感を演出できるスラックスになっています。

ピスポケットなし
ハイバック仕様

あとは、ハイバック仕様
ハイバック仕様とは、前股上に比べ後ろ股上を敢えて深く設定した仕様のこと。
画像のように、前より後ろのほうが履き位置が高くなっていることが分かると思います。
これは、昔ながらのクラシックな仕立てで、今回のようにサスペンダーをするスラックスには相性が良いですので、今回採用されました。

ハイバックの起源は、かつてのスコットランド兵のトラウザーズに由来するとされており、騎乗中に前傾姿勢をとっても中のシャツがずり上がってこず、またウエストからヒップにかけてのフィット感を高めるために作られたものと言われてます。

さてさて
こうして仕上がった『縞』のスラックスですが、Fさんの反応は?

Fさん: お、いい感じですね!これだったら色んなジャケットに合わせられそう!
今回も色々とご無理を聞いてもらいありがとうございました。

っと、嬉しいお言葉を頂きました!
ご希望に沿えない点もありましたが、無事お納めすることができ、何よりホッとしました。

そして、ご試着の際にお召なっていたジャケットとも合わせてもらいました。

ブレザーと合わせてもいい感じですね!
ブリトラ (ブリティッシュトラディショナル)ライクなクラシックでエレガントな着こなしが非常に素敵です。

コールパンツでも様々なコーディネイトを楽しめる。
そうコールパンツそのものの可能性をFさんが広げてくださいました。
気になる方は是非、ご相談ください!


以上、今回はFさんよりご注文頂きました『縞』のスラックスの仕上がりについてご紹介しました。

実は、納品の際に追加でスリーピースを1着ご注文頂いたのですが、これがまた超難題の⁉面白いものになっていますので、どこかの機会でお披露目できればと思っています。
皆さん楽しみにお待ちください!

Fさん、今回もご注文、そして本コーナーのご出演誠にありがとうございました。
今後共、よろしくお願いいたします!


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