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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!

 「お客さまいらっしゃ〜い」:アランドロンのスーツ 
東京店紳士服担当の荒井です。
8月も後半になりますと、我が服飾業界は本格的な閑散期に入ります。
この暑さの中、とてもスーツを作ろうなんてお客さまはいないよな!なんて言いながら、秋冬に向けての準備をしておりました。

そんな暑い日の中、今回ご紹介いたしますSさんは、熱心なご様子でご来店下さいました。
「こんな黒に近いダークグレーの無地を探しています。」と、
古本屋さんで購入されたという少しセピア色に変色したカタログを三冊ほどお見せいただきました。

映画『スコルピオ』のアランドロンのスーツ姿に、付箋シールが貼ってありました。
アランドロンのスーツ姿「なかなか二枚目のクールなお顔立ちのSさんが、スーツまで真似たら更にモテるだろうな。」と考えながら、貴重な本を拝見させていただきました。お世辞抜きでSさんはカッコ良いです!しかも職業は霞ヶ関勤務!

アランドロンの映画はビデオで観たことはあり、私の親の世代が若かった頃(1960年代から1970年代頃まで)のフランスのスターという印象はありました。
ただ、僕の年齢では率直に言ってその当時のスーツ事情(コンチネンタル風)まで詳しくは判りません。
まして、昨今の雑誌などで紹介されているスタイルや当社のお客さまのご要望は、『英国サビルロウ風』とか、『イタリアのナポリスタイル』などが主流ですので、歴史的背景の知識が不足している私には、ちょっと戸惑いがありました。

そこで、業歴の長い先輩社員の司茂さんに応援を依頼しました。
いつもは、私がウインドーショッピングした成果を報告するような間柄ですが、こんなときこそ、ファッションの歴史に詳しい司茂さんに教えてもらうのです。

すると、
ドロンは、・・・」と、当時のファッションや、他に人気のあった俳優など次々と口火を切ったように言葉が溢れ出てきました。
ドロンは、って言えるところが凄いですよね、何か親友みたい...
『この当時のパンツは、股上が浅く、シルエットは膝幅より裾幅のほうがあるんだよ!
上着のベントも、この写真では判りにくいけど、深めのセンターベントになっているはずだよ。』
と、嬉々としてご説明下さいました。
更に、『この当時のヨーロピアンファッションの特徴は、肩がコンケープショルダーなんだよね!』との事
今の主流は、ナチュラルショルダーの肩付けですが、コンケープショルダーは、肩先が山のように盛り上がった仕上がりです。これは、意外と新鮮に写り、私も試してみたくなるようなディティールです。

まとめてみますと、当時のスタイルは、今とは次の点が違うと言えます。
  1. 上着は、コンケープショルダー。
  2. 上着のベンツは、深いセンターベント。(写真には映っておりませんが)
  3. パンツのシルエットは、ストレートからややフレアー気味。
  4. パンツは、股上がかなり浅い。
しかし、そのままのパンツのシルエットは、司茂さんが若かりし頃流行ったデザインですので、私は、現代の世代には抵抗があると感じておりました。
また、いつもより興奮気味の司茂さんでしたので、私はやや牽制気味に対応しておりました。

そこで、ベテランの大橋さんにもアドバイスを伺ってみましたが、『その当時は、そのくらいの裾巾はあったものだ。』と、拍車が掛かってしまいました。

Sさんも、極端でなければ、それがいいといっていただけましたので、やや抑え目の膝幅24cm裾幅25.5cmでの職出しです!(最近の仕様では普通体型の人は裾幅23.0〜23.5位ですからかなり、裾が広く膝が狭いです。(普通は膝は28cm前後です))

こうして、当時を知る世代の司茂さん達の心強いアドバイスを受けながら仕立てたスーツは、このようになりました。
ややフレア気味にしたボトム ラフに締めたネクタイがドロンっぽい? 襟の雰囲気はGoodです!
いかがでしょうか!現代にも十分通用するレトロ調の雰囲気が出ておりますよね。
Sさんからも、『こんな立派なスーツを仕立てていただき有難うございます!』と嬉しいご感想をいただきました。

今回の切り口「映画に出てくる憧れのスーツ」は、私にとっては新たな発見でした。
きっと皆さんも、映画などで見た俳優さんなどのスーツ姿が、気になった経験はあるでしょう。
機会があれば、今回ご紹介致しましたSさんのようなオーダーをされてはいかがでしょうか。
私どもとしても、そんなご注文を楽しみにお待ちしております。

<おまけの話>
仕事の後、ベテラン社員の方々で、60年代からのミュージシャン、映画俳優、ファッション談議で盛り上がっておりました。
『日本では、大人気のアランドロンは、生まれたフランスでの人気は、三枚目の「ジャンポールベルモント」のほうがあったよ。』とか、
『そういえば、イブサンローランなんかも、リバイバルで人気がでているようだね。』
田村○和なんかは、このイメージを引きずっているよね。』
等々、今となってはレトロと懐かしむファッションが、かえって我々20代から30代には、新鮮なものです。

今回もとても勉強になりました!