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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 白崎プロデュース クラシコ2とは ?!! 
東京近辺ではようやく春めいた日が多くなってきましたが皆さんいかがお過ごしですか?
最近では暖冬の影響からか3月中に桜が咲くという所も多くなってきましたが当社からほど近い皇居の千鳥が淵あたりも桜の名所として有名です。

さて、
今月は先日新着情報で上げたSPECIAL SELECTION内の最末尾でご紹介した当社初取り扱いE.Zegna社のトロフェオヘリテージのみを限定した通称クラシコ仕様2 を紹介したいと思います。
実は当店をご利用になられたことのある方ならご存じかと思いますが、当社では初めての価格帯ナント!98,000円(税込)も!!するんです。
(従来の最高価格帯はこれまで69,800円(税込)でした!)

そこで「どこが他と違うの?」ということを静岡県在住のHさんからのご注文を例にご紹介したいと思っています。

・・・とここまで書かせて頂いたのですが、ここから先を皆さんにお読みいただく前に少しだけお願いがあります。
というのは、こういった形でご紹介をすれば欲しくなるのは人情だと思いますが、この仕様のご注文は手間が掛かりすぎせいぜいご注文をお受けしても週に数着止まりです。
ですから、もし本稿をご覧頂き「これだ!」と思われましてもご注文いただけない事もあり得ます。
当初から多くは仕入れていない商品ですので、この点はどうかお含み置きいただき先をお読み下さい。
さて、本題に戻しまして
早速素材のご紹介をいたしましょう!
皆さんもよくご存じの伊を代表するメーカーE.ゼニア社ですがそのトップラインに位置するトロフェオ、そしてその次位に位置するヘリテージそれぞれどんな素材でしょうか?
他のシリーズも含め簡単にまとめてみるとこんな感じです。
(厳密に言うと15MILMIL15やカシミヤのBEST等がありますがこちらは特殊と言うことで無視させていただきました。)

ゼニアのトロフェオとは・・・?
ゼニアのトロフェオとはゼニアのスーツ地の中では最高ランクに位置するグレードです。
トロフェオの名は、ゼニアが契約している原毛採取農場の中からその年のトップグレードの羊毛にトロフィーを与えたことに起因していてゼニア社としても一番力を注いでいる素材の1つです。
一般に、ゼニアはトロピカル・トラベラー・ヘリテージ・ソルテックス・ハイパフォーマンス等々の各シリーズがありますが特徴を挙げると次の通りです。(他にもカシコ等色々ありますが、特殊素材と言うことで割愛しております。)
1.トロピカル ゼニアの夏物代表格。平織りでサラっとした触感と上品な光沢感が特徴的。ゼニアは品質をSUPER**'Sという形で公表していませんが大体SUPER110'Sぐらいと思われます。目付で言うと230g/mですから日本ではやや肉薄の夏物専用素材です。
2.トラベラー 旅行等ではなかなかスーツのメンテができないもの、そこでゼニアが世界中を旅する人向けに開発したのがこの素材。
糸を紡ぐときにより強い力で撚ったものを強撚糸と言いますが強撚糸は防シワ性に優れています。このメリットを最大限使ったのがこのトラベラー。
メンテナンスしやすく使い勝手が非常に良いです。
3.ハイパフォーマンス こちらは当社で取り扱ったことがないので良く解りません。今度仕入れたら追加します!
4.ヘリテージ ヘリテージはゼニアの中でも異色の存在。  古き良き時代の素材感を復活させることを目的に作った素材でゼニア社にある1930年代の古文書をヒントに当時の素材・製造方法にこだわり抜いたもの。 このため(特に冬物では)ノスタルジックな暖かみのある雰囲気です。 1,2より1ランク上に位置されます。
目付は夏物としてはたっぷり目の260g/m日本の気候では真夏はちょっとNGですがその分真夏を除けば3シーズンじっくり使える素材です。
5.トロフェオ 上述の通りですが、↑1〜5はそれぞれ特徴を持った素材感で日本人の持つゼニアのブランドイメージとしては1.2<3.4.5<6の順で評価が高いのが一般的です。
うまく言えませんが、ゼニアそのものがメルセデスベンツだとすればトロピカル〜ハイパフォーマンスがEクラスで、トロフェオはS500位といった感じでしょうか?
糸番手の数値やゼニア社の考え方、消費者イメージ等堅苦しいことを抜きに、実物を見た感想を直感で言えば、 素人目にも分かる高品質さ強烈な光沢感(特に紺黒系の生地)が特徴で、生地としてスーツとしての力強さを感じる反面、着る側も構えてしまう(つまり生半可な気持ちでは着れない)そういった素材です。
目付はこちらもややしっかりしていてトロフェオで250g/mですから、真夏にはちょっと厳しいかも知れません。



・・・以上簡単にまとめてみましたが、ゼニアと言えばそれだけで一般人には垂涎の的なのにそれにも奥が深いんですね〜。

ところで私がこれまでトロフェオについてどう思ってか所見を申し上げますと
「普通の人には必要のないもの」で高すぎ』『良すぎだとこれまで考えていました。
お店としてもいたずらに高い物を売りたがるような真似はしたくありませんでしたし、それが当社のポリシーでもありましたからあまり興味を持っておりませんでした。
... ですが、最近お客さまが増えた影響からか従来の最高級素材では「物足りない!」と言われる方が現れました。
こういった方は概してオーナー企業の経営者の方が多いのですが、今回ご登場のHさんもまた静岡で企業経営をされている方でした。(車もまさしくメルセデス!でした)

そんなHさんのスーツに対するこだわりは・・・
実はこういった方々は普段このコーナーで紹介しているような『ディテールへのこだわり』というのはありません。
強いて挙げるなら、それはHさんが初めてご注文になられたときにお話の流れの中で言われたこの一言です。
私はデパートとかのオーダーは何度も試してみたけれど、今ひとつしっくりこないいんだ。
具体的にどこがどうとは分からないんだけど、信頼が置けないんだよ。
つまり、仕立て上がりを試着すると、何とかうまいこと言って店員が納めよう納めよう(つまりお直しなく引き取らせよう)という意図が見え見えで、それが嫌なんだ。

私は、この話を伺った時ピンと来ました。
Hさんは目ではなく、本能的な感覚でそのお店が信頼できるか判断しているんだ...と...

スーツは確かに生地さえよければ見た目はそれなりに良く作ることができます。
芯地や仕立てそのものに手を抜いてもしばらくの間はバレません。(凄いこと言っちゃった!)
そしてお客様は原則的に素人で一方こちらはプロです。これでは勝負になるわけがありません。
だからこそ、縫製には素人(失礼!)のHさんが仕立屋と渡り合うためのバロメーターに『お直しへの姿勢』を考えているのだな。。。と。

私も仕事柄、人がごまかそうとしていることにはとても敏感です。(これは私の営業的接客の部分ではなくて経営者的な仕事で表れることです。お客様の事ではありませんから念のため...)
だからこそHさんの言わんとしていることが良く解りました。

Hさんは多分、この「信頼関係」が最優先課題でそれがきちんと築ければ、後はプロにお任せしたい人なんだと。。。


補 足
上述では『お直しWelcomeの姿勢=良い店』とやや飛躍した意見を出してしまいましたので若干補足しますが、『ファーストスーツ=絶対お直しした方が良い』というのは間違いです。
必要のない直しはするだけ危険ですし、スーツを最初からパーフェクトにするというのは(私が言う言葉ではありませんが、無理な話です。)
また、そんなことをされたらどのお店でも経営的に持ちませんし、強く求めれば嫌がられます。
(ただしそれなりに高額のお代金を頂く店はこの限りではないでしょう。)
ですから「お直しを受けたがらない店は・・・」というHさんのお考えは「Hさんの基準では。。。」ということをお含み置き下さい。


そこで私からはデザインについては次のようにご提案しました。(いつもと違って淡泊ですね。)

基本デザイン>>>
前回通り(2つボタンハイゴージ、ボタン位置:標準)
トラッドのパターンでお仕立いたしました。
Hさんはそこそこのご年齢ですのであまりトレンドは追わないようなデザインをご提案しました。

袖ボタン >>>3つボタン本切羽
※:クラシコ仕様2では重ね釦はお受けしないようにしております。また袖の4つボタンもご遠慮いただいております。
理由は、手で穴を開ける以上機械とは違い誤差が出るからです。
それはせいぜい1〜2ミリですが、重ね釦にしてボタン間隔が狭くなると逆に1〜2ミリの差が相対的に大きくなり目立ってしまうのです。
試しにブリオーニのスーツ(40〜50万)をご覧頂ければ分かるかと思いますがフルオーダーになればなるほどこういった部分は誤差があります。

さて、
Hさんのご注文内容の所に入ってきましたのでそれではもう少しクラシコ仕様2 について詳細をご紹介しましょう。
(Hさんのご注文では採用していない部分もありますのでここからはクラシコ仕様Uの全般のご紹介です。)

そして、
仕様の詳細を説明する前に皆さんに改めてご紹介しなければならないのがこのクラシコ仕様2を監修する当社スタッフの白崎です。
彼はこの仕様を監修する、当社オーダー部門では技術面で指導的立場にある人間です。
白崎について改めてご紹介すると>>>元々某フルオーダー店で職人をしていたキャリアの持ち主。

1着のスーツを仕立てるには色んな要素を加味しなければなりません。
例えばそれはスーツのトレンド性や素材の知識であったり、イージーオーダーでいえば工場のパターンを良く知ることでもあります。(この点は東京店では大橋がプロです。)
一般にイージーオーダー店ではが必須の条件ですが白崎が担当している所はこれにフルオーダー的な要素を加えるところです。

例えばイージーオーダーのお店では普通お直しの場合は全てを書類上の処理で行います。
つまり○×を付けたり、「どこどこを●ミリ詰めて/出して」という形で指示をして工場はそれをその通りの作業を行います。
しかし、その指図はやはりスーツの内部構造や作り方を熟知した者でなければなかなかうまく行きません。

この画像は最近白崎が処理した2人のお客様の補正書を並べた物ですが、文字の上手下手は別としてお客様のサイズを克明に記入しています。
1つはサイズ的な物ですし、もう一つは肩パッドの微妙な位置まで指示しています。(1つはHさんご自身の1着目の補正書です。

業界の実情をさらけ出すようで申し訳ないのですが、正直イージーオーダーという価格帯が限られた中では、ここまでは対応しきれないのが時間的制約から来る現実です。
それ故本人が「仕立てることが好き」でなければ出来ない仕事ですね。

また一方でちょっとお願いするとこんな事(←)も出来ます。
これは一昨年私のスーツに特別にお願いしたものですが手縫いのボタンホールです。
この時は忙しかったので袖先のボタン1つだけハンドで縫ってもらいました。
こういったことが「好き」でしょうがないのが白崎です。

そこで、当社としてもこの白崎の技術力をお客様の前に出さない手はないと思い、今回新にサンプル外でご紹介するゼニアのトロフェオ・ヘリテージについては当社としても新たな取り組みと言うことで全面的に白崎の監修の元でクラシコ2 をご用意することにしたのです。

それでは話を戻してクラシコ仕様2 のどこが他と違うのか具体的に説明しましょう。
どんな所が他と違うかというと・・・

ベース(当社のクラシコ仕様)
>>> 人気のある当社のクラシコ仕様(税込10,500円)ですがこんなオプションがセットで付いています。
● お台場仕上げ ● 本切羽 ● キュプラ裏地(これで通常9,450円)
(これに加えて)
● セットバックショルダーライン(独自パターン)
  ただしお客様の体型によってはお付けできないこともあります。
● バルカポケット(手付け) ● D管留め(カラー糸使用)
● 巻ぶせ襟  ● ボタンクロス掛け(手付け)



手前味噌ですがこれだけでも通常のイージーオーダー工場でしたら普通は音を上げます。
逆に既製服工場の方が一度企画してしまえば大量生産ですから簡単に出来るかもしれません。
そして今回は次の仕様を加えました。

追加項目
ハンドメイド要素を多用しました)

ベース
手縫いのボタンホール(見頃・袖)
手付けのフラワーホール(芯入り)
観音開きの裏地(背抜きの場合)
本バス芯
各ネームタグ手付け
チケットポケット(揉み玉縁・松葉閂仕上げ)
パンツ裾手まつり
ポケット地袋付け
シロセット加工(おまけ)

いかがでしょうか?
一般的にはイージーオーダーでこんなことまでするお店ってないと思います。(画像が少ないですがHさんのご注文は原稿作成段階では完成していないので。。。ゴメンナサイ)

またこれが従来のゼニア+クラシコ仕様(79,800円)に対し+18,200円ですからかなりお買い得だと思います。

当社としては損にはならないまでもさほど得にもならないですが、他ならぬトロフェオ&ヘリテージですからここまでやりたいのです。

ただ、これだけの仕様を当社でお仕立するとなるとお店としてもお値段故かなりの弊害が出てきます。
そこで大変申し上げにくいのですが、このクラシコ仕様2 に限っては全てのお客様にご提供できるサービスとはお考えにならないで下さい。

率直に申し上げお店としては次のことがネックになっています。

1. 原価的な問題(生地)
>>> これが一番です。
仕入れ値は為替や原毛相場によっても大きく変わりますが今シーズンで言えばこのトロフェオ&ヘリテージは1着約10,000円のコストアップしています。

2. 原価的な問題(工賃)
>>> 上述の説明でお分かりかと思いますがかなり凝ってます。
ボタンホールだけでベテラン職人がやっても1箇所最低15〜20分ぐらいは掛かりますから日本人の人件費を考えれば高額になるのは想像付きますよね。
3Bジャケットでボタンホール9箇所+フラワーホールですから10箇所ですからこれだけで丸々3時間労働分です。
それがマックの時給700円と言うことはないでしょう。。。
もちろんその他本バス、観音開きetc全て馬鹿げているほどコストアップ工賃の要因です。

3. お直しのリスク
>>> お直しは追加の生地を使うケースと使わないケースがありますが、追加の生地を使う場合皆さんがご想像される以上の高額なコストが掛かります。
例えば「袖丈を長くして・・・」と気軽に言われた場合のコストは次の通りです。(あくまで概算ですが当社の値段と言うより一般的なテーラーさんの値段とお考え下さい。

<対処方法>
袖交換(額縁仕上げの場合は袖を出すことが物理的にできません)
生地の使用量40cm コスト生地代(トロフェオの場合):13,000円
裏地代:2,000円
工賃:5,000円

合 計 20,000円
お読みいただければお分かりかと思いますが、お店側に全面的に責任があれば別ですがお客様のご要望だけで袖交換というのはお店にとって死活問題です。
1着20万円なら話は別かも知れませんが。。。

4. ディテールへのこだわりは命取り
>>> お客様には色んな方がいらっしゃいますが中にはスーツのディテールにこだわられる方がいます。
男性というのは概して車とかでもそうですがパーツにこだわる方は多いです。
だからこそこういったニーズは大切にしたいのですが、同様にディテールのこだわりが多ければ多いほど↑同様のリスクが高まりますので今回の仕様でお受けしたら身が持ちません!ゴメンナサイ!



...ということでこのクラシコ仕様2 においては私共も総力を挙げて行う仕事ですので、大変申し訳ないのですが原則リピーターのみのご注文とさせていただき上述をご納得いただいた上でのご注文とさせていただきます。

お客様を選別するようで大変申し訳ないのですが、あと+30,000円頂ければ新規の方でもの方でもお受けできるのですが、価格はお客様にとっても当社にとっても大切なことですのでどうかお許し下さい。

それでは次回はHさんの出来上がりを中心にご紹介したいと思います。
是非楽しみにしていて下さいね。