|
|
この冬注目!ベルベットジャケット
|
秋が深まりクリスマスを意識しはじめる11月はファッションの世界では年間で最大のヤマ場を迎えます。 消費者の皆さんの冬物衣料への関心の高まりやクリスマス等々パーティーシーズンを前にした需要、そしてその年のトレンド等々で私たちにもこの時期は色んなご相談が舞い込んで来るのがこの時期だからです。 「今年はどんな相談が来るのかな?」と楽しみに思っていた矢先、とても印象的なお客様が現れましたので皆さんにご紹介いたします。 ご登場いただくお客さまはFさん。 当店では初めてご注文のお客様ですが、カジュアルなベルベットジャケットを求め、あちこち探され最後に当店にやってきた方です。 それではどんなご相談だったか早速ご紹介しますと...最初にこんなメールを頂きました。 |
★☆★東京SHOPMASTERより一言・・・★☆★ | |
ベルベットのジャケットですか〜。 ベルベットのジャケットはどちらかというとレディース素材ですが、この秋はメンズ物も街で結構見かけます。 正にトレンド、旬の素材ですね。 でも、他を批判するわけではありませんが、街でよく見かける既製品のベルベット調の素材って生地屋も兼ねる私から見ると正直高級感を感じさせません。 ベルベットというのは本当はとてもドレッシーでそれ故フォーマルな場で女性が着る物なのに・・・ 多くの消費者はベルベットにほとんど手入れしないため、折角の毛足のあるベルベットがあたかもホコリ吸着剤と化しているケースも多いですし、製品もそもそも毛足が極端に短かくこれでは高級感が出ない。。。 ...と、なかなか良い物というのは滅多に見かけません。 それならオーダー業界でベルベットジャケットを展開したら? 既製服業界が良い物を扱わないなら、そこにビジネスチャンスがあるはずです。 でも、オーダー業界ではあまりこの素材を取り上げません。 何故でしょうか??? そうです、そこには訳がありました。 それはこのベルベットという素材はオーダー服では非常に厄介な存在。 本音を言えばあまり受注したくない素材だからです。 どうしてこんなにネガティブになるかというとその理由は・・・以前こちらでも少し書きましたが、 (1)縫い直しが利かない。(縫い直すと針跡が残る) (2)生地の端がポロポロと解れ縫いにくい。 (3)生地がテロンテロンして縫いにくい。 などなど、、、縫うのがとても面倒だからです。 特に(1)については致命的で、お直し=作り替えとなってしまうと余程高額で販売しない限り採算がとれないのです。 加えて、新規の方のご注文ではサイズ的な好みが分からないため、お直しになる確率が高く『労多くして功少なし』な注文と思われ敬遠されるのです。 ・・・と、これが業界の内情ですが、当店でもやはりご新規のお客様ですとリスクが高いため、Fさんへは少しこの辺もご理解頂かなければ怖いと思い、多少牽制する意味合いを込めて次のようなメールをお出ししました。 |
|
★☆★東京SHOPMASTERより一言・・・★☆★ | |
う〜ん、ちょっとネガティブな書き方だったかな〜。 でも当店にご相談されるという方はそれなりに他店を当たった上でウチに駆け込んでくるケースが多いし、過度に期待されてもそれを裏切るのは一番良くないから仕方がないな... と思いつつメールをお出ししました。 すると、その日のうちにお返事が!! |
|
★☆★東京SHOPMASTERより一言・・・★☆★ | |
うひゃ!電話が掛かってくる!! (私も社長を兼ねておりますので、日中は直接電話応対等出来ないことも多々あります。) メールを読むと、なぬなぬ「限りなくイメージデザインに近い状態!」 助けてくれ〜。今言ったばかりじゃないか〜。縫い直しが利かないって!! 限りなくイメージに近いというのは限りなくお直しがあり得るということじゃないの〜? う〜ん、イメージ先行だ、Fさんの気持ちを冷やさなくては・・・ ... と、思う間もなくFさんからお電話が... こうなると私の悪いところというか交渉力の無さ。 メールならお断りすることが出来てもお電話等だとなかなか上手く言えず、最終的には当社のことも理解していただいた上でご注文をお受けすることに・・・ そして、 月が変わって11月2日、平日にも関わらずFさんはわざわざご来店され、前掲の画像に基づき詳細を煮詰めることになりました。 そしてポイントになったのが次の各点でした。 |
■ポイント1 ゴージの高さ■ | |
>>> 画像をご覧頂くと分かりますがタキシードライクなシングルピーク衿でゴージラインの位置が異常に高いです。 正直ここまでのゴージ位置というのは私もご注文を受けたことがなく職人の方へもどう指示を出して良いやら悩んでしまいました。 でも、こんな時助かるのはこの画像。 画像ごと工場の職人に渡せば、文字にした仕様書よりも雄弁ですので間違いが少ない。 そこで画像ごと工場へ送ることにしました。 (ただし、こんなことは滅多にしません。Fさんのこだわりが強かったためと当社の規格外で説明の仕方がなかったためやむなく行ったことですので、普段は作業効率を考えこんなことは出来ないことはお含みおき下さい。) |
■ ポイント2 ボタンの位置 ■ | |
>>> シングル1Bのボタン位置は通常2Bスーツより下の位置。 でも、タキシードに多いシングル1Bの場合はカマーバンドを見せるためにわざと更にボタン位置を下げていますからカマーバンドを使わない今回のジャケットではやや高めのボタン位置としました。 Fさんはこのジャケットを頂いた画像のようにジーンズに合わせてカジュアルに着こなしたいのだそうです。 ちょっとウエスタン風のベルトが、う〜ん、お洒落。 |
■ ポイント3 アームホール(袖幅)細め■ | |
>>> これも頂いた画像の特徴ですが、袖幅がかなりタイトです。 この辺はボディーに着せたものとご本人が着るのとではサイズが違うし、なかなか難しいところですが、幸いなことにFさんは非常にスリムな方でしたので画像に近いタイトさ加減のアーム・袖幅が出来そうです。 でも、1つ難しいのがこういった素材でタイトに仕上げると今度は生地が腕にまとわりつくような着用感になること。 特にコットンベルベットは生地が静電気を発生したり皺を作ったりする分、着用中袖が上に上がっていってしまい袖丈を気持ち長くしないとダメなんです。 これもバランスが難しいな〜。 |
■ ポイント4 衿を立てて着ること■ | |
>>> Fさんの今回のジャケットはカジュアルテイスト。 だからこそ衿を立てて着用することもやってみたい!とのこと。 こういう場合難しいのが、単純に芯地を硬くして衿をただ単に立てられるようにすると今度は衿のロール感に柔らかさが出なくなること。 やや矛盾する問題だけにこちらも少々困りました。 最後には衿の柔らかいロール感を最優先で衿を立てることは二の次にしてもらいました。 でも衿を立てることの可能性は残りましたので衿裏※は共布にすることにしました。 ※:衿裏は通常カラークロスというフェルト状の素材を使います。 |
|
|
■ ポイント5 採寸時の見本服■ | |
>>> 感覚的なことを文章にするのはとても難しいですが、Fさんは頂いた画像からも分かる通りタイトさ加減にも強いこだわりがありました。 しかし、このタイトさ加減というのはFさんというお客様あってのサイズですから画像を見るだけでその通りには出来ないことです。 (つまりFさんが太めの方なら画像のようには逆立ちしても出来ないということ。) そこで今回は当社にある見本服の中でも一番細身のモッズスタイルの見本服を使いました。 こんなタイトな上着、私の体型でしたら絶対は入りません!!(-_-;) が、これが何とFさんにはピッタリ。 最後には『このフィット感が良いんだよ、』とまで言い出す始末... でも、この見本服があるのとないのとでは大きな違いなんですよね〜。 う〜ん、それぞれ難問が多く大変です。 「大丈夫かな〜、出来るかな〜」少々不安に思うところもありましたが何とかこれらのポイントを抑えることでご注文がまとまりました。 さてさて、どんな仕上がりになるのでしょうか?楽しみですね。 次回はトレンドのベルベットジャケットの出来上がりを掲載しますので是非皆さんも楽しみにしていて下さい。 |
■□■ まじめなおまけ話 ■□■ | |
本文中には掲載しませんでしたが、実はFさんのご注文を伺っている時 私が腰を抜かすような凄い発言がありました。 それはどんなタイミングでどんな内容かというと・・・ |
【タイミング】 | 私がFさんの接客をしている最中、別のお客さまが来店され、スタッフがそのことに気付かず、一寸お客様が躊躇してしまってい、私から「●● さん(当社スタッフ名)お困りのお客様がいるからご案内してください。」と指示した時。 | |
【 内容 】 | Fさんからこう言われました。 |
Fさん: | 『吉村さんは凄くお客様に気を遣われるのですね。』 | |
(自分で受けているお客様以外でもという意。)
|
||
私: | 「えっ、でも普通ですよ。」 ...そりゃそうです。客商売ですから。別に私だけでなく誰でも気付けばやる事ではないですか? |
|
Fさん: | 『実は私 クレーマーなんです。先日も某百貨店でそこのあまりの対応の悪さに返金をさせ、担当部長まで出させたんですよ。』 | |
私: | 「(ぴくぴく)ええっ、そうなんですか?、でも何故?」 | |
Fさん: | 『それは...(事実関係は省略します。)百貨店などは言葉の上ではとても丁寧なんですが、慇懃無礼というか、心がこもっていないというか、返金をするのにも一言のお詫びの文面もなく金だけ送られてくるので腹が立ったのです。』 | |
私: | (複雑な心境でうまく返答できず...) | |
(そしてしばらくして)
|
||
私: | 「百貨店さんの気持ちも分からないわけではありませんが、Fさんの言われるとおりですね。 特に百貨店さんは高い値段で販売されている訳ですからサービスが良くて当たり前です。 安売り店のアルバイト店員の接客態度が悪い言うのとは訳が違いますから。」 |
私には事情は良く分かりません。Fさん側だけの話ですから。 ですから直接の意見は差し控えますが、お話しを伺っていると自分がこういったクレームやお客様にご迷惑をお掛けした時どんな対処方法をするだろうか 考えさせられました。 私の場合、何か自分が原因でご迷惑をお掛けした方やお世話になった方へは、短文でも必ず直筆で手紙を添えるようにしています。 理由はいたってシンプルで、クレームなどお客様に迷惑をかけた後はそれがせめてもの自分ができる誠意だからです。 (本稿をご覧になった方で私の直筆メールをご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんね。) でも、こういったことをする人は最近は本当に少なったような気がします。(当社社員も含めてです。) 高度に分業化された社会だからでしょうか。それとも皆忙しすぎてそこまで気持ちが廻らないのでしょうか? とても残念なことですね。 人と人が何かをすれば必ずトラブルは付き物です。 そしてこうしたトラブルは概して「覆水盆に返らず」で、起こしてしまった事というのは元にはたやすく戻りません。 だからこそ気持ちだけでも大切にしたい。 私の場合はこう思って一筆書くようにしています。 若輩者の私が言うことではありませんが、物売りは商品を売る前に自分を売ることが先ですからこんなこと当たり前のことなんですけどね。 Fさんのお言葉を聞き 正直、自称クレーマーと言われてしまうと接客を担当した者としてはかなり警戒してしまいますが、それ以上に何か大切なことを再確認できた気持ちにもなりました。 余談ではありますが、皆さんどうお思いになられますか? |