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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 タイ式オーダースーツ? 
毎年大寒の前後は1年中で一番寒い時期。
東京でもこの時期は雪が舞うこともありますから北の方にお住まいの方は大変な時期ですね。

そこで、今回はそんな寒い時期に国外逃亡を図った訳ではありませんが、お勤め先の関係で長期でタイへ出張で行かれたリピーターのNさんから、タイでお仕立てになられたオーダースーツをお借りいたしましたので、滅多にない機会ですので是非皆さんにご紹介したいと思います。
アジアのセンス・技術力はさて如何なものでしょうか?
■ オーダースーツ頼むときはどこでも同じ・・・ ■
どこのオーダースーツでも同じかと思いますが、初めてスーツをオーダーする際はお店側もお客様の好み等を把握する必要がありますから見本となる服を持ち込まれた方が良いです。
(というか、良いオーダースーツを仕立てるためには必須です。)

当店のリピーターでもあるNさんはもちろんそんなことは百も承知。
また言葉の壁もある異国ではなおさら見本服は雄弁ですから、Nさんは当社で以前お仕立てになられたお気に入りのスーツをお持ち込みになり
   『これと同じに仕上げて欲しい!』  と言われたそうです。

そして持ち込んだスーツがこれ!
後ほどご案内しますがちょっと訳あって、ちょっと皺々の状態。画像はあまり気にしないでください。
(実はこのスーツ当社で5年前に仕立てたスーツです。随分お気に召して頂けたのか、そろそろくたびれてきましたね。)

そしてお店の返答は...というとステッチの糸色などは同じには出来ないけれど全面的にOKとのことで、Nさんは採寸をするとと同時にお店に見本服も預けてお帰りになったそうです。

■ 気になるお値段は・・・ ■
そして一番気がかりなお値段の方はと言うと・・・
いくら人件費の安い国だからと言っても、物には原価があるのだからある程度の値段はするはず!
...と思っていた私ですが、とんでもない位 安いお値段でした。
何と!オーダースーツが!!
1着$99.-(約4000バーツ)=10,000円前後
しかも! アルマーニの生地(そんなのあったっけ?)
Nさんによれば別のお店が何かのキャンペーンで...
オーダースーツ2セット で ぽっきり!$200.-
    :オーダースーツ2着、オーダーYシャツ2枚、ネクタイ2本
...だったそうです。恐ろしい!
シャツもオーダーで2枚付いて2万円ですか !?
でも2着まとめてと言う所がどこかの紳士服のコ○カやア△キに似ていますね。(^^;)
...でもこの価格を見せられると当社のスーツはボッタクリです。

■ お仕立ての期間は・・・ ■
では、目線を変えて仕立ての期間はどうかというと・・・
タイやシンガポール、香港等は意外とオーダー服の需要が高く、よくこの種のオーダー店がありますが、その殆どが1週間も掛けずお仕立てしています。
私も昔タイへ(新婚旅行で!!)行ったことがあり直接目にしたことがありますが、表通りにテーラーさんがあるとするとその裏側(裏通り)には決まって縫子さんがいたりミシンが雑然と置かれてそこで縫製作業が行われていたりします。

日本では地価の関係やオートメーション化の関係で、縫製工場は殆ど青森県とか島根県とか かなりの地方に行かないと縫製工場はなく、ここへ送るだけでも納期が余計掛かりますが、こういった国々ではそれこそ生地と付属品をセットにして自転車で下職さんへ持ち込めば作業開始!になるのです。

Nさんの場合も、4〜5日でお仕立てが完了したそうです。

■ それでは出来映えは・・・? ■
さて、それでは一番重要なところ。どんな出来映えになったでしょうか?
皆さんもきっとアジアの技術力に興味がおありでしょう。
スーツは「着れればそれで良し」という訳ではなく、仕上がった姿が何より大切ですからね。
う〜ん、画像だけを見るといい感じに仕上がっていますね。(画像左側が出来上がり、右が見本服)
比較対象となった当社のスーツはかなり使い込んでいる分ちょっと逆に貧相に見えてしまうのがちょっと残念です。5年も愛用されたのですからご容赦下さい。 (-_-;)
でも、Nさんからご指摘頂いたのですがよくよく見てみると・・・『あれっ?!』と思うことと『ほ〜っ』と思うことが !!
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□ あれっ!? その1 総裏だっけ?
Nさんはやや太めの体型ということもあり汗かきのため当店では夏物は背抜き仕立てでお仕立てしていました。(画像右側が当社で仕立てた「背抜き」タイプ)が...
あれっ?! 仕立て上がったタイのスーツは総裏!(画像左側
これにはNさんもびっくり!!(Nさんは長期出張でしたのでこのスーツは現地で着用するYouのスーツでした。)
『おいおい、タイは暑い(熱い!!)のだから総裏は勘弁してよ!!』
『見本服通りって言ったのに・・・』
★☆★東京SHOPMASTERより一言・・・★☆★
高温多湿の日本では「夏物スーツは背抜きが当たり前」と思われている節がありますが、世界的に見るとむしろこれはレアなケースで、欧米系メーカーの物は殆ど総裏で仕立てられています。
これはスーツ文化を生み、それを育てた英米が乾燥した寒い土地だったことに強く起因していると思われます。
・・・ですが、何も日本より暑い亜熱帯のタイで総裏ってのはちょっと困ったものですね。
この辺、タイ通の方がいらしたらお教え下さい。
(Nさん曰く、タイでスーツを着る人は冷房が効いた中で働くホワイトカラーだけだからそうです。)

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□ あれっ!? その2 重いゾ !! 
これは見た目には分からないことですが、このスーツ重さが上下で1330グラム。
ちなみに見本となった当社のスーツはジャスト1000グラム。
明らかに3割以上重いです。。。
Nさん曰く、これでは肩が凝ってしまう!! とのことでしたが、普通夏物は耐久性を落とさない範囲で出来るだけ薄手の付属品を使うのですが、どうしてなんでしょうかね〜?この重量感は?
当社でいえば冬物並かそれ以上の重量感がありましたが、私にもこの辺は理解不能でした。
(Nさんからは、この疑問を解き明かすため解体もOKと許可を頂きましたが、今回はセール期間中で時間がないこともあり、やめました。機会があればバラしてみるとこの実体がもっと分かると思います。)

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□ あれっ!? その3 ウエスマン(帯)が・・・? 
ズボンの腰の部分、ちょうどベルトが当たる部分のことを専門的にはウエスマンと言い、耐久性を高めるため生地を横に取りますが、普通生地は真横(水平)に取ります。
が・・・?!あれっ何かおかしい!
線を追っていくと...線が消えた?、あれっ?線がカーブしている。
画像はズボンの後ろ側の縫い合わせ部分ですが柄がかなりずれています。

そうなんです。このパンツ、真っ直ぐに生地を使っていないのです!
これには私も驚きました。
どうしてこうなっちゃうんだろう?
縫製ミスとかでクレームを付けると言うより、むしろ奇妙にそして滑稽に思えてきました。

Nさん曰く、最初のフィッティングの時、この点はクレームを付けたそうなんですが、その際に言われたことは『これがデザインなんだ!』とのこと。
う〜ん、何ともうらやましい言い訳だ...

続いて・・・
悪いことばかり書いてはいけません。次は少し良いことも書きましょう。
Nさんはあまり良くは言われませんでしたが、お預かりしてよくよく調べてみると意外と私にも参考になることやこの仕立屋さんもお客様に気を遣われていることが分かる部分もありました。

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□ ほ〜っ その1 予備ボタンは脇当てに 
国内のオーダースーツ店では、スーツをお納めするときに内ポケット内部に予備の布(残布)と予備ボタンをビニール袋等に入れてお客様にお渡ししますが、この予備ボタン、多くのお客様が紛失してしまいます。
それもそのはずスーツをお納めした後そんなビニール袋を内ポケットに入れたままにしませんからどこかへ放ってしまいなくすのです。
その点このスーツはよく考えています。
直接肌に当たらない脇当てに大小ボタンを縫いつけてあるのですから予備をなくす訳ありません。
(右側の画像の脇の下部分にボタンが付いているのお気付きになられます?)
とてもユニークですね。

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□ ほ〜っ その2 ちゃんとパイピング処理がされている 
Nさんのスーツは総裏で仕立てられたので上着は分かりませんでしたが、ズボンの内側を見てびっくり。
太目で汗かきのNさんのため、股の付け根部分に股シックという補強やその周りをパイピング処理で補強してありました。
Nさんはこのことに気付いてはいらっしゃらないようでしたが、ここのお店も太めでパンツを傷ませやすいNさんに気を遣っていることが確認できました。
だったら芯を薄くして軽くしてあげて、背抜きにすればもっと喜ばれるのに・・・
意志疎通がしっかり出来れば別の展開になったかもしれませんね。

■ その他 ■
最後に、Nさんがこのスーツを仕立てるにあたり他にもいくつか面白い話があったそうです。
その中からいくつかご紹介すると・・・

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チョークの跡 
オーダー服では型紙を作りそれに基づき生地をカットする際、型紙に合わせながらチョーク(通称チャコ)を引いていきますが、なんと見本服で預けた当社のスーツにはこのチョークの跡がそのまま残っていました!
私:『あ〜ぁ、これ残したままプレスとかすると跡になってしまうのに...』
う〜ん、恐るべきタイランド。亜熱帯のせいか、かなりアバウトです。

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クリーニングに出した? 
実は、Nさんはお仕事でタイへ行かれていたのですが、その仕事の合間をぬってのオーダーでしたから見本服を預けたのはその間着るスーツがなくて大変だったとのこと。
そこで仕立て屋さんに見本服の返却を求めたところ・・・
「今クリーニングしているからちょっと待って欲しい」とのこと。
...で、返却されたのが、皺だらけのスーツ。
『君、ウソは言っちゃいかんよ!ウソは...』...とNさんが言われたかどうかは定かではありませんが、私から見ても ちょっと酷い...カナ?

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アルマ()ーニ?? 
これはNさんに言われたことでなく私が調べて見つけたのですが、やはり他社製スーツ、どんな素材が使われているか色々と調べてみると凄いことが判明!
10,000円のスーツで なんと!アルマーニの生地です!!
すっ、凄いな〜 〜 〜 な、なっ? アルーニ?
なっ!なんじゃこりゃ〜(松田優作 風)


さて、
そんなこんなで今回はタイのオーダースーツを紹介してみました。
皆さんどうお感じになられましたでしょうか?

私は、自分が注文するかどうかは別にして、個人的にはアジアらしくて とても面白いスーツだったと思いました。
また、「自国のことを知るためには他国の文化を知らないと分からない」とよく言いますが、これには全く同感で、このスーツを知る(見る)ことで、逆に日本の技術力の高さや自分たちのスーツの求めるスーツ像が再認識できたような気がします。
皆さんも機会があれば是非試してみてください。