HOME>いらっしゃ〜い!!> こんなコートも素敵かな?
オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 〜大阪編〜 こんなコートも素敵かな? 
今年の12月はいずこも例年にない厳しい寒さのようで、比較的穏やかな関西も一足早く厳寒モード、寝床を離れるのがつらい毎日です。
例年ですと、関西では本格的なコートの出番は年明けで、年内はコートは着ないと誇らしげにおっしゃる方もいる位なのに今年はどうしてしまったんでしょうね。

コートその物の解説は、前回の「コートについて」であらかた網羅されていますので、今回はそれの応用編といった内容です。

それでは、ご登場いただくのはのお客さまは関西にお住まいのHさん。
リピーター歴3年にして、スーツ、ジャケットはもとよりカシミアのコートまで網羅していただいているお客さまです。
Hさんは最近はメールでご注文が完結するケースが多く、今回もメールでのご注文でしたので、メール担当の一野君の力量を問われる出番となりました。
それではまず最初に、Hさんのメールからご紹介を...

05.11.26  件名:オーダーシートパターン表送信フォーム
                < 前略>
それとカジュアルでも着れるようなコートを作りたいのですが、お勧めの生地などあれば教えてください。

作者注:先に別途スーツのご注文を頂いており その際のオーダーシートパターン表の連絡事項欄へお書き添え頂きました。今回のコートの内容からは少しそれるため、本文はあえて省略させて頂きました。)

★☆★ 大阪SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★

う〜ん、、、これを簡単なご質問と捉えるかどうかですが、結構奥深いお問い合せです。
今や巷にはスーツの上に着るコートカジュアルに着るコートが混在しています。
本来ならカジュアルの代表とも言えるダッフルなども、スーツの上へ羽織るコートとしてすっかり市民権を得ている始末、TPOもなんのその、文字通りなんでもありの有様です。
デザインではなく、素材でコートを分類してみても
ウール  コットン 皮 ダウン  新合繊
・・・と、このように分類され、そこから更にウールですと、カシミア、アンゴラやあるいはデザインでチェスターありダッフルありとそれぞれへと枝分かれしてゆきます。
ドレスとカジュアルの分類さえ意味をなさない現状をどう憂うべきか?
この辺りを頭に叩き込んで一野君もご返事に悩みました。

そして、Hさんへは一野君からこのようなご案内をしました。

05.11.26 件名:オーダーシートの送信ありがとうございました。
   ( 中略 )
真冬用のカジュアルな素材としましては防寒に優れているハリスツィードでよろしいかと思いますが、気軽に羽織れるカジュアルなコート地といたしましては、ソンドリオの綿素材はいかがでしょうか?
コットン100%ですが、他のウール素材と違いカジュアル感が強くなりますので、合い物コートとして春先でもお召しいただけるかと思います。

・・・と、このように至極簡単なご案内(Hさんスイマセンでした...)の後、ハリスツイードのサンプルをご覧頂いたHさんより早速ご返事を頂きました。

05.11.27  件名:お世話になっております、Hです。
ハリスツィードのサンプル届きました。一度に言えばよかったのに、お手数をかけました。
さて、コートを以下のようにお願いしたいと思います。

生地・・・HT-7806
・襟型・・・セミステン  ・ポケット・・・ハコ
・袖口・・・タブ     ・ベント・・・センター釦無
・フロント・・・ブチヌキ ・着丈・・・今風に3/4丈
・オプション・・・お台場仕立て・キュプラ裏地
・ネーム(○○○○)    ・ベルト
   以上、よろしくお願いします。(大阪府:H)

ここはやはりコンサルティングセールスの腕の見せ所!
一野君もかなりお客さまのお好みとデザインとのバランスもアドバイス出来るようになり、早速Hさんへこのようなご連絡をしました。

以下、お送りしたメールより、ポイント部分のみを抜粋してご紹介いたします。

基本デザインについて
・・・基本のデザインはいかがさせていただきましょうか?
 下記の仕様ですと恐らくラグランタイプかと思いますが...

大阪SHOPMASTERより:
どうやら一野君、衿がセミステンで、ポケットがハコの選択はボックスかラグランかいずれかですが、袖口がタブとの希望ですのでラグランと判断したようです。

着丈について
・・・着丈に関しては、3/4丈の長さをご希望とのこと。
Hさんのご身長から推測いたしますとちょうど着丈97cmぐらいが膝上ぐらいの長さになろうかと思いますがいかがでしょうか?
もしお手持ちのコートで丁度良い長さのコートがありましたらそのコートを長さをお計りいただきご連絡いただくか、お手数ですがお送りいただきましたら私どもで採寸させていただきます。
(もしご自分でお計りになられる場合はコートをハンガーに掛けていただき、コートの後ろの衿元からそのまま下へお計り下さい。)

大阪SHOPMASTERより:
どれくらいが3/4か?
正解は出ない話なので一野君もHさんの身長から推測し、この辺りがイメージに近いのではと自信のおすすめでした。
ただ念のためお手持ちのコート丈を計って頂けたらとのご依頼もさせて頂きました。 計り方は画像のように後ろの襟元、つまり衿の裏にカラークロスという生地を張り付けてある根元と表地の境目から一直線に下まで下ろしコートの最下端までとなります。

前回の新着レポートコートについてにもそうありますように、まずは一番大切なのはコート丈です。
コート丈によって全体のイメージが作られると言っても過言ではありませんので、決しておろそかには出来ません。
3/4丈が話題のようにトレンドは短くてスリムで、このあたりは常にスーツ動向と連動しています。

ただ、スーツですと裾口が22cmでとか、股下が76cmとかご自身のサイズがお分かりの方が多いのですが、さすがにコートは何cmでと予めご指定頂く事は希です。

お台場仕立てについて
・・・ハリスという厚手の生地ですので、お台場をつけますとモコモコ感があり、またコートの中に着られるインナーとの摩擦が懸念されます。
ここは、お台場を付けない方が無難かと思いますが、いかがでしょうか?

大阪SHOPMASTERより:
やや言葉足らずのご案内になりましたが、上記の機能性の問題とやはりハリスツイードのような粗野な風合いを漂わせる素材には台場のようなドレッシーなオプションは似合わないのではとの思いのようです。
料理でよく言われるところの、良い素材には素材感を活かすシンプルな調理法がより引き立つとは我々のお仕立ての世界にも当てはまりますとの意味でした。

そして、最終的にHさんはこのように決められたようです。

05.11.28 件名:Re:ハリスのコートのご注文ありがとうございます。
お世話になっております。Hです。
仕様書の件につき連絡します。

・生地はHT-7816ではなくHT-7806です。
・基本デザインはボックスコートのセットインスリーブで、
袖口にタブをつけてほしいのですが可能でしょうか?
・ステッチはミシンステッチ。
・お台場は無し。
・裏地の色はブラウン。
・着丈は95センチ。
・ジャケットの上から着るのではなくセーターなどの上に着る予定です。
・全体のイメージはウエストを絞ったスリムな感じでお願いします。

以上です。それではよろしくお願いいたします。

★☆★ 大阪SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★

えっ??セットインスリーブ(付け袖)に袖口がタブ?...と少々驚いてしまいました。
...と言うのも、通常セットインスリーブのコートの場合、その形状からスーツと同じように袖口にはボタンが付きます。
つまり、2枚の生地が筒状に縫い合わされていますので袖の後ろ側に縫い目があり、それに添いボタンで留まっているのはスーツでもお馴染みの仕立て方法です。
それに対してラグランスリーブは、同じ2枚袖でも袖を斜めに付け、袖の真ん中に縫い目が走っていますのでそれに挟み込むようにタブが付きます。
つまり袖の真ん中に縫い目がないとタブは付かない、付けられない形状になっています。

余談ですが、150年ほど前にラグランという将軍が、クリミア戦争の戦場でこの袖を発明した為にこの名前が付いたようです。
そう言えば、同じくカーディガン伯爵がカーディガンを発明したのも同じクリミア戦争の戦場でした。
同じ戦場で2つのファッションが生まれるとはなかなか面白いですね〜。

さあ〜、どうする一野君?お客さまの要望と技術的な難問にどう折り合いをつけるか?

そして、一野君からHさんへのご返事はというと....

(一野君よりHさんへのメールより抜粋)

袖口の仕様につきましては、タブ付きをご希望とのこと。
こちらは絶対にできないと言うわけではないのですが、セットインスリーブの場合、ラグラン袖と違って縫い線が袖の後ろ側に来ます。
要するに、袖の後ろにタブがぐるっと回り込む形状になってしまうので、見た目にもあまりお勧めできないです。
よって、今回のコートの袖の仕様に関しては通常のボタン付き(2ボタン)でお受けしたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。

おやおや一野君、結構ストレートにお断りっぽい内容となってしまっていましたね。
ただ、Hさんもこのあたりはこだわりのポイントのようで、その後頂いたメールでは
袖口は、出来るのであればタブ付でお願いしたいと思います。

せっかくデザイン面でのご忠告いただいたのですが、コートにスーツ風の袖口というのがあまり好きでないので...
...とのご意向です。
なるほどHさんのおっしゃるのももっともです。
この素材ゆえ ここは徹底してカジュアルにこだわるのは私も賛成。
そこで、この上は一野君に代わって私がお相手をと、(実は彼は休みでした)
『見た目と技術的な面とを併せてベルトタイプのデザインなどで私なりに頭を捻ってみたいと思いますので、よろしければお任せいただけないでしょうか?』
と申し出てみたところ、Hさんにも快くOKいただけました。

★☆★ 大阪SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★

ふ〜っ、ようやくこれでHさんのご注文が確定いたしました。
コートというのはスーツと違い、お客様もオーダーされる機会も少ないためか、漠然とした全体のイメージはお持ちでも、ひとつひとつのディテールまでは普段余り目にしない物なだけに分かりにくいものですね。
それ故、私達ご注文を受ける側もお客さまの要望を聞きつつ、うまくリードするのはなかなか難しいです。
一野君もお客さまに揉まれ育てられ、いつの日か「オーダーするならぜひ一野さんに相談を」とのお客さまが増えるよう、ねじりはち巻きで切磋琢磨の毎日です。
是非頑張って貰いたい物ですね。

...というところで、今月のいらっしゃ〜いはオシマイです。
皆さんも、次回の出来上がりをどうぞお楽しみに〜