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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!
 バイオリニストのスーツ 
月が変わり9月になりましたが皆さんお元気ですか?
今年は残暑といってもどうやらそれほど暑くならないようで、場所によってはもう秋風が吹き始めているところもあるようですね。
早くもっと涼しくなって欲しいものです。

さて
秋風が吹く中、本来でしたら秋冬物からご注文頂いたお客様をご紹介したいところなのですが、原稿を書く8月は閑散月であまりお客様が多くなく、加えて私自身は決算という一大イベントを迎え、8月は接客が出来ない状態でWebネタが見つからず困っておりました。

今月の「お客様いらっしゃ〜い」はどうしたものかな〜
色々悩んでいたところ1通のご相談メールが舞い込んできました。

さてさて 今回はどんなご相談でしょうか?まずはご相談メールからご覧下さい。

06.08.08 件名:礼服はオーダーできますでしょうか?
ヨシムラ様
メールにて失礼いたします。
演奏会用の礼服を新調しようと思いネットにて調べていたところ、貴社のホームページを拝見いたしました。
とても丁寧で真摯な印象を受けました。貴社では、演奏会用の礼服などは扱っていますでしょうか。
燕尾服などのたぐいなどではなく、シングル・3つボタンの黒礼服を考えております。
当方、
ヴァイオリンを演奏しておりまして、いま使用している礼服では両腕を上げ背中を少し丸めたとき(演奏上、こういう姿勢になるときがあります)少しつれる感じがあり不自由を感じております。
オーダーメードでは、採寸のときに上記と同じような格好などをすれば、上手く調整などはしていただけるのでしょうか。
また、ステージ上で演奏するためオールシーズン用のものを考えております。
貴社にお願いした場合、完成までの時間・貴社に伺う回数・おおよその値段 につきましてお教えいただきたいと存じます。
ご多忙とは存じますが、宜しくお願いいたします。(埼玉県 S)

★☆★ SHOPMASTERから一言・・・ ★☆★

Sさん、ご相談ありがとうございます。
何でも演奏会用の礼服だとか、ヴァイオリンですか〜、カッコイイですね!!

でもご相談いただいた演奏会用のスーツですが、実は大変難しいんですよ。
以前、ウチの工場長と話し合ったことがあるのですが(その時は指揮者でしたが)演奏会などでは手を前に出す時間が長いため、その時の着心地と見た目を良くするように仕立てないといけませんから...

そこで早速こんなお返事をいたしました。

06.08.08 件名:お問い合せありがとうございました。
S様
こんにちは、オーダースーツのヨシムラ(吉村)です。
今日は台風の接近と共に雨が降るそうですがいかがお過ごしでしょうか?

先ほどはメールでのお問い合せをありがとうございました。
Sさんは何でもヴァイオリニストで、演奏会の時に着るスーツ(礼服)をお探しとのこと。
私共でも稀に指揮者の方などのご相談をお受けすることもあるので状況はある程度は分かりますが、ヴァイオリニストの場合、手を前に出して弾きますから、通常の立ち姿が美しいスーツ作りよりも、手を前に出したとき突っ張らないスーツ作りが大切かと思います。
(実は私も子供のころバイオリンを弾いておりましたので良く分かります。)

ご質問いただいた点は次の通りです。

> オーダーメードでは、採寸のときに上記と同じような格好などをすれば、
> 上手く調整などはしていただけるのでしょうか。

・・・そうですね、採寸の際そのような格好をしていただくことも必要かもしれませんが一番分かりやすいのは今お使いになられている演奏会の礼服を着て見せていただくことかもしれません。
今ご着用のものはオーダー物でしょうか?それとも既製服でしょうか?>
既製服でしたらかなり着心地としては改善できるかと思いますがオーダー物の場合、すでにそのような補正を加えているのでしたら改善の余地は少ないかもしれません。

> また、ステージ上で演奏するためオールシーズン用のものを考えております。
・・・生地は基本的にはオールシーズンというのは日本の気候ではありえません。
40度から雪の降る日までですから、さすがに無理です。
演奏会用でしたら、演奏=運動でもありますし、照明等でかなり暑くなることも懸念されますので薄手の3シーズン対応の生地ではいかがでしょうか?

> 貴社にお願いした場合、完成までの時間・貴社にうかがう回数・
> おおよその値段 につきましてお教えいただきたいと存じます。


・・・当店のオーダーには2種類あります。
1つはイージーオーダー、こちらは仮縫いはなく、一回の採寸でお仕立てします。
こちらはご注文後3週間ぐらいで仕上がります。

そしてもう一つはフルオーダー
こちらは型紙から全て作り上げ、仮縫いを途中に入れるお仕立てです。
こちらは仮縫いまで10日、仮縫い後14日位で仕上がりますので、仮縫いのタイミング次第ですが約1ヶ月掛かります。

どちらにされるかはSさんのご都合次第なのですが、多少予算を多くとってもベストの物を着られたい場合や前述いたしましたこれまで演奏会で着られていたスーツがオーダー物である程度の体型補正等を加えた上で、お困りなのでしたらフルオーダーがオススメです。

一方、そこまでコストを掛けたくなく、またそこまでパーフェクトでなくても良いとお考えでしたらイージーオーダーでもかなりのところまでは出来ますのでそちらでお試し下さい。

お値段の方は、礼服のシングル上下でしたら45,000円〜69,800円位です。
フルオーダーの場合はこれに+55,000円となります。
(当店は全体の9割以上のお客様がイージーオーダーで、フルオーダーは1割にも満ちません。
フルオーダーを積極的に売りつけるつもりはありませんのでご安心下さい。)

以上 簡単ですが御案内いたしました。
何かありましたらどうぞお気軽にご相談下さい。

オーダースーツのヨシムラ SHOPMASTER_吉村_雅隆

PS:体型補正のことを申し上げませんでしたが、ヴァイオリンを弾く場合でしたら肩を前に出した状態(前肩状態)をベストポジションとして補正します。
また、手を前に出すと言うことは背中側にゆとりがなくては手を出せませんので背中側の生地をゆったり目に作ります。(背幅といいます。)
またヴァイオリンを弾くときはずっと手を挙げた状態になりますので腕への負担を少なくするためアームホールを小さくして、腕を見頃(胴体)からできるだけ独立するようにして仕立てます。
以上の3つの補正を身体を見ながら調整していくことになると思います。

★☆★ 東京SHOPMASTERから一言・・・ ★☆★

Sさん どうですか?
やり方は幾つかありますからお気軽にご要望をお申し付け下さいね。
Sさんがプロなら衣装代ですからフルオーダーで良いでしょうし、アマチュアでしたらそこまでお金を掛ける必要もないでしょう。
当店はもちろんどちらでもWELCOMEです。

するとまたお返事が・・・

06.08.09 件名:Re:お問い合せありがとうございました。
ヨシムラ様
丁寧なお返事、ありがとうございます。
今、使用しているものは既成服です。イージーオーダーでお願いいたします。
また、私のメールで言葉が足りなかったこともあると思いますが、Vnは趣味のアマチィアです。
いままで、アマチィアでの発表会で演奏に不自由さを感じていたので、新調しようと考えた次第です。
プロのように日常的に使用するものではないので、ヨシムラ様のお勧めのように『薄手の3シーズン対応』でお願いしたいと考えております。
8月28日(月)午前中 にお伺いしたいのですが、宜しいでしょうか。ご返答、宜しくいたします。  埼玉県 S

追伸:Vnの経験者であるとのこと。礼服をお願いするにあたり、大変心強いです。(8月28日、Vnは持参したほうが宜しいでしょうか?)。(埼玉県 S)

Sさん、早速の返信ありがとうございます。
バイオリンを持参でご来店いただけるとのこと、そこまで気合いを入れて頂けるとは。。。恐縮です。
でも、バイオリンを持ち運ぶのはそれなりに危険ですからそこまでは必要ありませんのでご安心下さい。(...と後ほどお返事いたしました。)

そしてご相談いただいたのが8月上旬で、ご来店の8/28までは少々間がありましたので、そこでSさんのご相談内容について事前に問題点を整理してみることにいたしました。

どんなことが想定されるか皆さんも一緒に考えてみてください。

■ バイオリニストのスーツの着方とは・・・(問題点を挙げてみよう!) ■

話を簡単にするため上着だけに限定してご案内いたしますが、バイオリニストの特徴としては次の点が上げられます。

1.手を挙げたままの姿勢が長い
・・・当たり前ですがバイオリンを演奏すると言うことはその間ずっと持ち続けると言うこと。
こういった場合はどういうことを意識すれば良いのでしょうか?

2.手を前に出す姿勢が多い
・・・これはバイオリンをやってみないと分からないかも知れませんが、バイオリンを弾くということは画像のように手を前に出した姿勢を続けると言うことです。
このためにはどうすれば良い?
これは普通の皆さんでもPC仕事が多い方などには共通する問題です。一緒にお考え下さい。

3.腕を横に振る動きが多い
・・・加えてもう一つの問題はバイオリンは持つだけでなくその中で動きがあるということ、
バイオリンの場合右手を前後に動かすことが多いのも特徴で、このためにはどうしましょう?

4.素材は・・・
・・・バイオリンを弾くとき、そう、コンサートの時は照明が結構キツイですよね、スーツは黒ですから熱を吸う。加えて動きのある演奏会です。
こんな時はどんな生地を選んだら良いでしょうか?

こんなところがヴァイオリニストならではの問題点ではないでしょうか?
そこでSさんご来店時に、この問題に対して次のようにご説明いたしました。

■ こうしてはどうでしょうか?(解決策のご提案) ■


>>1.手を挙げたままの姿勢が長い

答え.
腕を挙げ続けるというのは意外と大変なことです。
何故大変なのでしょうか?それはやはり重さでしょう。
そこで、素材を軽くすること(これは4.でご説明します)と同時に、アームホールを小さくすることをご提案しました。

アームホールを小さくするとどうして軽くなるのでしょうか?
・・・それは、腕が重く感じるのは見頃(上着の胴体部分)が引きずられるためそのように感じやすいので、そこでアームホールを小さくすれば、胴体に対して袖が独立してくるので軽く感じ手を動かし易くなるのです。
(よく腕を動かし易くするのにアームを広げては・・・という方がいらっしゃいますがそれは間違いです。)
そこで基本はアームホールを小さくすることにいたしました。
でも、アームホールって丸い穴ですよね〜。
小さくするってこの場合どこを小さくするのでしょうか?
答え.
今回は腕の上げ下げをしやすくすることに主眼を置いたためアームホールの下側(脇の下の部分)を浅くし、一方では腕を上げっぱなしにするため肩の山が高くなり過ぎるため肩先を小さくしました。
つまり丸形のアームホールを横に押し潰したような形に変形させることにしました。(・・・何故全体を小さくしないかは2.で説明します。)

>>2.手を前に出す姿勢が多い

答え.
この問題の対処は2つで対応しました。
1つは、強い前肩補正を入れる。
・・・日本人に一番多いご体型で、肩先が前の方に向いている体型を前肩と言いますが、Sさんの場合はバイオリンを持ち手を前に出すと言うことはこの前肩状態を長く維持すると言うこと。
そこで肩が前に行った状態で着易いよう前肩補正を最初から強く入れることにしました。

そしてもう一つの対処は、アームホールを前後に動かし易いように画像内赤線部分にはゆとりを持たせ、前後のアームホールは小さくしないことでした。(2つ目の答えが前述1.でアームホール全体を小さくしない理由でもあります。)
これで肩の作りとして前肩に対応し、アームホールも動かし易くなるのです。
よく雑誌などからの影響で空豆型のアームホールが良いとか、それ以外はダメかのような物の言い方をする人(お店)がありますが、アームホールをこのように固定的に考えることはとても危険です。
あくまで人それぞれですから...


>>3.腕を横に振る動きが多い

腕を前に振ると言うことは次の2点が問題になります。
1つは手を前に出すとき背中が窮屈になると言うこと(画像内赤線部分)
そしてもう一つは腕を奮ったとき筋肉が収縮し部分的に通常状態より腕が太くなると言うこと。(画像内青線部分)

そこでこの答えは・・・
背中の窮屈さに対しては背中側の生地にゆとりを持たせること(専門的には背幅だし)
そして、腕が太くなることに対しては袖幅を少し太めにすること、これで対処することにいたしました。

>>4.素材は...

最後に素材ですが、着用する所の照明が強く色が熱を吸う黒であること、動きがあり暑くなりやすいこと等を鑑み、素材は夏物で一番薄手の礼服地をオススメすることにしました。
夏物礼服地となると量販店にある物は黒の深さが浅いもの(=白っぽく見える物)が多いですがオーダー向けの生地は黒の深さに気を遣っていますから、これなら真っ黒で、他の人と比べて白っぽい夏物→安っぽい外観とはならないようなものをオススメしました。
もちろん裏地の素材は発汗性の良いキュプラです。

さぁ、これでバイオリニストのスーツ専用の体型補正が出来ました。
今回のスーツは普通に立っている時に美しい(格好良い)スーツを目指した物ではなく、ヴァイオリンを弾いているときに楽で、その時に美しく見え、着心地の良い物を目指しました。

さてさて
着心地はどんな物になるのでしょうか?
いつにない切り口でのオーダースーツですから結果が楽しみですね。

Sさんのスーツはただ今お仕立ての真っ最中です。
仕上がりましたら、Sさんのご感想を皆さんにご紹介したいと思いますので是非楽しみにしていて下さい。