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持ち込み生地のお客様
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今年の梅雨は遅くようやく梅雨入りといった感じがする6月下旬ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか? 梅雨入りが遅かったとは言え、鬱陶しい季節で早く梅雨が明けて欲しいものですね。 さて そんな人出が鈍る時期だからという訳ではありませんが、先月新着情報で「生地と仕立ては何故一緒?」という話題を取り上げたところ、思いの他皆さんから色んなお声が聞こえてきましたので今回は、そんな中からご注文を頂いた(予定)の札幌のSさんをご紹介したいと思います。 Sさんは札幌にお住まいで前回のご注文の際には提携店にて採寸いただいたお客様。 ↑新着情報をHPにアップする直前にご相談メールを頂いた方です。 まずはこんなメールを頂いたことからご相談が始まります。 |
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★☆★ 東京SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★ | |
いきなり来ますね〜、かなりディープなご相談メール!! こっちもやる気になります!(*^_^*) 生地をよそで買われてそれを当店のような仕立屋に持ち込みたいという主旨ですね。。。 直近の新着情報でもご案内しましたがこのような生地の持ち込みは基本的には仕立屋さんからは敬遠されがちです。 理由は...というと、、、この辺は前掲新着情報で詳述していますのでそちらをご覧頂くとして、 頂いたご相談メールの中で気になる所に下線を引いて朱書きにしましたのでそちらをちょっとご説明しましょう。 |
※1:生地がオークションに出ていて・・・ 試しにヤフオクで「生地 スーツ」で検索すると結構出てきますね。。。 中にはテーラーさんがヤフオクで商売されたりしているがあったり、ブランド品の生地があったりと。結構面白い、、、 ・・・とは申せ、うさん臭さそうな所も結構あってさすがヤフオク、玉石混合といった所でしょうか。 でも、皆さんあまりご存じないと思いますが、その昔洋服生地は独自で流通することもあって、生地だけを桐箱に詰めて贈答用にしたり、あるいは生地が質草として大切に取り扱われたそんな時代もあったんですよ。 そういった時代の名残で、「祖父が残した生地で。。。」などという形で個人の方がオークションに出品することも多々あるようです。 しかし、差し押さえた洋服地までオークションで売るなんて、、、債権回収も大変です。(^_^;) |
※2:通常は5万円6万円します・・・ これって、むちゃくちゃインチキ臭いですよ!! 私達生地屋は確かに反単位で仕入れますからもっと安いですが、生地代だけで5万6万というのは当社で言えばインポートの最高級の世界で、普通は国産生地を使った仕立て代込みのお値段です。 定価を高くしておいて割引販売といった典型ではないでしょうか? 加えて後述しますがノークレームノーリターンというのもかなり危険です。 |
※3:補償が出来ない・・・ ウン、これはどこでも同じようですね。 当社でもかつてお客様いらっしゃ〜い・ありがと〜うコーナーでも紹介しましたが、やはりリスクが高く後ろ向きになりがちです。 お客様にご請求できる工賃はイージーオーダーならせいぜい3〜4万円ですから、上述※2の様なことを後から言われてしまうと自ずと腰が引けます。 |
・・・ということで、早速私からもお返事いたしました。 |
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すると、早速その日の内にSさんからお返事が・・・ |
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★☆★ 東京SHOPMASTERより一言・・・ ★☆★ | |
Sさん、3カ所からお買い求めになったんですか! 一つの所で沢山買い込んだのかと勝手に思いこんでいました。Sさん、もうちょっと計画的にね、、、 (^_^;) そこでこの3店ちょっと比較してみましょう。結構辛口コメントですよ! |
□1店目:東京のお店 3mで2,000円というもの □ | ||
貼付していただいたのは生地画像とオークションの詳細ページでした。(そのままの掲載はマズイと思い、テキストだけ抜き出しました。) | ||
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う〜ん、これは比較的落札者のことを気遣った出品者ですね。 でも、いくつか補足しておきましょうか。 ※1 市価6万円以上の生地(中外毛織製)ですか。。。 当社は生地の小売りをしませんから分かりませんが、私の感覚で市価6万円以上となると1m=20,000円ですからゼニアやロロピアーナなどの高級インポートの生地代です。 中外毛織さんは当社も取引がありますが、さすがにそこまで高くないです。(取引があるので詳述控えます。) ですから、市価6万円は誇大な表現でしょう。ちょっと頂けません! ※2 標準の方なら充分足りる この辺はとても親切です。 一般の方は知る由もないことですが、身長170cm前後の標準体型の方でしたらスーツ1着で145cm巾(通称W巾)の生地で3.0m必要になります。 ですから標準身長以上の人ですと生地が不足し、だからといって追加できない生地ですと1着その物が作れなくなってしまいますので、生地が無用の長物になってしまうのです。(上着だけ作れても仕方ないですからね。) また、ヴィンテージ品はノークレーム/ノーリターンが基本ですからこういった書き方も必要なんでしょう。 でも、まぁ、ヤフオクですからこんな物なんでしょうね。 |
□ 続いて2店目は... 縫製工場からの流出という2着分で7.6mの商品□ | ||
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・・・ここは全体的にはまともなお店、のようです。 まずは生地の長さがたっぷりあることが魅力ですが、でも表示方法にちょっと不審な点も。。。 それは例えば生地巾160cmというところ。 ・・・生地の巾というのは織機(生地を織る機械)がある程度世界的に企画化されていて92CM巾、112(120)CM巾、140〜148CM巾と大別されます。 ですから生地巾160cmというのは特殊な伸縮性のあるニットや加工素材を除いて160cm巾の商品って見たことありません。 多分、出品者がアバウトな性格な方で、きっと私の不安は取り越し苦労とは思いますが・・・ ちなみに、この出品者、ご本人が縫製工場の在庫処分と言われていますがそれは間違いないと思います。 というのは、スーツを1着分で仕入れるテーラーは無駄な生地を仕入れませんので4.0mとか3.8mとかいった中途半端な商品は置かないのが基本です。 この点既製品の工場などは、発注元から生地を反物で受け取りますので、それを切り詰めて使うと1着分位生地が余るものなんです。 その余った生地の小遣い稼ぎかも知れませんね♪ (吉井工場長、こんな事しちゃダメですよ!) 生地画像は後日Sさんから生地をお送り頂いた際に撮影しました。 生地の余り布を紐代わりに使う所が小売というより業界人ぽいですね、、、 |
■ 最後は・・・:大阪から落札という2.7m 5,000円のもの。■ | ||
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>>> こ、これは。。。 一番ダメな例です!! どこがダメかというと生地の長さ。 ハッキリ言って2.7mの長さというのは今の日本人の体型では命取り。 平均身長170cmの昨今は最低でも3.0m欲しいですし、これに加えてウエストサイズやデザインに応じてプラスアルファが必要です。 例:お台場付き+10cm、パンツの裾ダブル+10cm、格子柄+10cmなどなど。 それにしてもこの詳細コメントですが、我々から見ると悪意すら感じます。 それは例えば・・・ |
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『ノークレーム/ノーリターンでお願い』 | ||
>>> 結局この一言はW巾で2.7mで生地が足りなかった人からのクレームを回避するためのコメントでしょ。 本来注意事項として記載すべきなら 『W巾で2.7mは短めですから小柄な方160cm以下の方やジャケット+スカートの女性向けです』と書くべきです。 |
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『ヴィンテージ品としてご理解〜』 | ||
>>> その上でこんな事が書かれていると物性的にも問題がありそうな気すらします。 70年代に織られた生地となると保管をキチンとしていないと虫食いや日焼けもそうですが、物性的にも強度が落ちている場合もあります。 ・・・ということで、ここのお店は危ないと思います! ...しかもこれを5000円というこの3つの中で一番高い値段で買われたのは、、、う〜ん、失敗ですね。(次回からは事前に私に相談してくださいね。) |
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さてさて、 最近、生地の持ち込みについてご紹介することが多くなっている当店ですが、このご注文、この先どうなるのでしょうか?(私にも良く分かりません、、、) でも、今回のこのお客様の続編は「スーツとして出来るのかどうか?」という話より『全部格好良く仕上がりました!』という話にしたいですね。 それでは皆さん梅雨空に負けず元気にお過ごし下さい! ごきげんよう。 |