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オーダースーツのヨシムラ
お客様!いらっしゃ〜い!

 スーツを長く着るために・・・
楽しかったGWも終わり、しばらく国民の祝日はなくなり寂しくなりますが皆さんいかがお過ごしですか?
ようやく初夏の陽気が多くなり、これで梅雨が過ぎればアッという間にになります。
日本の四季は早いものですね...

さて、
今月は季節が変わったという事もありますのでこのタイミングでのホットな話題としてスーツのメンテナンスについて皆さんにご紹介したいと思います。
メンテナンスというと、「また水洗いネタかい?」と笑われてしまうので、今回はちょっと時代を考えた高尚な(?)話題作りをしてみたいと思います。

皆さん、今の時代あるいはこれからの時代ファッション業界として考えなくてはいけないことは何だと思いますか?
当店では最近社内の打ち合わせでこんな事が話題になりました。
そんな中で出てきた意見として
       1. 地球に優しい物作り
       2. 素材インフレ時代の自己防衛
       3. 1ユーロ160円時代
   などが挙げられました。
業界業界によってそれぞれ事情が違うので補足しますと個別にはこんな意見が出ました。

1.地球に優しい物作り
>>> これはどこの業界でも言えることでしょうけれど、私達の業界(特にアパレル)では大量生産大量廃棄の世界です。
加えてオーダー業界は、1着1着生地を切って使っている以上、製造上の無駄はアパレル業界以上で、日々地球に厳しいことをしていると言っても過言ではありません。

それではどんなことをすれば良いか?
例えば、残り布を使ってパッチワークのクッション布製鞄を作ってみては、、、ということが考えられました。
またお仕立したスーツ1着1着長く着て頂ける環境作りをすべきではないか?という意見も出ました。

2.素材インフレ時代の自己防衛
>>> 昨年から石油製品から食糧、鋼材に至るまであらゆる業界で素材インフレが起きています。
私達の業界でも、原毛も副素材(ポリエステル、キュプラetc)も今年も!しっかり値上がりしていますし、この調子でいくと縫製工賃も、運送費用も上昇する懸念があります。
ということは、、、それが製品単価に反映しなくてはいけない時代も近い?ということです。
それでは顧客離れが起きます、、、よね?
ですからこうならない努力をしなくてはいけません。

3.1ユーロ160円時代
>>> 加えて現在のファッション業界のリーダーであるイタリア・英国の生地などはユーロ高(ポンド高)の影響でここ数年で30%コストアップしています。
そしてこれはそろそろ日本の消費者がスーツ1着に対して手が出せなくなる金額(1着10万円と私は見ています)に近づいてきています。
それ故、そろそろインポート商品ばかりをオススメするのは良くないのではないかと考えるようになりました。

う〜ん、非常にネガティブな意見ばかりが出てきました×××

それではオーダースーツ業界はこれから苦境に陥る?
そうとも思えますが、それでは生き残っていくことは出来ませんので、自分達の身体を時代に合わせて変えていかなくてはいけません。
そこで、(前置きが長くなりましたが)今月はこれからのテーラーはこんな事も仕事にしなくてはいけないと考え、スーツのメンテナンスPart.2として裏地の張り替えを紹介したいと思います。

ご登場いただくのはリピーターのSさん かれこれ4〜5年のお付き合いのお客様です。
はじめは、今シーズンのご注文が終わった後のこんなコメントから始まります。
08.04.10 件名:Re:ご注文ありがとうございました。
吉村さん
毎度お世話になっております。
新規の注文については了解いたしましたのでよろしくお願いいたします。

別件ですが、今まで御社で製作したスーツの裏地が破れてきています
同一箇所ですので当方の着方あるいはによるものと了解しております。
ちなみに場所は右ポケットの裏です。デュポンのライター入れているせいでしょうか...
裏地の取替え、およびタバコくさい+くたびれてきたので丸洗いをお願いした場合のお見積りをお願いいたします。(東京都在住 S)

読者の皆さん、如何でしょうか?
愛着あるスーツ(コート)などの裏地が破れて、みっともなくて廃棄してしまった、、、なんて経験、誰でも一度や二度ぐらいはあるのではないでしょうか?
特に当店では着心地を優先して肌触りの良いキュプラ100%の素材を多用していますから、
肌触りが良い柔らかい摩擦で摩耗しやすい となり時々、裏地破れのご相談を頂くことがあります。
表地の方はいつもオススメしているスーツの水洗いである程度復元できるとして、でも裏地などが物理的に傷んでしまったら.... そんな時、皆さんならどうしますか?

そこで、まずはどうして裏地が破れるのか?
どうすればこうならないように出来るのか?
そして、こうなってしまったらどうすれば良いかを考えてみましょう。

■ どうすると裏地は破れるの? ■
実は、裏地破れの原因を考える時のヒントはSさんのメールにふんだんに盛り込まれていました。
それは・・・

1.着方
・・・ 着方を言い出すとスーツの機能性の問題にも絡みますので、ここではあまり深く掘り下げないようにしますが、車の運転などで上着を着ながら運転している人はどはどうしても運転中の動きに合わせて生地や裏地が引っ張られるため、破れやすくなります。

2.固形物の当たり
・・・ Sさんのコメント中『デュポンのライター』とありましたが、これがその最たる例ですが、固形物(特に金属製の物)が恒常的に当たっている場合金属に裏地は勝てませんから、数シーズンでそこが摩耗してこんな風になってしまいます。
皆さんはこういうケースありませんか?
携帯電話を一定の場所に入れ続けるクセがある。」
「自分の革財布の四隅に金属が付いている。」
「トランシーバーなどの固形物を腰に付けなくてはいけない。」などなど...
こういった物が特定の場所に当たり続けると裏地はどうしても傷んでしまうのです。

3.連続着用
>>> 続いて、多いのが同じスーツを何日も着続けるケース。
スーツの摩耗は着用時間と比例するといっても過言ではないのですが、それが連続着用が長いと2次曲線的にスーツは早く傷みます。
やはり着たきり雀はダメですね。
その他にも、普段使いのペン差しなどもいつもペンを入れて、連続着用をしているとペン差し部分が傷んだりもします。

そこで、Sさんへはこんなお返事をいたしました。
08.04.11 件名:お問い合せありがとうございます。
Sさん
おはようございます。オーダースーツのヨシムラ(吉村)です。
今日はこれから晴れるようですが如何お過ごしですか?
こうなると花粉症の方にはまた辛い一日になりますね。

さて 昨夜はご連絡を頂きながら返信できず失礼しました。
ご注文の方ご連絡有難うございました。
また、これまでお仕立したスーツの裏地が破れているとのこと、
聞けばデュポンのライターが原因では?とのこと、

そうですね、ご懸念の通り、ライターなど(特に金属製の)堅い物が慢性的に当たり、振動するとどうしても裏地などはそこがピンポイントで破れてしまいます。
特にキュプラ裏地は肌触りが良い分、素材が柔らかいためこのようなことが起こりやすいです。

対策としては、場所が1カ所か2カ所にハッキリ特定できているようでしたら生地のタグや当社の織りネームなどを該当個所に初めから貼り付けていればそれがある種のアップリケの役割を果たしますので、今回お仕立の物も対処しますから、よろしければ場所をもう少し教えていただけますか?
(よろしければ別件の水洗いと含め早急にお送りいただければ、今回のご注文の商品から対策を施したいと思います。)

また裏地貼り替え等のお見積もりは次の通りです。
  << 裏地貼り替え >>
   全面(袖裏込み)     15,750円
   胴裏のみ(袖裏はそのまま)12,600円※1 
   部分部分の交換       8,400円※1

  << 水洗い >>
   シングル上下        6,825円※2
※1:裏地の傷み具合により現物を拝見してから私共の方でお見積いたします。
   裏地代は別途2,100円です。
※2:水洗いでは簡単な補修(ほつれなど)は無料で行っています。


以上 簡単ですがご案内まで

オーダースーツのヨシムラ 東京SHOPMASTER 吉村 雅隆

そして、待つこと数日、送られてきたスーツがこちら...
う〜ん、画像では微妙なテカリや臭いなどが分かりませんが、Sさんにはちょっと失礼な言い回しですが、タバコ臭がきつく、食べこぼし等の汚れ(ピンを打った先の部分)も、生地の傷みも半端じゃありませんでした。
画像内ピンを打ったところは何か外的な汚れ、ボタンホールの周りもボタンの跡が分かるぐらいテカっていました。

さてさて、これをリフレッシュするのは厄介だぞ・・・と思いつつ、Sさんへ早速お返事をすることに...
08.04.24 件名:スーツ2着届きました。
Sさん
こんにちは、オーダースーツのヨシムラ(吉村)です。
今日はあいにくの空模様となりましたが如何お過ごしでしょうか?
それでもGWは予報では好天に恵まれるようですね。
さて
昨日はサンプル帳のご返却と共にスーツ2着をお預かりしました。

スーツの方はご相談いただいたようにライターの為、随分傷んでいますね。
また全体も結構汚れて(傷んで)いますので、これでしたら部分交換よりも全面張り替えの方が良いかと思います。
そこで幾つかご提案なのですが次のようにしてはいかがでしょうか?

1.裏地について
>>> 前回お付けいただいた裏地は裏地としてはやや薄手の物を使っています。
Sさんのライターによる摩擦は不可避のことですから、今回は同じキュプラでも少し厚手の裏地に交換してはいかがでしょうか?

そして、色目の方は・・・
・ワインの裏地の方は、同じようなワインカラーの色目でコート用裏地(肉厚!)を使うか、山吹色のD管止めの色に合わせて、ゴールド系の裏地。
どちらがよろしいですか?
・ゼニアのブルーストライプスーツはストライプの色に合わせて別色のブルーの裏地(やや明るくなります。)
...で合わせてみたいと思います。
いかがでしょうか?画像を参照下さい。

2.タグの移動
>>> どこまでできるかやってみないと分かりませんが、生地の織りネームなどのタグを痛みが予想される場所に移したいと思います。
あまり過度なご期待は出来ないと思いますが、それでも耐久性UPに貢献できると思います。
画像のタグは他社の物で大きい物を使っています。実際にはゼニアとレッソーナですのでもう少し小さくなります。

以上のように考えておりますが、いかがでしょうか?
作業手順としては、まずは水洗いを行った後に裏地張り替えとなりますから、それまでの間にお返事いただければ幸いです。

以上ご検討の程どうぞ宜しくお願いいたします。
オーダースーツのヨシムラ 東京SHOPMASTER 吉村 雅隆

いかがでしょうか?
ここで私からSさんにご提案したことは単に裏地を交換するだけでなく、
Sさんの場合、原因(金属製ライターをタバコポケットに恒常的に入れる)がハッキリしていたので上述のような個別対応も考えました。

特定箇所の補強としては生地の織りネームを破れやすい所へ事前に張り付ける

全体の摩耗への対処はキュプラの中でも肉厚な物を使う
...といった感じです。
:メーカー織ネームはメーカーによってはお付けできないケースもあります。

個別対応で、少しでも考えられる原因はなくそう!といった考えからこのように提案したのですが、いかがでしょうか?
幸いSさんの方もこれに賛同してくれて、最終的にはこのご注文はまずはフルオーダー工場で水洗い、その後イージーオーダー工場で裏地の貼り替えといった手順でリフレッシュすることになりました。

さて、
どれだけ綺麗に生まれ変わることが出来るのでしょうか?

これからの時代、新しい物を売る(買う)ばかりでなくこういった視点で物を大切にすることも重要なことですね。
皆さんも、『ちょっと破れたから次!』ではなく、今ある物を大切に使ってあげてくださいね。

紙面が長くなりましたので出来上がりは次回ご紹介します。
それではまた!!