お客様、いらっしゃ〜い!!: イタリアンなダブルスタイル

桜もあっという間にハラハラと舞い散り、儚さすら感じられる今日この頃ですが、まだまだ寒い日もあり体調管理に気を付けたい時期ですね。
皆さんはこの季節をどのようにお過ごしですか?
先日東京でもみぞれが降り、慌てて冬物のコートを出された方も多いようですね。(4/13執筆)

さて、そんな季節に昨年末から立て続けにフルオーダーのご注文を頂いているKさんの拘りあるスーツのご注文を出来上がりと共にご紹介させていただきます。
私とKさんの出会い(?)は、Kさんが初めて当社へお越し頂きフルオーダーのファーストオーダーを頂いたときの仮縫いの時に遡ります。
仮縫いの際に軽い挨拶を行った際、シャツのご注文を、、、ということで次の予定が入っていたフィッターに代わり私が対応させていただいたのがきっかけでした。
拘りある雰囲気のKさん、
内心「初対面だし、まずはどんな方か生地を決めるときに色々とお話をしてみよう」ということで話を振りつつも「どのような場面で着用するか」、「どんな色がお好みか」、「どんな柄が好みか」と、いった話をしながらデザインを決めていきました。
そんな話を伺っていくと、当社へお越し頂いた理由も徐々に明らかになって参りましたが、その詳細は最後にご紹介させていただきますね。

さて、今回ご紹介するKさんのクラシカルなダブルのスーツは、当社2着目の出来上がりを見て今回のご注文に至りました。
(ちなみに、全てダブルのスーツです。)
テーマはエレガントな黒のダブルスーツ。
今回3着目のご注文だったのですが、2着目の出来上がりを見て、Kさん曰わく、 「もう大分理想に近づいてきましたね。」とクールに一言。
高岡:「ありがとうございます!次もより良いスーツに出来上がるようご協力、お願いします!」
ということで、一安心して生地選びからはじめました。

Kさん:「黒のスーツがずっと欲しかったんだけど、礼服にならないような生地あります?」
高岡:「むむむ。礼服にならないように、、、ということでしたら、マットな感じよりも華やかな“光沢感”があった方がいいですよ!」
ということで、夏物のイタリア製の生地を2種類持ってきてそこから選んでいただきました。
その後、生地が決まりましたが、もう一方の生憎抽選に漏れてしまった生地は、イタリアを代表するロロピアーナ社のfourseasons(四季:合い物)シリーズで非常に光沢感のあるエレガントな素材でしたが、少し光沢が強くていやらしい!ということで、本命の生地が選ばれました。
選ばれた生地はこちら。
「Loro Piana」社の「ZELANDERDREAM」G3095 黒無地
さらっとした肌触りを保ちつつも、夏物にはあまり出ない「光沢感」が溢れ出るのは、良質な原毛を使用するからこその賜物。
有名なブランドだけあって、その辺りの品質は落とせません!という強い気持ちが伝わるほどに、このロロピアーナのジランダーシリーズは夏に大人気の商品です。
そして、今回Kさんのお眼鏡にかなった大きな要因として、「さりげなくも上品な光沢感」です。
なかなか黒無地というと礼服に近づくのですが、この位の光沢感と雰囲気があればまず問題ありません。

生地が決まり、早速デザインを、、、ということで出来上がりのスーツと照らし合わせながら話を進めていきました。
その経緯を、出来上がりの画像をと共にご紹介させていただきます。

■ 衿型:ピークドラペル ■
Kさん拘りの部分であるピークドラペル。
かなりの拘りがあり、5ミリ単位で一着目、二着目と調整して参りました。
拘りにこだわったこのKさんピークドラペル。
拘りのポイントとしては、「下衿のピーク(頂点)があまり上がりすぎていない+ゴージラインをかなり高く」ということ。
Kさん:「大分良くなってきましたね。ただ、もう少しピークの先を下げてみますか?」
高岡:「うーん、これでもカッコイイですけどねぇ...仮縫いの時に調整しましょう!」ということで、5ミリ程下げる予定で仮縫いに挑むことにしました。
■ ウエストのくびれ ■

エレガントには重要なポイントであるウエストのくびれ。
平面の生地をキレ−−−にくびれさせるには、ハンドメイドならではのアイロンワークが必要になります。
参考となる2着目の出来上がりはこちら。
いかがでしょう! 綺麗にシェイプされたこのくびれ。
平面の生地が、立体を描いてシェイプされています。
ウールの特性上、「熱」と「水分」によってタテ糸、ヨコ糸をずらし曲線になります。
この綺麗な曲線を描くのはフルオーダーの醍醐味!です。
この辺りは、Kさんもご満足のご様子。
ということで、こちらは前回踏襲にて進めるようにいたしました。
(もしかするとKさん、仮縫いの時に更に絞る(シェイプさせる)かも?)

そしてくびれのもう一つのポイントは横から見たときのくびれ。
背中〜胴回り〜お尻と綺麗な曲線を描いております。
正に四方から見て「シェイプ」された状態です。
こちらもアイロンワークならではの「クセ取り」がポイントです。

■ 袖付け:マニカカミーチャ ■

Kさんはイタリアより直接スーツを購入し、ずっとリピートしていた経緯もあり、袖の付け方にも拘りが。
イタリア(特に南部)の代名詞であるマニカカミーチャです。
Kさん曰く  さりげない雨降り袖が良いということで、改良を重ねておりますが、個人的にもう少し雨降り袖を少なくしても良いのかも?という感想です。
次回に繋げたいと思います。

■ 2着目の出来上がり ■
そんなこんなで今回のご注文でベースとなった2着目の全体像をご紹介いたします。
いかがでしょうか?

全体的にはクラシカルなWのスーツを元にウエスト周りのくびれや拘りの衿が何とも言えないハンドメイドならではの仕上がりに。
大分ご満足頂けているようで、一安心ですが、気が抜けないのがオーダーです。
しっかりとご満足頂けるよう作業に取りかかっております。
Kさん、楽しみにしていて下さい!
■ 最後に... ■
さて、そんなKさんとの最初の出会いは、1着目の仮縫いが終わった後、シャツのご注文の時。
その流れで一着目の出来上がりのフィッティングをする事になりました。
実のところ1着目の出来上がり時のやりとりが、正直申し上げて今回の2着目の出来上がりに大きく影響したと私、思っております。...と申しますのは、一着目の出来上がりの際に、「前身交換」を行ったのです。
仮縫いの際に確認させていただいたようですが、出来上がりの際にイメージが違うとのこと。
正直、仮縫いの際に確認させていただいているので、、、と恐縮ながら申しますと、
Kさん:「私は納得できないものは着られません。ですから、私が直し費用を負担しますので対応していただけますか?」と一言。
(高岡:「確かにこだわりの部分であり、無料対象外とはいえ、果たして最終的にご満足いただけるだろうか...」と葛藤しつつも、当方のこともご理解いただいているようですし...ということで)
高岡:「わかりました。ただ、ご満足頂きたいので、もう一度原点に返ってしっかり対応させてください。」ということで、再度その場で型紙を抜いて理想の形に近づけるように致しました。
またその話から、Kさんのこれまでの当社へ行き着いた経緯もお話頂きました。
以前お仕立てされた色々なテーラーさんでは、出来上がりの際に、ここのサイズをもう少しこうしたい!という希望や、このデザインをこうしたい!という言葉を発していく内に皆さん共通して、「スーツはこういうものだから!」という言葉の元言いくるめられて直しさえも受け入れてもらえず...という経験を色んな所で体験していたようです。

オーダーは、無い物を作り販売するという特殊な業界ですから、ご注文の際に極力お好みやご希望をお伺いするようにしておるのですが、神様ではありませんから、最初から100%!というのは難しいことも多いです。
1着目の出来上がりは100%を目指して80%以上になれば十分!とさえ言われています。
そのことはKさんも理解済みの話でしたが、私たちのことを理解してくれているが故、私も当社で対応できると確信した上で、承ることに致しました。

オーダーとはお互いの協力の下作り上げていくのだ。とそう感じる出来事でした。
ただ、極力100%、120%を目指しております!