HOME > お客様いらっしゃ〜い > 40’sのヴィンテージ風スラックス⁉

40’sのヴィンテージ風スラックス⁉

  執筆者:東京店 河本


長い方だと9連休と楽しかったゴールデンウィークも終わってしまいましたね。
皆さんは今年のGW、有意義にお過ごしなられましたか?
今はGWの思い出に浸りながらお忙しい日々をお過ごしになられている方も多いと思いますが、これから気温も高くなってきますので、どうぞご体調にはくれぐれも気を付けて、また次の大型連休を楽しみにしてお仕事頑張りましょう!

さて
GWが終わるとクールビズも始まり、本格的に夏仕様の装いに変わっていくと思います。
そんなこれからの季節に活躍するアイテムといえば、やはり《スラックス》ですよね。

ビジネスシーンからプライベートシーンまで様々な用途で重宝するスラックスですが、先日プライベート用のカジュアルスラックスで面白いご注文を頂きましたので、今回はそちらを『お客様いらっしゃ~い』にてご紹介します。

今回ご紹介するお客様は、私河本の大阪時代からの友人A君です。
A君は私の専門学校の同級生で、職種は違えど同じ時期に一緒に上京してきた、いわば戦友です。

そんなA君のオーダーは、プライベートでのこんな会話から始まりました。

A君: スラックスを単品で作りたいんだけど出来る?
私: もちろん!ちなみにどんなのが欲しいの?
A君: よかった!プライベート用で『40‘s後半のトラウザーズをベースにしたヴィンテージ風のスラックス』が欲しい!色はグリーンで! シンプルなカットソーとかを合わせても様になるようなスラックスが良いんだよね。
私: (⁉)。。。う、うん。なんとかやってみるよ。

40‘s後半のトラウザーズをベースにしたヴィンテージ風スラックス⁉
これまた難しいオーダーになる予感が。。。

なんでも、このA君。お仕事は雑誌や広告、MVをメインとするファッションスタイリストです。その為、服にはかなりの拘りを持っていまして。その中でも特に好きなのがヴィンテージの洋服なんです。
※ヴィンテージと聞くと、やや年季が入っているものと想像される方も多いと思いますが、
A君は綺麗な状態で残っている(デッドストック)昔の洋服が好みです。
ただ、なかなか身体にピッタリ合うスラックスを見つけることが出来なかったみたいで、(特にウエスト)折角ならと私に依頼をしてくれました。

さて、今回のスラックスのベースとなる40‘s後半のトラウザーズ。皆さんはどういうものか知っていますか?もちろん、知らない方がほとんどかと思います。(知っている人はかなりのスーツマニアです) ですが、この40‘s後半のトラウザーズが今回のキモとなりますので、先ずはそちらをご紹介したいと思います。

40‘s後半のトラウザーズとは

40‘s後半のトラウザーズは、30‘sのスーツスタイルと深く密接な関係にあります。

30‘sのスーツスタイルは、肩先を盛り上げた構築的な肩回り(コンケープドショルダー)に、極度に絞り込んだウエストとかなり広めの衿巾でバスト周りのボリュームを強調したジャケット。いわゆる逆三角形のシルエットです。そして、トラウザーズは股上は深く、オックスフォード・バグズと呼ばれる極端に太いシルエットといった、ジャケットはタイトでトラウザーズはルーズなコントラストの効いたスタイルが特徴的でした。

このスタイルは40‘s前半まで続きますが、後半になるにつれて戦争による物資不足が深刻な問題に。特に生地は最低限まで減らさないといけないと余儀なくされたことで、30’sのようにふんだんに生地を使うことが出来ず、トラウザーズはプリーツが制限されたり、ヒザ巾や裾巾も少し細くなっていきました。
その為、40‘s後半は、30‘sのような2タックの極端に太いトラウザーズではなく、ノータックで太めながらもどこかスッキリ見える、そんなトラウザーズとなっています。
(一方、ジャケットは30‘sより更に肩のパットを盛り、ウエストの絞りもこれまでより強く入っています。物資不足の問題でパットなどの副資材も制限されていましたが、敢えて多くの芯地、パットを使うことで厳しい状況の中でも生き抜いていく力強さをシルエットと共に演出していたことが分かります)

今回A君が希望しているスラックスのベースとなる40‘s後半のトラウザーズはこのような内容ですが、重要な点は2つ。

  • デザインはノータック
  • 極端に太過ぎず、どこかスッキリ見えるシルエット

この2つのディテールを加えることがポイントとなります。

ん~。デザイン面は大丈夫として、シルエットがなかなか難しい。。。
昨今の一般的なスラックスのシルエットに比べるとかなり太めではありますが、それでもすっきりとした印象も与えるような絶妙なサイジングが必要になります。難易度が高いですね。

そうして色々考えるうちに時間は立ち、1週間後A君が来店しました。

A君: 先日伝えたようなスラックスは出来そう?
私: うん。大丈夫だよ。(内心少し不安)
A君: ありがとう!40‘s後半のトラウザーズというのはあくまでベースだから、ここにオーダーらしいデザインもエッセンスとして入れたい!
私: (覚悟を決める)分かった!任せて!

いよいよここからが今回の見どころ。『イメージからリアルへ』A君のイメージと私の提案をすり合わせた共同作業 (オーダーの一番の楽しみです!)で実際に形にしていきます。
形のないものを創造するってワクワクしますよね!A君も初めてのオーダーでしたので、ずっとワクワクしていたみたいです。(私はずっとドキドキでした)

それではこれより、A君との会話を交えながら今回決まった生地とデザインについてご紹介していきます。色々A君の拘りが詰まった内容となっておりますので、是非楽しみながらご覧ください。
なお、一番のキモとも言えるシルエットにつきましては、ここで採寸風景等をお見せするとネタバレになってしまいますので、完成品を紹介する際までのお楽しみとします!しばしお待ちください!

40‘s後半のトラウザーズをベースにしたヴィンテージ風スラックス

生地  YOSHIMURA ORIGINAL グリーン無地

私: 生地は、当時のような風合いが良いと思ってヴィンテージの生地を探したんだけど、グリーンで良いのがなかなか無くて。
A君: 全然いいよ。でもあまり柔らかい生地はイヤかな。
少しヴィンテージライクな風合いを楽しめるようなハリコシのある生地が嬉しい。あるかな?
私: これなんかどう?(YOSHIMURA ORIGINALを見せる)
ハリコシもしっかりあるし、まっさらなグリーンじゃなくてよく見ると黒の糸も交じっているから、奥行きのある面白い生地だよ。あまり今っぽくない色合いも逆に良いんじゃない?
A君: 良いね!これでいこう!

この時代、生地を織る機械(織機)は現代のそれと比べるとスピードも遅く、また原毛も今の主流である細番手に紡ぐことも不可能であったため、非常に肉厚で、肌触りも硬い物しか存在しませんでした。
その為、今回40'sのトラウザーズをべースにするということで、この時代の風合いに近い生地を使って仕立ててもらいたくOSHIMURAが誇る"ヴィンテージコレクション"の中から懸命に探したのですが、今回はご用意が出来ませんでした。

◇デザイン

◇ベルトループ 不要 サスペンダーボタン付き
◇持ち出し カド三角 長さ16cm、9.0cmの位置にループ1本付ける
◇タック ノータック
サイドポケット ナナメ
ピスポケット 左右チー付き
◇裾口形状 シングル
Ⅴカット 有り
◇その他オプション サイド尾錠付き フォブポケット付き
◇ボタン 焼き加工 白

◇ベルトループ不要 サスペンダーボタン付き
A君: ループを付けるか無しにするか迷ってるんだけど、どっちが良いかな?
私: この時代にはベルトで留めるパンツスタイルが少しづつ出てきてたけど、まだまだ主流では無く、サスペンダーが一般的だったよね。だから、プライベートでサスペンダーはしないと思うけど、40‘sのトラウザーズをベースにしているから、ループは無しのベルトレスにした方が良いと思うよ。
A君: じゃ、それでいこう!

◇持ち出しカド三角 長さ16cm、9.0cmの位置にループ1本付ける
A君: この帯部分に何かデザイン性を入れたいんだけど、なにが良いかな?
私: それだったら、こういうのはどうかな?(私物のスラックスを見せる)
   これは40‘sスタイルとは関係ないけど、今回ベルトループ無しにするよね?
一般的なスラックスと同じデザインにすると、シンプルなカットソーでタックインした時、どうしてもカットソーとパンツの境目部分にメリハリが無く寂しく映ってしまうんだよ。
だから、帯部分にこのくらいのデザイン性を加えてあげると、メリハリがしっかり出てバランスも良く、洒落感のあるスラックスになるよ。
A君: 良いね!持ち出しのカドは三角、それ以外全く同じでいいからこれにして!

◇タック ノータック
私: 40‘sスタイルだったら、タックはやっぱりノータックが良いと思うよ。
A君: もちろん!これはノータックでいこう!
◇裾口形状 シングル 
私: 裾はこの時代一般的だったのはダブルだけど、どーする?
A君: ダブルも良いんだけど、今回少し股下(スラックスの長さ)を長くしたいからダブルだと野暮ったく映ってしまいそうじゃない?
だから、今回はすっきり見えるようにシングルが良いかな。
私: 確かにそうだね。じゃシングルでいこうか。(良く考えているな~。)

◇その他オプション サイド飾り尾錠付き フォブポケット
私: これも40‘sスタイルとは関係ないんだけど、ちょっとしたデザイン性としてサイド尾錠やフォブポケットっていうのがあるけど、どう?カットソーを着た時もそれぞれ良いアクセントになると思うよ。
A君: これ気になっていたんだよ!これ付けよう!

◇ボタン 焼き加工 白
A君: 今回生地があまり明るくないから、ボタンは敢えて明るいボタンを付けたいな。それも形が面白いもので!オーダーらしいのが良いな。
私: なかなか付ける方はいないけど、焼き加工ボタンっていう面白い形のものもあるよ。
A君: これいいね!特にこの白が気になる!いいアクセントになりそうだし、これでいこう!

以上、このようなかたちで生地、デザインが決定いたしました!
果たして、A君が希望していた40‘s後半のトラウザーズがベースのヴィンテージ風スラックスは上手く再現出来たのでしょうか。

次回は、完成したスラックスを実際に着用したA君と共にご紹介いたしますので、是非皆さん次回の『お客様ありがとう』まで楽しみにお待ちください。


back number

過去のback number