2023年10月6日更新
本当に本当に今年の夏は暑く長かったですが、ようやく、ようやく秋らしい気持ちの良い季節になり始めましたね。
残暑のお陰で秋冬物への衣替えの動きもようやく本格的になって来て、徐々にお客様の来店も増えてきました。 ほんの1,2週間前まではどうしよう,,,,,と不安になるくらいヒマでしたが、ここにきて胸を撫で下ろした、そんな感じです。 行楽の秋、スポーツの秋、食欲の秋、ファッションの秋(←一応言っとかないと笑)、楽しみ方は皆さんそれぞれお持ちでいらっしゃるかと思いますが、思う存分楽しんでくださいね。 ちなみに私はこの連休、山形の大石田そば街道に蕎麦を食べに行ってきます。 また食べることばっかり、と言わないで メインは一応月山登山なんで笑
さて、今回はYOSHIMURAの古参リピーターでいらっしゃるFさんのコダワリ満載のオーダーをご紹介したいと思います。 元々は東京店を長らくご利用頂いており、お仕事の関係で関西の方へ居を移されたFさんですが、初めてのご注文が何と2003年4月ですからもう20年以上のお付き合いになります。 その年に生まれた子供がいまや成人ですからね、そんなに長らくご愛顧頂いて有難い限りです、Fさんのお住まいの方角に足を向けて寝れません。
今回のご注文はそのFさんから1通のメールを頂いたことからスタートしました。
見出し:お問い合わせ 差出人:F.F 送信日時:2023/9/23 オーダースーツのヨシムラ 南浦 充好 様 お世話になっております。 いつもお仕立て頂いているFです。 さて、この度、冬物を1着検討しておりまして、今季の4ply vintage archiveの杢調生地のダークグリーンを、バンチブックではなく現物で見たいのですが、可能でしょうか。 あともう1点、上着のポケットをパッチポケットにする場合に、写真のような斜め気味の形でつけてもらうようなことはできますでしょうか。 お手数をおかけいたします、どうぞよろしくお願いいたします。
現物の生地はサンプル帳に掲載しているものは基本的に店頭に準備しておりますので問題ありませんが、胸ポケットの形状は工場へ確認する必要があったので、下記の内容にてFさんには返信致しました。
アウトポケットの場合、口部分は基本的に胸、腰共に平行になります。 ただ腰ポケットはハッキング(向かって見てハの字のように角度を付ける)が選択可デザインとしてご用意があり、Fさんのご要望はそれを逆に、右下がりを右上がりに変更するだけですので特段問題は無いと思いましたが、ひょっとすれば型紙作成の必要がある場合もありますので、念の為確認したところ、追加料金及び型紙作成の必要無く対応可との返答でしたので、その旨、Fさんにお伝えしたところ、数日経ってHPから下記の内容にてご来店予約が入りました。
むむむっ!? 細かな希望はメールで別途送る?とな 何やら嫌な不安な予感がしますが、ただ単に胸ポケットの形だけのご要望ならこのお客さまいらっしゃいで取り上げることはまずありませんから、その内容は多分に漏れずFさんのコダワリが詰まりに詰まったものでした。
このように理路整然とまとめたものを事前に頂けると来店時にたたき台としてご案内ご提案が出来るので、お受けする側とすれば非常に助かることこの上ありません。 ただ事前に詳細をお伝えします、と言われれば、果たしてどんな無理難題を言われるのか?ビビッてしまう小心者の私であります笑
ザッと目を通したところ、今回Fさんは事前にお問い合わせ頂いたポケットの形状とジャケット及びベストのボタン位置(Vゾーンの見え方)のバランスに重きを置いていらっしゃることが分かります Vゾーンの見え方(見せ方)もイメージとなるものがあると、実際の採寸時にピンで留めながら確認出来るので、かなり高い精度でご希望のイメージに近づけることが可能ですからね、有難い限りです。
基本的なデザインから細部のディテールまで特段難易度の高いものはありませんでしたが、ただ1点のみ不可の箇所がありました。 それは,,,,【ベストの内側の裏地を、縞スレーキ、ズボンの腰裏に使うのと同じもので希望】というもの。
まず縞スレーキとは何やねん?といった方にご説明申し上げますと、スレーキとは別名袋布と呼ばれ、その名の通りポケットの袋地に使用する布のことを指します。 見えない部分に使用する生地ですから見た目よりも強度、丈夫さが求められますが、縞スレーキとはパンツのウエストの内側部分に貼り付ける生地で、こちらもその名の通り縞(ストライプ)になっているので通常のスレーキよりデザイン性が高く、高級感のある仕上りとなります。
この縞スレーキをベストの裏地に使用するとは中々のコダワリ様でありますが、何故これが裏地として使用出来ないかと申しますと、当店で縫製をお願いしている工場で使用しているスレーキは腰裏の幅分にカットされたテープ状になっているからなんですね。 どういうことかと申しますと、大きな生地状であればウエストのサイズ及び幅分、2度カットする必要がありますが、最初から幅分でカットされたテープ状であれば各々のウエストサイズの長さでカットするだけですので、工程の省略化になるという訳です。 これをベストの裏地に使用するとなるとつぎはぎだらけになってしまいますよね。 Fさんには上記の内容をお伝えして、今回はジャケットの袖裏に使用するストライプ裏地で代用することでご了承頂きました。 このようなやりとりを行いまして、Fさんがご予約頂いた日時にご来店され、いよいよオーダー確定に向けての戦い打ち合わせの幕が切って落とされました。 最初はまず生地の確認から
現物の大きい生地を御覧になられたいとのご要望でしたので、生地を肩に掛けてご確認頂いている画像となりますが、顔映りや彩度を確認するには比較対象となるものがあればより分かりやすいので、同じグリーン系である葛利毛織のP23-5804を左側に掛けております。 こうすることで、より色の見え方が分かりやすくなりますので、皆さんも是非生地を決める際には実践してみてください。
続いては今回のFさんの一番のコダワリpointと言っても過言では無い、ジャケットとベストのボタン位置(Vゾーン)の見え方の調整です。
左側が前回ご注文頂いた春夏物のカノニコのジャケットで右側が3つボタン中掛けと仮定してFさんのご希望のボタン位置にピン留めした画像となります。 Fさんから頂いた画像と比較すると右側画像の内側のベストのボタン位置ですと若干低く見えるので、ネックポイント(肩の縫い合わせ部分から第一ボタン迄の距離)で1cm高く(28cm)に設定致しました。 通常ベストのボタン位置は着丈の長さに連動するのですが、今回のベストは見本で着用しているものより2cm長くするので、具体的な数値を工場へ指示しないと着丈を長くする分、ネックポイントが下がってしまいます 標準のボタン位置をご希望の場合、ここまで細かな数値を指示することはありませんが、ボタン位置は仕上がり後に微調整することは不可能ですので、具体的なイメージをお持ちの場合はここまで細かな確認作業を行います。
これらのポイントの他にもっと詳しくご紹介したいデザイン、仕様が溢れているのですが、全てを書き連ねるととんでもない量の原稿になってしまうので、Fさんより頂いた仕様一覧に確定事項を記入したものを添付致しますのでそちらを御覧ください。
以上の内容にて一通り決定致しましたが、大変なのはこれからです。 果たして何枚仕様書を書かなければならないのか、今からアタマが痛い,,,,笑
PS:終戦の画