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ブリティッシュアメリカンなスリーピース

 執筆者:東京店 河本


めっきり気温も下がり、朝晩は肌寒くも感じるくらいになってきましたね。
涼しくなったことは嬉しいことですが、その反面、急な気温の低下から、このままいくと秋を堪能できる時期が短くなりそうで、少し寂しい気持ちになっている東京店の河本です。

さて 今回の『お客様いらっしゃ~い』では、先日あるお客様より面白いスーツのオーダーを頂きましたので、そちらをご紹介します。

本格的にも訪れ、ようやく衣替えを始められた方も多いと思いますので、その衣替えの参考資料の1つとして、軽いノリでご覧ください。

今回ご紹介するお客様は、YOSHIMURA&SONS初来店のご新規様、Sさんです。 Sさんは、スーツを作るにあたり色々オーダー店を調べている内にヨシムラのHPにたどり着き、この度ご来店をいただきました。

そんなSさんのオーダーは、こんなメールから始まります。

お名前 = Sさん
メールアドレス = *********
〒 = ********
ご住所 = *********
TEL = ***********
連絡事項 =アメリカンスーツが作りたいです。
動きやすく柔らかい雰囲気が出る生地などを知りたいです。

ふむふむ。今回のテーマは『アメトラ』ですね。

最近またよく耳にするようになった、この『アメトラ』というワードですが、実際に「アメトラとは何ぞや?」と思われている方も多いと思います。そのため、簡単にご説明すると、
アメトラとは、アメリカン・トラディショナルの略称であり、アメリカの伝統的なファッションのことを指します。例えば、昨今のビジネスシーンで再注目されている「紺ブレ」を象徴としたアイビールックや、プレッピーといったファッションもその1つで、歴史ある様々アメリカンファッションの総称をアメトラと呼びます。

ですので、このメールを見た時、一体Sさんはどんなスタイルでお仕立てされたいのか、というのは正確には分かりませんでした。ただ、ある程度予測をすることは出来ました。 というのも、Sさんのメールに書いてあった「動きやすく柔らかい雰囲気」というワード。この動きやすくて柔らかい雰囲気というのは、実はアメリカンスーツスタイルの一番の特徴でもあるのです。

アメリカンスーツスタイルの特徴

アメリカのスーツスタイルは、スーツの起源である英国のブリティッシュスタイルであり、元々は一人ひとりの身体に合わせたオーダーメイドで作られていました。
しかし、アメリカは多くの移民を受け入れていたことでその分人口も多くなり、また工業化が進んでいたことから、50年代後半から60年代にかけて生産効率を重視して工場で大量生産する既製品スーツが主流となっていきました。
そのため、作られるスーツも、誰でも着用することでき、また動きやすい「ゆったりとしたシルエット」となります。これが、アメリカンスーツの大きな特徴です。
このゆったりしたシルエットを実現するためのディテールとして、例えば、肩のパットを入れず、※1.肩のラインに沿わせたナチュラルショルダーや、※2.ウエストの絞りを入れない直線的なBOX型シルエット、などが挙げられます。

※1.ナチュラルショルダーは、肩回りが楽になり、見た目もソフトで柔らかい印象になります。
※2. 胸周りを立体的にし、胴囲のダブつきを解消することが目的の胸ダーツを無くすことで、BOXシルエットを実現させます。

このアメリカンスーツの代表的なモデルとして『No.1サックスーツ』というものがあります。
アメトラファンなら必ず知っているであろうNo.1サックスーツとは、1901年(諸説あり)に老舗クロージングストア『ブルックス・ブラザーズ』が製造したスーツのモデルで、このNo.1サックスーツの登場のより、アメリカのスーツスタイルは英国の影響から抜け出て、独自のトラッドスタイルを確立することが出来たと言われています。

さて
アメリカンスーツにはこのような特徴がありますが、上述したように、アメリカには様々なファッション・スタイルが存在します。
そのため、一概に断定することはできませんが、「動きやすく柔らかい雰囲気」というワードから、どのようなスーツをお仕立てされたいかをある程度予測したうえで、色々提案出来るよう準備をしました。

そして、いざSさんがご来店。
この段階ではSさんが希望されているアメリカンスーツの詳しい内容が分かっていませんので、
先ずはヒアリングから。

私: 今回アメリカンスーツのお仕立てをご希望とのことですが、どういったスタイルのものをご想像されていますか?
Sさん: とにかく動きやすくて楽なスーツが欲しいのですが、一方カジュアルテイストでオーダーらしい洒落感も欲しいので、そうなるとアメリカンスーツが良いかなと思いまして。。。
ただ、正直あまり詳しくないので、どういったスタイルで仕立てるかは相談しながら決めていきたいです。

やはりSさんは一般的なアメリカンスーツで動きやすい楽なシルエットをお求めのとのことでした。また、アメトラはどちらかというとスポーティでカジュアルライクな位置づけですから、洒落感のあるスーツに仕上げることも可能。
こうなれば、あとは生地・デザイン決め、採寸をスムーズに進めることが出来ると思いましたが、もう少し踏み込んだ質問をしてみました。

私: 普段はどういったテイストのスーツをお召なられるんですか?
Sさん: 普段は仕事柄、全くスーツを着ることが無いんです。
私: そうだったんですね。では、今回のスーツはどういったご用途で?
Sさん: 実は、来月会社の大事な会合に出席するので、そこで着用しようかなと。

どうやらSさんは、仕事柄普段は全くスーツを着用されないため、きちんとしたスーツをお持ちでないとのことでした。ただ、今回Sさんがご出席される会合では一応スーツが必須みたいでして、この度オーダーをするという経緯に至ったようです。
でもこれで、Sさんの希望されるスタイルや用途を伺うことが出来ました。
アメリカンスタイル、洒落感のあるカジュアルテイスト、会合の出席時に着用。。。
会合の出席時に着用?・・・・・おっと!

私: Sさん、今回ご希望されているスーツスタイルは「カジュアルテイスト」に仕上がりますが、会合の際に着用するスーツであれば、もう少しフォーマルライクなスタイルにされた方が宜しいのではないでしょうか?
Sさん: 私もそう思っていたんですけど、聞くところによると全然気にしなくて良いみたいなんです。
ただ、初めて出席するということを考えると、確かにあまり良くないかもですよね。
なので、一様今回はベストを付けたスリーピースでオーダーしようと考えていました。

特にドレスコードのようなものはなく、基本どのようなスーツでもOKとのことですが、あまりにカジュアルなスーツだと場にそぐわない装いになってしまいます。そのうえ、Sさんは今回初めて出席いうこともありますから、確かにベストくらいは付けたほうが宜しいのかなと。

しかし、ここでも問題が。

ベストを付けることで少しは引き締まったような印象にすることは出来ます。ただ、スーツのベースはアメリカンスタイル。上着、スラックス共にゆとり量の多いルーズなサイズ感ですので、「身体にピッタリ合わせるサイズ感のベスト×ゆったりしたサイズ感のスーツ」はあまりにアンバランスであり、一スタイルとして格好良いものとは言えません。

※ではベストを大きく作ればいいのでは?という声も聞こえてきそうですが、ベストは身体に一番近い上着ですのでしっかりフィットしたサイズ感が理想的です。

特に胸周りは、身体に合っていることで胸の丸みにスッと沿い、綺麗に映ります。しかし、ルーズなサイズ感で作ると逆に。また、上着を着用するとより浮いてきますので、ベストは身体にフィットしたサイズ感が好ましいのです。

フィット感のあるサイズ感


ルーズなサイズ感

そのため、上記の問題点をSさんに伝えたうえで、こんな提案をしてみました。

私: 今回、ベストを付けて少しフォーマルライクな印象にもされたいのであれば、
ブリティッシュ・アメリカンスタイルで仕立ててみるのはいかがでしょう。
Sさん: ブリティッシュ・アメリカンスタイル?

ブリティッシュ・アメリカン

ブリティッシュ・アメリカンとは、60年代後半~70年代にアメリカで流行したアメトラファッションの代表的なスタイルの1つです。
簡単にいうと、これまでは肩のナチュラルショルダーに胴回りのBOX型と、ゆとり量を多くとった大き目のシルエットが主流でしたが、このアメリカ式のディテールをベースに、新たに英国調のタッチを大胆に取り入れた、いわば『アメリカン×ブリティッシュのミックススタイル』です。
(このブリティッシュ・アメリカンスタイルを流行させた先駆者は、アメトラを象徴する世界的ブランド『ラルフローレン』です)

この「ブリティッシュ・アメリカンスタイル」でしたら、アメリカ式のスポーティでカジュアルな印象と、英国式のフォーマルな印象のどちらも与えることが出来ますので、Sさんのご要望を満たせます。

ただ、先ずアメリカと英国それぞれのディテールを見てみて下さい。

アメリカンスタイル ブリティッシュスタイル
仕様
  • 3つボタン段返り
  • 衿ミシンステッチ
  • フックベント
  • 胸ダーツ無し
  • 肩パット無しorパット極薄
シルエット
  • ナチュラルショルダー
  • ウエストの絞りが無いBOX型
  • 上着、スラックス共にルーズなシルエット
仕様
  • 2つボタン
  • 衿ピックステッチ
  • サイドベンツ
  • 胸ダーツ有り
  • 肩パット厚め
シルエット
  • コンケープドショルダー
  • ウエストの絞りをしっかり入れる
  • 上着は構築的な肩回りにウエストのシェイプが効いたX型シルエット
  • スラックスは、太すぎず細すぎない弱テーパードシルエット

では、これを踏まえたうえで、ブリティッシュ・アメリカンスタイルのディテールをご覧ください。

ブリティッシュ・アメリカンスタイル

仕様

  • 2つボタン
  • 衿ピックステッチ
  • サイドベンツ
  • 胸ダーツ有り
  • 肩パット厚め

シルエット

  • ナチュラルショルダーで肩回りは柔らかい印象
  • ウエストは絞りをしっかり入れる
  • 上着は、ウエストに絞りをいれるためスタイリッシュなシルエット
    スラックスは、太すぎず細すぎない弱テーパードシルエット

皆さんいかがでしょう。
よく見ると、このブリティッシュ・アメリカンスタイルというのは、ほとんど英国式のディテールが採用されているのです
アメリカ式のディテールが入っているのは、薄い肩パットとナチュラルショルダーだけです。
この他、生地も実は英国調のものが多く、ベーシックな無地やクラシカルなグレンチェック、ヘリンボーン柄などがよく使われています。

Sさんの一番最初の希望は「アメリカンスーツ」でしたよね。
これだと、ブリティッシュスタイルのスーツとほとんど変わらなくなってしまいますので、
今回は、ディテールをそのまま踏襲するのではなく、我々でアレンジを加えた『独自のブリティッシュ・アメリカンスタイル』で仕立てましょう、と提案したところ、、、

Sさん: 良いですね!それでいきましょう!!!

これでようやくベースとなる部分が決まりました!

ここまでベースの部分がしっかり決まれば、あとの生地・デザイン・シルエット(採寸)決めはスムーズに進みます!

では、先ず生地は、、、、、と今回はここまでにしておきますか!

敢えて、決まった生地やデザイン、シルエットの紹介をせず、次回のお楽しみとします! 次回の『お客様ありがとう』にて、生地・デザイン・シルエットを出来上がりのスーツと共にご紹介させていただきますので、楽しみにお待ちください!

いやぁ面白いスーツが出来てきそうな予感がプンプンしてきます。 納品が待ち遠しい、、、


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