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スペアパンツならぬスペアベスト!?!?


今年の冬は早くから暖冬だ、と言われていたように、例年に比べるとそれ程冷え込むことは少ないように感じますが、今日(1/24)のように前日より一気に5℃も気温が下がると流石に身体に堪えますね。
50も半ばに差し掛かりますと膝やら腰やらが痛くなって情けない事、この上ありませんが、誰しも老いは来るものですから素直に受け入れて付き合っていくしかないですね。
まだまだ寒さはこれからですが、早く暖かくなるのを願うばかりです。

さて、今回は大阪店のBigCustomerであるSTさんのオーダーをご紹介させて頂くのですが、その前に
当然ご存知頂いているかと思いますが、我々はオーダースーツ屋(テーラー)であります笑
既製品の販売と大きく違うところは、完成品を売るのでは無く、素材(生地)をお客様のニーズに合わせて加工(仕立て)するのが本質です。
例えるならば料理人に近いと言えば分かりやすいのではないでしょうか。
素材(生地)を焼くのか、煮るのか、揚げるのか、お客様のお好みをヒアリングしてそれに合った方法を採ることが多いのですが、全幅の信頼を頂いているお客様からは素材に見合ったデザインの提案を求められることもあります。

前者のお客様が大半ですが、稀に予想だにしない遥かナナメ上を行くニーズ、リクエストをされる方がいらっしゃいます。
これは何年も前にTさんというお客様から頂いたご注文なんですが,,,,,

Tさん: ミナミウラさん、同じ生地、同じデザインで、ジャケット2着、パンツ5本、シャツ10枚って作れますか?
私: は?どういうことですか?なんで?
Tさん: あのねミナミウラさん、人っていうのは1日の生活の中で選択の連続なんです。
その内6割は非生産的なものと言われてるんですよ、今日は何を着て仕事に行くか?というのも私の中ではそれに当たるんです。
だからその非生産的な選択を1つでも減らして生産性の高い選択へシフトさせたいので、対応可能ならば先の内容で作ってほしいんです。
私: な、なるほど(苦笑)確かにそういう考えもアリですし、それを具現化出来るのはオーダーならではですね。

Tさんの意図としては、傍からみれば毎日同じ物を着ていると思われるだろうが、実は同じ物では無く、同じ生地、同じデザインというだけで、人からどう思われるか別として、自身の1日のスタートを効率化したいとのことでした。
生地はどれにしよう?デザインは?裏地とボタンは?といった選ぶ楽しさがオーダーの醍醐味であり、それをしなければオーダーする意味が無いという私の固定観念をものの見事に打ち破ってくれて、その上私の提案力を更に上げてくれたTさんには感謝しかございません。
常にアタマの中には柔軟性を持たせていないとダメですね。

で、今回STさんから頂いたオーダーはと言いますと,,,,

STさん: ミナミウラさん、今回はスーツじゃなくてジャケットとベストを作ろうと思ってるんですが。
私: おぉ~珍しい、これまではスーツonlyだったのにどういう風の吹き回しで?
STさん: いやぁ最近クライアントの打ち合わせでスーツ着て行ったら先方にも部下にも怒られるんですよ笑、なんか自分たちがきちんとしていないように感じるらしいです。
私: じゃあ打ち合わせの時くらいはきちんとスーツ着ようよ、とは言えないんですね?
STさん: 多勢に無勢、ということですわ。
私: なら仕方無いですね、しかしエラい時代になったもんですな
STさん: スーツの方が楽なんですけどね、あんまり考えなくていいし(先のTさんと同じこと言ってる笑)、でもあまりカジュアルなのは好みで無いのである程度キチンと感もありつつ、遊びもある感じの生地でお願いしたいのと、もう1点、ベストを2着作って欲しいんですけどイケますか?
私: は?スペアベストってことですか!?スペアパンツのオーダーは今や当たり前ですけど、スペアベストは初めて言われましたわ。
STさん: 1つはカジュアルっぽく、もう1つはクラシカルな感じで、デザイン、サイズ、ディテールはいつものようにお任せで、生地だけ選びますわ、なにかミナミウラさんのお薦め提案してください。
私: そうですね、これ売れなかったら自分用に作ろうと思ってた生地なんですけど、どうですか?
STさん: 格好良いじゃないですか!じゃあコレで
私: 決めるの、早過ぎません?笑

先のTさんの場合もそうですが、スペアベストって、ホントお客さんって色んなこと考えるよな~、と感心することしきりです。

まぁでも同じ生地で、それぞれ違うデザインでベストを作るって、これもオーダー以外では絶対に有り得ないですもんね、お任せはプレッシャーが掛かりますが、良いプレッシャーというか、こういったオーダーは楽しさの方が勝つので全然嫌いではありません。

ちなみに今回お薦めした生地は昨年末に仕入部隊の長と一緒に本町の羅紗屋さんに秋冬用の追加商材をピックアップに行った際、私が一目ぼれして、長に絶対大阪店に入れてくれ!!!と懇願したイギリスはジョンフォスターのウィンドウペーンです。
ベースのミディアムグレーのピンドットに、チャコールのオーバーペーンが武骨なイメージを醸し出していて、見つけた時の第一声は"格好ええやん♪"
ホントに売れなければ自分用にスリーピースを仕立てるつもりだったのですが、ここはグッと堪えてSTさんにお譲りすることに致しました。

それでは今回STさんより頂いたジャケット&ベスト&スペアベストの私が考えたデザインをご紹介したいと思います。

◇ジャケット

基本デザイン シングル3B段返り マニカ仕様
ラペルデザイン ピークドラペル
裏仕様 大見返し(アンコン仕立)
腰&胸ポケット アウトフタ無&バルカポケット
袖仕様 本切羽重ね4B
裏地

モノトーンカモフラ柄
ボタン

イタリア製ボタン

今回のコンセプトはベストのデザインによって見え方(スタイル)を変えることにありますから、ジャケットのデザインはフォーマルとカジュアルの中間を狙い、裏地とボタンは私のChoiceでちょっと遊んでみました。
ちなみに裏地とボタン、それぞれ2種類づつあるのは、この場でどちらにしたか発表してしまうと、STさんに対するサプライズにならないから笑
仕上がるまでにこの記事を見られてしまったら楽しさ半減ですからね。
どちらを採用したかはおおよそ私の事を良くご存知の方ならお分かりでしょう笑

◇ベスト

基本デザイン

シングル5B
無し
腰ポケット 両玉縁フタ無
背部分 共布 尾錠無し

1着目のベストはカジュアルに、というよりかは汎用性、単品でも着回せる、用にジャケットとのセットではあまり選ぶことはない、背共布仕様を採用してみました。
ジャケットとのコーディネートを考えると裏地の方が滑りが良いのですが、何かしらの私らしさを期待されている以上、敢えてセオリーから外してみました。
後は腰ポケットをポピュラーなウェルトポケット(箱)では無く、両玉縁に
機能的にはハコポケットとは何ら変わりはありませんが、両玉縁の方がシームレス且つシンプルで私好みのデザインなんです。

◇スペアベスト

基本デザイン

ダブルブレステッド6B×3
裾はスクエア
付き ピークドラペル
腰ポケット 両玉縁フタ無し
背部分 裏地 尾錠付き

ベストのダブルブレステッドの場合、裾の仕様は前下がり有りよりかはスクエアカットの方が、衿もジャケットと同じピークドラペルにすることによりフォーマル感が高まります。

以前に私が執筆した【クラシックスタイルを極めよう!】の中でもご紹介しておりますが、クラシカルで且つエレガントなstyleにするのであれば、断然シングルよりダブルブレステッドがお薦めです。
但しこれには身体にジャストフィットした美しいシルエットが必要不可欠であることが大前提ですけどね。

クラシックスタイルを極めよう!

以上、今回STさんから頂いたちょっと風変わりなオーダーをご紹介させて頂きました。
ちなみにご注文頂いたのが昨日(1/24)なんで、この週末は仕様書作成にアタマを悩ませることになりそうです笑


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