2025年9月12日更新
こんにちは。大阪店の西脇です。 9月に入りました。まだ残暑はあるものの、YOSHIMURA&SONSでもAW(秋冬)がスタートし、コンビニにはお芋系のスイーツが出はじめて・・・秋を少しずつ感じますね。 さて、今回のレディースコラムは、僭越ながら、今季のAW新作生地での私のオーダーをご紹介させていただきます。 タイトルの通り、私にとっては挑戦的なシングルスーツをオーダーいたしました。 レディース、メンズ問わず、「理想の1着」を形にしていく上で、やはり試しておきたかった仕様やサイズ感を実験的にたくさん盛り込みましたので、どんな仕上がりになるか怖いのですが・・・、どんな結果になるにしろ、お客様へのご提案のための1つのデータになると思っております。 基本はジャケットもスラックスもメンズパターンを使用しましたが、レディースの仕様を残したところもあります。 今お仕立て中ですので、仕上がりましたらまたこちらでご紹介させていただく予定です。 まだ形になっておりませんので、今回のコラムはわかりづらい点も多いかと思います。 ただ、既成概念にとらわれず、もっと自由に自分のスタイルを表現してもいい、そして女性がメンズの仕様を取り入れるだけでなく、男性もレディースの仕様を取り入れてもいい、そんな自由さがオーダーにはあると少しでも感じていただけましたら幸いです。
Yves St Laurent in 1966
まずはとても簡単に、ジェンダーレスなファッションの歴史を紐解いていきたいと思います。 19世紀は男女の服装差が1番拡大していました。男性はスーツ、女性はドレスといった二分化の時代です。 20世紀の戦後、女性が労働に従事する中でパンツスタイルが浸透していきます。Coco Chanelが女性のパンツスタイルを加速させました。 そして、1960年代、Yves Saint Laurentがデザインしたスモーキングジャケットがジャンダーレスの象徴的なアイコンとなりました。
1970年代は音楽界のDavid Bowieがヘア&メイクも含めて性別の枠を超えたスタイルで魅了するなど、ユニセックスのスタイルが流行します。 2010年以降は特にLGBTQ+ムーブメントの高まりを背景に数々のハイブランドがジェンダーレスなコレクションを発表しています。 現代では、ジェンダーレスなスタイルは、流行のスタイルでも、特殊なスタイルでもありません。 「どういうスタイルで服を着たいか」という当たり前の選択肢の1つとなっています。 それでは、私の今回のオーダーの仕様のポイントをご紹介させていただきます。
今回使用したのは、メンズパターンです。 その中でも一番クラシックなパターンを使用しました。(わかりづらいですが、下写真をご参照ください。今回は1番左のⅠのパターンを使用。)
Ⅰ クラシックなモデル、 ゆとり量が1番多い
Ⅱ Ⅰに比べゆとりが少ないモデル、肩がナチュラル
Ⅲ 最も細身のモデル
そのパターンというのは、メンズのパターンの中でも1番ゆとり量も多く、ウエストなどのシェイプがゆるやかで、身体のラインが出にくいクラシックなモデルです。 肩パットも入り、かっちりした雰囲気です。 もちろん、ここからウエストを絞ったり、肩パットを抜いたり、サイズや各パーツの調整をしていくことが可能ですが、土台となるパターンでシルエットは大きく変わります。
スラックスもメンズパターンを使用しました。 タックはBOX+1本。このタックの仕様もレディースのパターンではできない仕様、そして既製品にもなかなかない仕様なので、試してみたかったものです。
BOX+1のタック(大阪店Shop master河本 のスラックスより)
シルエットはワイドでストレート。 長さは7.5cmのヒールを履くことを前提に設定、裾がフロアにつかないギリギリの長さにしました。
また、今回デザイン面で、レディースのパターンではできない、「クラシコ仕様」という仕様を指定しました。 こちらはより本格的なお仕立てになります。
クラシコ仕様の1つである、お台場仕立ては、表地を多く使い、胸周りがかっちりとした雰囲気になります。 そこで、スーツの中の芯地はレディース芯を使用しました。通常、メンズの芯より、レディース芯の方が柔らかく薄く、軽いものが使用されています。 やわらかさを+するために、中の芯はレディースのものを選んだわけです。 全体的に構築的でありながら、やわらかさも出す、そんなイメージです。
ワイドのスラックスを合わせる場合、バランスをみてジャケットやトップスはコンパクトにまとめることが多いです。ですが、今回はジャケットもビッグシルエットで着丈も長くしました。私が通常着ているスーツの着丈よりも8cm長く設定しています。 私の身長は159cmで、高身長でもなく、脚も長くありません。 今回のジャケットの着丈はかなり挑戦的です。ただ、袖丈はきっちりと合わせました。 身長が高くない人は重心を上にもっていくとスタイルがよく見えるといわれています。 それをあえて、重心を下に下げるようなデザインです。
今回の仕様を、表で簡単にまとまると下記のようになりました。
レディースパターンではできない仕様を盛り込みながら、シルエットもメンズパターン。その上、自分のサイズよりも大きなものを敢えて選ぶ。 反対に、艶のある生地、芯をレディース仕様にし、ゆとりを多くとったシルエットは柔らかさが出る。ゴージライン、釦位置、ポケット位置など、全体的に重心を下げながらも、スラックスの長さ、袖丈は自分の身体(+靴)に合わせる。 こんな感じで、メンズ・レディースの仕様を行き来しながら、理想のスタイルを考え1つ1つ選択していきました。 どこまで体に合わせて、どこまで攻めたサイジングにするのか。 ゆとり量を大きくする方が案外バランスをとるのが難しかったりします。 形のないところから、1つ1つの選択と決断、その組み合わせ、バランスで唯一無二の仕上がりになり、そして実際に着用されてやっと完成形になるオーダー。 とても奥が深く、飽きることがありません。 今回の私のお仕立ては、低身長で男性の骨格と大きく異なる人のジェンダーレススタイルの実験で、今後のお客様の理想の1着を考える上での1つの判断材料となると思っています。 単にシルエット、パターンを変えるのではなく、着る人のご体形や、理想とするスタイルによって、細やかな仕様までもジェンダーレスに選択していくことで、美しいスタイルが実現すると考えます。 毎回、真剣に考え抜きますので、是非、ご要望を色々とお聞かせください。 皆様のご来店を心よりお待ちしております。 今回のコラムも最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。