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オーダースーツのヨシムラ
新着レポート

 この春のSHOPMATERのスーツ(東京編)
前回HP更新をした時には「桜の花が...」と言っていたかと思えば、もうGWのお休みが目前に迫ってきました、今度はツツジですね。
皆さんいかがお過ごしでしょうか?
当店はGW中はカレンダー通りの営業(4/30、5/2のみ営業)になりますが、一年中で一番過ごしやすいこの時期ですので皆様もどうぞ春を満喫してください。

さて、遊ぶことはさておき、今回は私(東京SHOPMASTER)がこの夏用に仕立てたスーツをご紹介したいと思います。
Webでは出来るだけシーズン毎に自分用に仕立てたスーツを皆さんにご覧頂くことで、皆さんにその時々のトレンドをご紹介したり、ちょっと一般の方には勇気が出せなくて躊躇するようなオーダーを自らが実験台になって試していますが、是非こんなスーツもあるんだ...ということでご覧下さい。


1着目 茶色いスーツ

皆さんは茶系のスーツってお持ちですか?
私なぞは昔銀行員だったこともあって、当社に入る前は茶系のスーツなんて論外!!
そんなのを着て行ったら上司から嫌みを言われる!
そんな環境にいたため実はブラウン系のスーツの着こなしがとても苦手でした。
...というより買ってはいけない物だと思っていました。
私がいた10数年前はシャツは白シャツオンリーとか非常に厳しかったですが、最近はそうでもないようです。
ですが、この仕事をするようになり、紺やグレーではあまりに標準的すぎると言うことで自分の中では出来るだけ、普通の人が普段は着れないような物や出来上がりのイメージが想像つかない物を自らが実験台になって仕立てるようになり、以来 茶系のスーツにはまるようになりました。

そこで今回はこんなスーツを作ってみました。。

□ 生地は・・・ □
生地は伊グアベロ社製のモヘヤ12%も入った生地。
モヘヤが入ると独特の光沢感も出ますし、スラブが入りますからかなり変わった印象の生地です。
また全体の色目もかなり黄色みがかったブラウンですので、これはサンプルの生地だけを見るとなかなかこれで仕立てるには勇気が必要です。
スラブ 繊維に入る「」。
風合いを高めるためポリエステル等でわざと作ることもあるが、本来は繊維そのもの本来の特徴による所が大きい。
生地にして見たとき、所々に玉状の凹凸が入る。モヘヤやシルクに多い

□ デザインは・・・ □
生地がそこそこ目立つものだったら・・・当然デザインも!ですよね。
そこで今回はトレンドの2Bスーツにチャレンジしてみました。
ポイントはこんなところです。

ポイント1 衿幅の細いトレンドモデル
>>> もう書き飽きてしまったのですが、衿幅は私に細く7.5cm。(私の体型なら通常は9.0cm)
ゴージの位置も高くして、ハイゴージBにゴージ位置を1cmアップ
簡単に言えば、この夏のトレンド仕様のモデルです。

ポイント2 ミシンステッチ
>>> もともとスラブが入った生地ですのでスーツに仕上がったとき遠目に見ると少しもやもやっとした雰囲気になります。ですからステッチでアクセントを付けることにしました。
5ミリ幅でのミシンステッチを入れてみました。
ちょっとカジュアルさが出て良い感じです。
特にパンツだけ単品で履いても街着としてお洒落できそうです。

ポイント3 肩はノーパッド & マニカカミーチャ?
>>> よく雑誌などでマニカカミーチャとかシャツ袖と称して肩の部分が波打っている仕様がありますが、私もこれにチャレンジしてみました。
...が、しかし我々オーダーではどちらかというとこの肩の部分はこういったシワ(「振らし」ともいう)が入らないものが美しいと信じ込まれていることがあり、この辺上手いというのか失敗というのか難しいところですが残念ながら全く『振らし』にならず、ノーパッドとしてはかえって難しいシワ一つない美しい仕上がりとなってしまいました。

ポイント4 裏の仕立て
>>> スーツの裏仕立ては意外なところでスーツの印象を大きく変えます。
私の場合は普段は丸台場仕上げなのですが、今回はノータイでの着用やカジュアルユースも考えて大見返し(アンコン仕立て)にしてみました。
また裏地を派手にしたいと思ったため、カラシ色の裏地です。
大見返し仕様は使う裏地が少ないですが、それだからこそ玉縁部分などカラシ色がツーンと利いていますね!(寒っ)

ポイント5 パンツはもちろん美脚パンツ
>>> こちらもカジュアルを意識して、スリムな美脚パンツにしました。
ノータックにしようかな...とも思いましたが普段の仕事が座り仕事が多いですし、モヘヤは結構素材が堅いのでこれはNGです。
それぞれ画像を入れて解説しましたが、いかがでしょうか?1着目。
業界人ぽいスーツが出来たのではないでしょうか。
こんな明るめのブラウンのスーツ、なかなかお洒落ですね。


2着目 ビンテージ スーツ

2着目、これは私自身 出来上がりのイメージがなかなか付かなくてデザインを苦しんだ逸品。
何と言っても素材がすごい!ビンテージクロスです。
ビンテージクロスというと、マニアの間では結構人気がありますが、一般には少なくとも10年以上昔に織られた生地のことを言います。

こういった生地は実は色々な面で当たりはずれがあり、あまり対外的に万人向けにご紹介はできないのですがスーツ好きの方なら一度は興味を持つ物ですのでちょっとご紹介します。

今回使用したビンテージクロス
当社の倉庫の奥底には約20年位販売に供していない生地が数100点保管されていますが、その中から今回は英スキャバル社のシルク50%入りの生地を選びました。

シルク50%というと正直現在流通している中ではまず見つかりません。(あるいはかなり高価です。)
前述の1着目同様、シルクもスラブ(節)が入りやすいので、それが爺臭いと思わるため、またウールと比べると若干素材がデリケートな為、今ではなかなか流行らないのです。
シルクに人気があったのはかれこれ20年ほど前でしょうか、以来ほとんど話題にされていません。

でもトレンドは10年20年というロングタームで繰り返されますし、この春夏は当社も次のトレンドとしてシルクをプッシュしていますので、自分はそれの更に上を行くビンテージシルクでチャレンジしてみました。
:シルクの特性
シルクは光沢感や独特の張り、触感があるのが特徴ですが、反面、虫が付きやすい、汗で変色、蛍光灯・日光で日焼けする等の問題もあります。
お酒の瓶が茶色なのと同様で生地も長期保管のためには光量・湿度・温度の管理がある程度必要です。

そして、どんな生地かというと...

□ 生地は・・・ □
生地は英を代表する服地マーチャントのスキャバル社の逸品。
シルクらしさが生かされる明るめな色を選びました。ベースの色合いは鮮やかなブルー。
その上にオレンジ・グリーン・ブルーの細かいストライプが這わせてあり『いかにもビンテージクロス』という感じ。
こういった生地は、光線の加減で生地の表情が玉虫のように変わるため難しいのですが、フラッシュをたいて写真を撮ると、ほらっ、こんなに派手。
でも、下の画像のように室内で普通に撮ると結構お地味。
とても画像ではこの質感表現しきれません。

□ デザインは・・・ □
そして、こちらのデザインは基本路線はグアベロ同様ナローな2Bスーツとして、その上で、次の点をポイントとして意識しました。

ポイント1 お父さんのお下がりと思われないように・・・
>>> 普段使いのスーツならあまり深く考える必要はありませんが、ここ一番のスーツというのはキチンと目的を持ってデザインを決めなくてはいけません。
私の場合、今回はビンテージクロスが相手でしたから一番に考えたことは『お父さんのお下がりと思われないこと』
これって結構重要です。
特に、ビンテージクロスのような地味に見られがちな素材を使う際にはデザインを斬新にしたり今風にしないとスーツそのものがビンテージ物(つまり古い物)になってしまいます。
Something Special、Something Newを取り入れる、取り入れなくてはおかしくなるという意識がデザイン上大切です。

ポイント2 基本デザインはナロー2Bスーツ
>>> この辺は1着目同様ですが、前述の通りトレンド最先端のデザインにしました。
詳細はグアベロと重複しますので省略し、以下ではグアベロより更に上を行く部分だけ紹介します。

ポイント3 アクセントいろいろ
>>> 今回は普段使いのスーツではありませんので、かなり遊んでみよう!と思いこんなアイテムを付けました。

腰ポケットの玉縁や衿裏にスエード
・・・内ポケットの玉縁などはクラシコ仕様等でスエードを使うことがあるのですが、今回は腰ポケットや衿裏までも意味もなくスエードを使いました。
実はこの辺はこの夏E.Zegnaの製品で似たようなディテールをしているものがありそこからヒントをもらいました。(ゼニアでは黒のリネンジャケットで表革を使用していました。)

全体をいつも以上にタイト
・・・良くスーツにシワが出ることを嫌がる方がいらっしゃいますが、これには誤解もあってスーツには良い皺と悪い皺があります。
特に上着のお腹周りの皺は窮屈なら悪い皺ですが、適度な絞りから生まれる皺は美しさがあります
今回は素材がシルクですからドレープが綺麗に出ますので、わざとかなりタイトに絞りを入れました。
もともと今回のスーツは遊び用と割り切っていますから実用性は二の次です。

ボトムはノータック
・・・ 上着がタイトならボトムも!ということで今回はノータックにチャレンジです。
50を過ぎた大阪SHOPMASTER清水氏ですらノータックなんだから、俺も負けないゾ、っと。
でもちょっと股上が深かったかな?

もちろん美脚系
・・・ 全体を細くしている以上、ボトムの全体は美脚系。
今回は特に裾口を狭くしていますので、裾がもたつかないよう少しいつもより股下を短めにしました。

□ 出来上がりは・・・? □
さて、色々と書きましたが出来上がりはどうだったでしょうか?
画像で一見すると、室内で撮影した物は普通にも見えますが、屋外で撮ったものはキラキラしていますよね。
特に日差しの強い日中や、逆に薄暗い中で局部的に光線があった時など、胸の絞りから生まれる横皺と袖等で自然発生的に生まれる皺が、美しいドレープとなりとても素敵です。(自分で言うのもなんですが...)

う〜ん、なかなか一般受けはしなさそうですが、私としてはとっておきの遊び着が仕上がりました。

スーツは最先端のトレンド生地を使ってビジネス仕様に仕立てるのも素敵らしいですが、こんなビンテージ物での遊び着を作ることもまた楽しみの一つです。
皆さんもビジネスばかりを考えず、頭を柔軟に色んな事をアレンジしてみてはいかがでしょうか?



■□■ おまけの話 ■□■
今回は自分用に仕立てたスーツ2着をご紹介しましたが、2着ともトレンドとして衿幅の細い2Bスーツにしています。
でも、2着仕立てたところで『このスーツに合わせるネクタイはどうする?』と少々悩み、季節も変わったことだし!ということで思わずネクタイを3本購入しました。
そこでSHOPMASTERからトレンドの「ナローな2Bスーツ」をお持ちの方に少しだけアドバイス。

ネクタイを買うときはスーツに合わせてネクタイも細身にしましょう!
私の場合は業界人とはいってもやりすぎるのはあまり趣味ではないので9.0センチのちょい細の物にしました。
そしてここからは少々自慢話ですが、画像のネクタイご覧いただいて...ちょっと変わっていません?
左側のグリーンの物は普通のものですが、中央と右のネクタイはよく見ると小剣(通常ネクタイの裏側に来る先が小さい部分)がない!?
そうなんです。このネクタイ両方大剣でリバーシブルで使えるんです。
ネクタイ3本購入して、5本分使える!! しかもトレンドのちょい細。
なかなか良い物を買ったでしょう
で、気になるお値段はというと...
ネクタイの色
メーカー お値段
グリーン (左) 伊BRIONI製 27,000円位
ベージュのストライプ(中) 伊ゼニア社製 25,000円
ネイビーのレジメント(右) 伊ゼニア社製 25,000円
え゛!! 全然お買い得じゃないじゃない!?!
は〜っ、今回はスーツ2着に、高額ネクタイと、私にとってはとんだ散財日誌となりました。(笑)

■□■ おまけの話 2 ■□■
2着目のスーツを戸外で撮影したときのこと...(ちなみに場所は大阪店にほど近いうつぼ公園にて)
さすがシルクのスーツで大いに目立ち、色んな人が私に注目していたのですが...
その時、「雅隆(まさたか)君!!」私に声を掛ける女性が一人・・・
 『しまった!昔の女か?!
撮影部隊として大阪店一野君を後ろに控えていただけに、その瞬間私は焦りました。
が、顔をよく見てみると親戚(従兄弟)の女性。なんと10年ぶりの再会です。

聞けば「綺麗な色のスーツを着ている人だな〜」と思って私のことを見たそうです。
親戚とはいえ、スーツが取りなす縁ってあるんですね〜。
私には、このスーツ御利益スーツとなりました!