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生地は嘘をつかない |
ようやく少しずつ春めいてきましたが皆さんお元気でしょうか? 早春の梅や沈丁花の花が散るとそろそろ桜の開花が待ち遠しくなりますね。 そんな季節の変わり目は街中がコンクリート一辺倒の灰色の世界から草花の発芽や開花に代表されるように緑、赤、ピンクなどの色目が目に付くようになりファッション的にも着る色目が変わってきます。 皆さんもそろそろ春の色を意識されてみてはいかがでしょうか? さて そんな季節変わりの今月の新着情報はいつもとはちょっと違った切り口からスーツ(生地)について研究してみたいと思います。 なにを? しかも研究??? 、、、と思われるかもしれませんが、今回はお客様のHさんからの情報提供によりスーツの着心地いや値段に直撃する生地のクオリティーについて考えてみたいと思います。 そこで、まず皆さんにQUESTION 次の中で品質的に優劣を付けるとするとどんな順番を付けますか? |
1.伊:ゼニアトロフェオ(Super120's〜130's相当)
2.英:ダンヒル(Super100'S) 3.伊:REDA(Super100'S) 4.日:葛利毛織(Super100'S相当) |
当店でオーダーされる方はきっと1>2>4>3ぐらいの順位付けをされるのではないかと思います。 では続いて、もう一つQUESTION 皆さんの順位付の基準は何ですか? |
1.糸の番手?
2.SUPER○○'Sの表示? 3.メーカーブランド(知名度) 4.着心地?(除く仕立ての程度) |
あれっ?こう見てみるとスーツや生地の値段ってよく分からなくなりませんか? 今、巷のファッション誌ではやれ「SUPER○○'Sだから良い」とか「イタリアのメーカー▲▲だから」と囃し立てますが、実はスーツ(生地)の評価基準は色んな価値基準があります。 今回はこんなところを少しアカデミックにご紹介したいと思います。 |
■ 糸の番手とSUPER表示の違いについて ■
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ファッション誌を見る限りSUPER○○'Sという表記ばかりですので消費者の皆さんはSUPER表示があたかも生地の絶対的な品質基準と誤解されている方が結構いらっしゃいます。 でも、業界的には豪の羊毛相場など生地(糸)の価格は糸番手で決まります。 では、糸番手とSUPER表示はそれぞれ何を指すのでしょうか? それぞれ次のことを示します。 SUPER表示 >>> これは原毛1本の絶対的な太さを言います。 つまり原毛の繊維ベースで見た細さですね。 例えばゼニアの15ミルミル15などは1本の原毛が15ミクロン(Super170's相当)の細さという意です。 糸番手表示 >>> 一方、糸番手表示は原毛を束ねて糸にした時の糸の太さを言います。 これが細ければ当然しなやかできめ細かい質感の生地になりますから一般には高級な生地となります。 でもこれは逆に言うと、SUPER表示で細い原毛でもそれを撚って太い糸にすれば糸番手は太くなりますから、例えば今年当店で周年記念反としてして作った3プライポーラ織の生地などは糸番手は大変低い物になります。 ・・・とまぁ、こんな所までは通常NET検索で時間を掛ければ出てくるところでしょう。 それだけで終わらないのが当店の不思議なところ。 今回はHさんのご協力のもと、この証拠写真を撮ってみました。 (、、、と言いましても私が撮影したのではなくHさんが画像提供して下さった物です。) まずは画像をご覧下さい。 |
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ご覧頂くと一本の糸が複数の原毛を撚って出来ているのがよく分かると思います。 この中で、原毛1本ベースで見た場合がSUPER表示の太さ、糸全体で見た場合の太さが糸番手の見方なのです。 ね!、これなら意味が分かりやすいでしょう。 ちなみにこの画像は伊ゼニアのフラッグシップ トロフェオの生地です。 業界の我々が見ても『さすが...』と唸ってしまうぐらい細く緊密に織り込まれた組織です。 |
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■ 打ち込みの甘さ ■
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生地は縦糸横糸を交互に編むことで生地なりますが、打ち込みとはその織り込みの密度のことを言います。 簡単に言えば、打ち込み(織り込み)が弱ければその分、クタクタっとした感じになり一見すると柔らかい触感になります。 でも、一方では耐久性はグンと落ちてしまうことにも繋がります。 消費者の皆さんはあまりご存じないことですが、ここ10年来メーカーはコスト削減の大号令の元、見かけ上、品質をを下げずにコストカットするため、打ち込みを甘くして(=触感を柔らかくして)さも高級素材です!とセールスしているメーカーが多いのです。 (少なくともメーカーは打ち込みの甘さの弱点を自己申告しません。) では、これをミクロの世界から証明してみましょう。。。 画像は左が日本を代表するメーカーの一つ葛利毛織の物。 右が再掲ですが伊某社製の物。 |
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織り込みが甘いと言うことは、縦糸横糸の間に隙間があると言うことです。 この事を意識しながら画像を見ると、、、 どうでしょうか? 縦横それぞれの糸の間の隙間(黒くなっている影の部分)が左の方が少なく、右の方が多いのがお分かりになりませんか? この隙間こそが打ち込みの甘さなのです。 古いテーラーさんに聞くと良く国産は打ち込みがしっかりしていてカチッとしている。 イタリア製の物は打ち込みが甘いからダメだよね... なんて言葉を耳にしますが、これはこういった所に表れているんですね... まだ、こんな事もあります。 |
■ SUPER○○'Sは全てSUPER○○'Sという訳でありません。 ■
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今回は比較した画像がゼニアのトロフェオとかダンヒルなどですから超高級素材と比べるとどうしても見劣りしますが、それでも葛利毛織あたりと比較してもこれらの原毛は少々太い。 そうです。 SUPER○○'Sと表記されていると原毛の全てがSUPER○○'Sと考えるのは非常に楽天的で、それ以外のもっと太い糸が入っていても表記上は問題ないのです。 一方で先述のトロフェオなどはこういった物がなく全ての均整が取れています。 どうやらこの辺も着心地や価格に大きく影響しているようです。 つまりゼニアなどは『だてにブランド品ではない』ということです。 ではでは、更に続けて、今度はミクロの世界ならではの凄いことをご紹介。 |
■ こんなこだわりも・・・ ■
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そう考えると思い当たる節がありませんか? 『この生地は深みのある色をしている』とか『国産にはない何とも言えない色気のある色目だよね』とか。 我々人間の目で見て微妙な色合いの違いというのはこういったミクロの世界で成り立っているのかも知れません。 いかがでしたでしょうか? とりとめのない話題となりましたが、私達がこれまであまり気にしないで通り過ぎていたこともクローズアップしてみると奥が深いですね。 この原稿を書いていてふと思い出した言葉があります。 それは三久服装の吉井工場長がよく言われる言葉ですが、 『人間はいくらでも嘘をつくけれど、生地は嘘をつきませんよ』という言葉。 これもまた何とも奥の深い言葉ですね。 メーカーにお勤めの皆さんはきっと共感できることがあるのではないでしょうか。 |