|
|
素材研究(Zegna MICRONSPHERE) |
突然ですが、この画像をご覧になって皆さんなんだとお思いでしょうか? | |
何コレ?“みみず”みたい? ・・・そんな声が聞こえてきそうですが、この画像の正体は。。。 |
|
ウール原毛の拡大写真2500倍です。
|
|
画像の丸いところは たまたま撮影できたウールの切れっ端のようです。 実は、この画像お仕事で電子顕微鏡を使われるHさんにお願いして撮影して貰った伊ゼニア(ミクロンスフィアー サンプル帳P.1に掲載G9000)の原毛写真なのです。 ウールの原毛をよく見てみるとこんな風に出来ているんですね... 出だしから読者の皆さんを少し驚かしてまいましたね。失礼しました。 それでは本題に入ろうと思います。 読者の皆さんの中にはブランド品の生地がどうして高価なのか?あるいはブランドが本当に質を伴っているのか?など科学的根拠を探されたい方もいらっしゃるかと思います。 そうですよね。。。当店の商品の価格帯でも最廉価な商品は1着37,000円ですが一番高いゼニアのトロフェオなら88,000円ですからその差2倍以上ですからね、、、こう思われるのも無理のない話です。 私も昔からこういったことに興味があり、これまでも自社で特別に企画した商品SUPER160'Sが本当に細番手原毛を使っているのかHさんのご協力の下、調べて貰ったことがありました。 ちなみにその時の画像がこちら |
|
この時は、自社の周年記念企画ということもあり大変な反響だったのですが、今年は別のことでまたHさんに調べて貰いたいこと(写真を撮ってもらいたいこと)が出来たのです。
それは・・・ 昨年から力を入れて採り上げ始めたゼニアのミクロンスフィアーが一体どれ位高品質なのか? ということ。 読者の皆さんには伊ゼニアのそれぞれのグレードがどんな特徴・品質なのかご存知の方も多いと思いますが、簡単にご紹介しますと(一般論として)次のように評価されています。 |
||||||||||
|
※:ゼニアには他にもHigh Performance、Heritage、casicoなど他グレードもありますが、主として当店で使用するグレードだけ説明しました。
上の表では番号付けがなされておりますが、その番号は各グレードの一般的な評価とお考え下さい。(ただし3〜6は目的が違うため順位付けは無意味かと思います。) そして本題のミクロンスフィアーなのですが、実は当店のミクロンスフィアーは伊ゼニア社に特注で加工を施して貰った当社オリジナルの物です。(下地はゼニア社が持っている既存の物ですが、、、) それ故、素材の品質については自社にも責任があり、どうしても2つのことを知りたかったのです。 それは・・・ |
|
1つは、原毛がどれ位の細さなのか?ということ。 そしてもう一つが、ミクロンスフィアーの加工を目で見て確かめられないか? |
|
・・・ということです。
|
そこで、電子顕微鏡を仕事で使っているHさんにご協力を頂いた次第なのです。
(Hさん、仕事の合間に、撮影等々ありがとうございました♪) |
|
□ 電子顕微鏡について・・・ □ | |
それでは簡単にこれから掲載する画像や電子顕微鏡についてご説明しましょう。
(私はこの点ではプロでないのでHさんからの受け売りです。誤解・誤認識は御容赦下さい。) まず、撮影したのは倍率で100倍、200倍、800倍、(2500倍)。 100倍は普通の顕微鏡で撮影できるレベルですから200倍以降が電子顕微鏡です。 で、電子顕微鏡のことを少し補足説明しますと、電子顕微鏡は電子を飛ばし対象物に電子をぶつけ、その反射から画像を作っていくのだそうで、普通に撮影すると飛ばした電子によって組織が破壊されるため、見ている内に対象物の組織が崩れるそうです。 このため、プラチナや金などを対象物に塗布することで安定させて撮影いたします。(プラチナでそうすることをPtスパッタリングと言うそうです。) 私や読者の皆さんのため僅かとはいえ貴重なプラチナを使うなんて、、、恐縮です。 さて、 それでは拡大画像を見ていきましょう。 右がトロフェオ、左がミクロンスフィアーです。 |
■ 100倍画像 ■ | |
100倍画像を見てみると、、、なんかインスタントラーメンの麺のようです。 原毛一本一本が束になってそれが織り上げられている様子が分かりますね。 この原毛の束になった状態が一本の糸とお考え下さい。 比較してご覧いただきいかがでしょうか? 正直ミクロンスフィアーもトロフェオも大差ないように見えますね... |
■ 200倍画像 ■ | |
200倍画像はどうでしょうか? こんどは画像の半分が1本の糸ぐらいの大きさです。 一本の糸が表面に見えている部分だけでも25本位の原毛(内側に入っている原毛もあるため実際には100本以上か?)から出来ているのが分かります。 また、この倍率になると見えてくるのが原毛1本1本に鱗(ウロコ)状のガサガサ(スケールと言います)が付いているのがお分かりになるかと思います。 これは人間の髪で言うとキューティクル。 これがあるからこそ原毛が上手く絡みつき糸になり、それが生地になるんです。 そして両者を比較したとき、この段階で見ても大きな差はありませんが、よく見てみるとトロフェオの方が若干原毛の太さがやや均等ののような気がします。 この辺がトロフェオのトロフェオたる所以なのかも知れませんね。 ちなみに画像の右下に□が小さくありますが、この1つ1つの間隔が20ミクロンです。 両者とも原毛は20ミクロン以下であることが分かりますね。 |
■ 800倍画像 ■ | |
いよいよ800倍です。 800倍になると電子顕微鏡の真骨頂。先程説明したスケールがハッキリ見えます。 そしてコレぐらいになるとトロフェオとミクロンスフィアーの違いがハッキリ見えてきます。 ご覧いただいていかがでしょうか? 原毛の太さで言うとやはりここでもミクロンスフィアー、トロフェオとも大きな差はなく、右下の目盛り(□1つで5ミクロン)を見るミクロンスフィアもトロフェオも1本が3目盛半位ですから17.5ミクロンぐらい? トロフェオは納得ですが、このミクロンスフィアーも高品質な原毛を使用していますね。 (ミクロンスフィアーの全てがこの原毛とは限りません。この元となった生地(下地)その物の原毛が今回細かったと言うことです。) そして、両者の比較という点では画像から一つ気になることが。。。 それは。。。 トロフェオの方がスケール(鱗状の物)が多いのが気になりませんか? トロフェオを擁護する訳ではありませんがスケールがこうなっているのは私も他の素材で見たことがあります。 ですから、ミクロンスフィアーがこのスケールをうまく処理してくっつかないようにしているのです。 どうやら、ミクロンスフィアーのヒミツはこの辺にありそうですね。。。 そうか!!! ウールにはもともと油分がありそれ自体は水を弾きます。 それが水を通すのは、原毛の表面にスケールという形でヒビが入っているからそこに水が入ることで浸みるのではないでしょうか? ここから先は私は化学者ではないので推測となりますが、私はこんな風に考えましたが、読者の皆さんはどうお考えでしょうか? |
□ 化学物質検査 □
|
|
冒頭ではご説明しませんでしたが、ミクロンスフィアーはナノテク加工で何か薬剤を塗布することで撥水性を持たせている、、、と私は仮定していたため、実はHさんは気を遣って下さって別の検査をしてくださいました。
それは化学物質の混入検査。 |
■ 一定の結論 ■
|
|
さて 色々と画像や研究結果を披露しましたがここまでいたしましたので何か一定の結果をまとめなくてはいけません。 今回の分析から分かることは次の2つではないでしょうか。 1:トロフェオもミクロンスフィアーも原毛は17.5ミクロンぐらい 2:ミクロンスフィアーはスケールが表面に貼り付けることで撥水性を持たせている。 原毛の細さや素材特性というのは、言葉だけではなかなか良く分かりませんが、こうして目に見える形で表現できると面白い物ですね。 今回はHさんのお力を借りて、私も良い勉強ができました。 ありがとうございました。 |
〜 最後に 〜 | |
冒頭に掲載したこの画像、これがミクロンスフィアーの2500倍画像です。
なんかミミズの頭のようで気持ちが悪いですね... Hさんによれば、電子顕微鏡ではもっともっと倍率を上げることは可能だそうですが、ここから先は原毛内部の組織が見えてしまうから、無駄でしょう。とのことでした。 また蛇足ですが、この画像では右の原毛の真ん中ぐらいに白く小さい四角形の物が映っていますが、これこそが電子を与えることで組織が破壊されている証拠なのだそうです。 (この画像はプラチナ処理をしていないため) 普段我々が全く触れない世界にも色んな奥深さがあることを改めて知らされた今回の調査でした。 |