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ゴージの高〜いベルベットジャケット
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ここ数年 毎年冬の訪れと共にご注文が増えるのがコーデュロイやベルベットなどジャケットのご注文。 暖冬の時にはそれほど暑く感じず、カジュアルにもフォーマルにも素材感の違いが生きるこの種の素材は女性のみならず男性にも近年大人気アイテムです。 |
それがトレンドのデザインだったら・・・
もう...それはオーダーするしかない?...ですね。 |
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さて、今回ご注文のFさんはそんなお考えをもって当社にお越しになられましたが次の2点がご注文をお受けした私にはとても大きなプレッシャーでした。(詳細は前編いらっしゃ〜いをご覧下さい。) 1. これまで仕立てたことのない高〜いゴージ位置 >>> Fさんはご注文時に画像の様な高〜いゴージライン(※)の物が欲しいとのご要望でした。 またこのゴージの高さは単なる努力目標としての希望ではなく、他店ではこの高〜いゴージが出来ないからこそFさんは当店まで足を運ばれたのです。 (もちろん当社にもなく型紙から起こしました。) また、ご注文時点ではFさんに過度なご期待を持たせるのは良くないと考え「出来る限りイメージに近づけるよう頑張ります」とお約束まではいたしませんでしたが、ご注文を受けた者の受け止め方としてはこのゴージがお客様への絶対条件でした。 |
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※:
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ゴージとはスーツの襟の上襟と下襟の境目のライン。 ここ1〜2年このラインの角度が肩線に近い位の角度が人気で、更に最近はその位置が高くなっています。 画像は古いページからの転載のため、最新トレンドのハイゴージ程は高くありません。 |
2. 自称クレーマー >>> 期せずしてご注文時に伺ったことですがFさんは自称クレーマーとのこと。 お話しすると、当たり前のことを当たり前にしていれば(キチンとしたサービスを提供してさえいれば)むしろお店に好意的な方なのですが、やはり自称クレーマーと言われると・・・ さすがにビビってしまいますね。(^_^;) かくいう私はお褒めの言葉を頂いたのですが、やはり小心者故 少なからずプレッシャーを感じていました。 さてさて、 そんなFさんのベルベットジャケットどんな風に仕上がったでしょうか? まずはこちらをご覧下さい。 (右画像が今回仕上がった物でポイントとなる襟の部分は白く加筆しました。左はご注文時に頂いた参考画像です。) 早速、検品のためモデルに着用してもらい確認してみました。 (通常はボディー等に着せて確認しますが今回は立体的なところがポイントでしたのでやむなく人に着せての確認作業です。) |
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皆さん、これまでに掲載した画像と比べいかがでしょうか? 私はこれが仕上がった時、正直愕然としました。 |
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これじゃ、Fさん納得しない
(....というか自分も納得できない)××× |
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確かにゴージもそこそこ高いのですがFさんからのご依頼にはほど遠い。 時間も手間も掛けましたが、明らかに失敗作です。 さて、どうしたものか・・・? とりあえずFさんに仕上がった旨の連絡をしてまずは実物を見てもらうか・・・? ...とも思いましたが、ご注文時のやりとりを自分がしていただけにFさんが納得されないであろう事は火を見るより明らかでしたので、ここはお叱りを受けるのを覚悟で次のようなメールをいたしました。 |
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★☆★ SHOPMASTERから一言・・・ ★☆★ | |
あ〜っ、自分から作り直しを進言しなくてはいけないなんて... 作り直しをお客様から要求されるのでなく自分から口にするなんて... SHOPMASTERとして情けない××× でも まぁ、全てが上手くいくことはありえないし、納得できないものは納得できないのだから仕方ないな・・・ ただ、時間が掛かることをFさんが了承して下さるかが問題だ・・・ そんなネガティブな気持ちになってメールをお出しすると、凄い早さでFさんから返信がやってきました。 |
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★☆★ SHOPMASTERから一言・・・ ★☆★ | |
メールを読んだ私の素直な感想は >>> Fさん、怒ってる〜(..かも知れない) これで私は背水の陣に身を置くことになりました。 そしてここからが大変です。 工場に「どうしてこうなってしまったのか?」ヒアリングをしなければならないし、一方ではFさんのデザインはその後別のお客様からも同デザインのご要望があり、そちらの仕立ての一部中断をしたり...大変でした。 でも、工場も自分たちの仕立てた物と画像とを再度照らし合わせるとその違和感に気付いたらしく作り直しを了承しました。 >>> そして待つこと更に2週間、ようやく完成です。 出来上がりは・・・というとこんな仕上がり具合。 画像は輪郭がはっきり分かるよう敢えてフラッシュをたいたため生地の風合いが画像からは分かりにくいですがご容赦下さい。 右側の画像はFさんが襟を立てても着用したいとのことでしたので襟を立てて撮影した物です。 |
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そして出来上がりを画像付きでご案内すると早速お返事が・・・ | |||
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★☆★ SHOPMASTERから一言・・・ ★☆★ | |
ふ〜っ、画像をご覧頂いた中では取りあえずOKか〜。 でも画像って下から撮れば必要以上にゴージを高く見せることも可能だし、とにかくフィッティングが全てだな〜。 明日ご来店されるのか〜。頑張るぞ〜。 |
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そして翌12/10にFさんがお越しになられました。 ご試着いただくと...再度パーフェクト!とのお言葉。 それを聞いた私は『は〜っ』(緊張が解け少々へろへろに...) ...で、本題のフィッティングは...というとお顔全体は出さないようにしていますがFさんの頬をご覧下さい。 一瞬の頬が緩んだこのお顔にこのジャケットの全てが表れていると思いません?良い笑顔ですね。 |
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そしてFさんからはその後簡単ではありますがこんなご感想メールも頂きました。 Fさんご感想有り難うございます。 |
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■□■ SHOPMATERより補足 ■□■ | |
前編でも少しご案内しましたが、Fさんからはご自身があるお店で嫌な思いをした事についてご注文時に色々とお話を伺いました。(それが自称クレーマーにつながっているのですが...) そのお話はとても私には有意義でとても勉強になりましたが、Fさんはその中で顧客サービスについてこの本を読んでみると良いよ・・・ということになりご来店時には控えがなく私に伝えられなかった本の名前をご丁寧にメールに書き添えていただきました。 この本は早速、年末年始のお休みを利用して読んでみたいと思います。(本だけは早速買いました!) Fさん、どうもありがとうございました。 |
今回のベルベットジャケットのお話はこれでお終いです。 皆さんどう思われましたか? 『こだわるうるさい客だな〜』? 『吉村もちょんぼするんだな〜』? 『こんなこだわるジャケットに手間暇掛けるならベースの価格を下げろ〜』 etc...批判的なご意見もあるかと思います。 でも、Fさんのようなお客様は本当は本稿をご覧になっている皆さんにこそ有益な存在だと私は常々思っています。 それはこういうことです。 今回のケースのような最先端のトレンドにマッチしたデザインスーツを作る時は概して私どもオーダー業界はトレンドに対して遅れて反応します。 そしてトレンドの最先端デザインというのはこれまでにないものだからこそ注目される訳で、既存の型紙転用では出来ないケースが殆どです。 このため皆さんが普通にオーダー店で「こんなジャケット出来ませんか?」と依頼すれば大抵の店では面倒なのですぐ『出来ませ〜ん』と答えるでしょう。 そこをFさんはあちこち探し回った上で当店にたどり着いた。 ご自分の考えをぶちまけ、資料を用意して努力して伝え、私を理解させ、こうして仕上がった。 これはFさんだけの財産でしょうか? いえ、違います。 これはFさんの財産・当社の財産であるのはもちろんですが、皆さんの財産です。 なぜなら、当社のようなイージーオーダーは一定の型紙が出来てしまえば後の量産は比較的安価で、しかも容易に出来るからです。 つまり次にこのジャケットを仕立てるのは読者であるあなたかも知れないのです。 こうしてオーダーはお客様と共に成長し、顔も知らないどこか別のお客様のこだわり実績が皆さんご自身の1着へ反映されていくのです。。。 どう?オーダーっておもしろいでしょ。 |