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本格フロックコート仕上がりました。
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梅雨も深まった6月下旬。
スッキリしない天気が続きますが皆さんお元気でしょうか? 今の時期は洗濯物も乾きにくく、お洒落して外出しても楽しくない時期ですから、早くカラッとした夏の陽気が欲しいところですね。 さて、こんなお洒落には辛い時期ではありますが傍らで6月はジューンブライドの言葉の通りフォーマルが活気づく月でもありますので、今回は先月ご紹介したCさんのフロックコートの仕上がりをご紹介したいと思います。 まずは簡単にCさんのご要望からご紹介しますと・・・ (詳細はこちら0905お客さまいらっしゃ〜いをご覧下さい。) ○ Cさんは以前からご愛用のフロックコート(10年以上前のハンドメイド製)があり ○ それが傷んできたので今回はそれを再現(ちなみに以前のお店は廃業されたとのこと ○ その際には本物のフロックコートを希望 ちなみに、、、フロックコートとは・・・ ・ 明治大正期政治家などが着ていた純フォーマルの洋装(昼間の正装)で ・ コートとは言っても実は着丈の長い上着で ・ 腰には燕尾服のような切り返しやダーツが入った ・ 技術的にハンドメイドでないと仕立てられないもの... です。 さてさて そんな普段は滅多に目にしない本格フロックコートですが、それではCさんの仮縫いからご紹介しましょう。 |
■ 仮縫いシーンより・・・ ■ | |
まずは前面の画像。
どうでしょうか?見本のフロックコート画像からこの仮縫状態を想像できますでしょうか? 仮縫いではキリビといって生地の地の目やダーツ処理の位置になどに白や黄色のしつけ糸でマークを付けたり、しつけ糸で仮どめすることで、生地が歪んでいないか?の確認やお客様に出来上がりのイメージが付けられやすいようにしています。 例えば、この画像では腰の所に水平にしつけが入っていますが、これは腰の切り返し位置を示しています。 |
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次は、背中側の仮縫いを。 今度は背中側の仮縫いです。 こちらも腰の辺りで水平にしつけが打ってあるのは切り返し位置を表しています。 一方で背中(肩胛骨近辺)に丸い半円状のしつけ糸は背中のダーツを表しています。 スーツは肩で重量を支えるもの。 一方で、人間の肩は左右で必ず高さが違いますから、その差が必ず裾に影響が出ます。 Cさんの場合も分かりにくいですが、右肩がやや左より下がっているため、背中心の線が裾で左に逃げています。 こういったところを仮縫いでは背中心の線が真っ直ぐ下に落ちるよう調整するのです。 |
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ちょっと意識したのがヒップ周り 画像をご覧下さい。 Cさんに限らず、人の身体はバストとヒップが出ていてウエストが細いですよね。 そうすると、スタイリッシュに見せるためには、ウエストを絞るか、ヒップを出すかしなくてはいけません。 通常のスーツでしたら太いヒップやバストに合わせて筒状に作り、それをダーツなどでウエストを絞っていくのですが、、、 フロックコートの場合は、実はヒップの張りを出すような仕立てをしていきます。 実はそれがこの部分なのですが、、、 仮縫い段階にも関わらず、ヒップのふくらみを表現しながら、ウエストがしっかり絞られているのがお分かり頂けますでしょうか? ここは出来上がりの時の大きなポイントになりますから是非覚えておいてください。 ....とこんな感じで、仮縫いは終わり...次は出来上がりです。(お客様ありがとうですからね、出来上がり中心に進めなくては...) |
■ 出来上がりは・・・ ■ | |||
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それをこうして切り返しを入れ、ヒップ周りの作りを画像(指の部分)のようにしてふくらみを出していくのです。 更には、昔はこの腰の部分にパッドを入れたり、手袋用のポケットを内側に作ったりして更にヒップラインを強調するような事もしたんですよ。 昔の人達の考えることは凄いというか、昔の方がファッション感覚が鋭かったような気がしますね。 今回はパッドは入れませんでしたがそれでもかなりグラマラスな仕上がりになりました。 いかがでしょうか?本格フロックコート。 これだけ格調高い物は、クールビズ等ドレスダウンが著しい今の時代なかなか着る機会はありませんが、それでも結婚式等ここぞという時には是非試してみたいものです。 昨今では、結婚式のフロックコートもレンタルや式後着丈調整をして普段使いスーツにしてしまうことが殆どですが、こういった良い物は、七五三の着物のように大切に保管して、いつの日か親から子供に譲れるようにしたいものです。 私共のお店も工場もその時改めてサイズ直しのご相談を受けられるようなお店であり続けたいと思います。(それまでお店や工場を維持できるよう頑張らなくちゃ!) |
■ 編集後記 ■ 〜 貴重なご意見を頂きました 〜 | |
実は、この原稿を書く前、(前編:お客様いらっしゃいをUPした段階で)あるお客様から本来のフロックコートと市中に出回っているそれとを比較して「本物とか偽物とか言うのは失礼ではないか!」というお叱りを頂きました。
良い物を評価するのは良い事としても、そうでない物を偽物と悪く言うのは確かに言い過ぎで、失礼な言い回しをしたと私も大いに反省しました。 ただ、この出来上がりを見てしまうとやはり両者は似て非なる物だと言わざるを得ません。 今、一般的に市中に出回っているフロックコートと言われる物は、上述した腰回りのふくらみや、背中の丸いダーツ処理、腰の切り返しなど全くない物が殆どです。(100%と言っても過言ではないと思います。) もちろんそちらの方が作りは当然の事ながら簡単でコストもかかりません。 (イージーオーダーベースで十分な仕上がりが可能です。) 一方で、今回仕上げたフロックコートは市中のフロックコートの3倍は手間が掛かっていますし、腰の切り替え、背中のダーツ、ヒップのふくらみ等々縫製技術的に別次元の物です。 それを同じ言葉で並べ同列に扱うなんて、、、 見た目が似ていれば確かにフロックコートと言って良いのかも知れません。 でも、それを果たして本当にフロックコートと言って良いのか... 大変難しい問題だと思います。 でも、どこかで本物を作るために日々苦しみもがきながら努力をし、工業化の中で安価な製品と比較され、自らの技術を安売りしてまで安価な製品に追随しなくてはならない職人達がいることも忘れないで欲しいです。 きっとこれは硝子細工や木工製品など伝統工芸品でも同様のことが言えると思います。 私はこれまで本稿(お客様いらっしゃい・ありがとうコーナー)では最終的にはお客様の満足が全て、と思って執筆しておりましたが、今回はお客様であるCさんのご満足もさることながら、読者の皆様からの支持や共感もまた大切なことだと今回は痛切に感じました。 何故なら、本稿のような伝統的なフロックコートを読者の皆さんに広く認めて頂かなければ、10年20年後、このフロックコートを仕立てられる職人は絶滅してしまうからです。 (実際3月に紹介した燕尾服のお客様は他店で断られていますし、今回のCさんも何店か断られた上で当店へお越しになりました。) 何十年かたってCさんが「以前仕立てたのがボロになったからまた作って!」と言われた時、私は『スミマセン。もう縫える人がいなくなりました。』とだけは言いたくありません。 私達は何とかこの技術を次世代に残していきたいと考えています。 読者の皆さんはどう思われますか? 東京店ではただ今2名の若手職人(土日のみ勤務梅本君・イ君)を三久服装より派遣して貰っています。 (大阪店へは7/17〜19のオーダー会時に出張します) 機会がありましたら是非、彼ら次世代を背負う職人達の努力や悩みにも耳を傾けて下さい。 どうぞ宜しくお願いいたします。 |